第44話 さてと、贈り物は気に入って頂けますかね。



 フェラー族長を迎えに行ってから2日経って、ゴブリンの移し換え作業が終わった。いやあ、結構掛かったなぁ、、、。まあ、それはそうと、量はどのくらいか気になるね。ということで、早速確認に行く。



「フロストしゃま、ネコしゃん、ウサしゃん、プニしゃーん。」



 そう言ってこちらに走ってきたのはパトラちゃん。この子も中々のモフモフをお持ちだ。こちらに飛びついてきたので、受け止めてモフモフを堪能する。マーブル達も負けじとパトラちゃんにモフモフをお見舞いしていた。後から来たクレオくんもこちらに突進して私にモフモフをお見舞いしてくる。こちらも中々のモフ度である。



 少しいつもとは違うモフモフを堪能した後、ウサギ広場に行って詰め替え完了した袋を確認する。ん? これは少し変更が必要かな、というのも、どれも袋一杯にはなっておらずかなりの余白が存在したからである。そうすると、いくら嫌がらせとはいえ、100メートル立方の袋は勿体ないと思い、少し予定を変更することにした。



 皇帝陛下に献上する袋は100メートル立方のままだけど、3馬、いや、お三方については30メートル立方でギリギリになるため、その方がいいと思ったから。わざと時間経過を入れていないとはいえ、高性能のマジックバッグであることに変わりは無い。猫に小判、豚に真珠などの有り難いお言葉があるけど、今回はまさにそれ以外の何物でもないのだ。ということで、早速マーブルに頼んで容量のサイズ変更を頼んだ。正直別に袋を用意する必要があるかと思ったが、そのままでも大丈夫とのことだったのでお言葉に甘えておいた。



 では中身を確認してみると、それぞれゴブリン×150、ホブゴブリン×15、防腐剤(残り17日)となっていた。防腐剤とは、ラヒラスに頼んで作ってもらった魔導具だが、わざわざ防腐剤と名前を付けてくれたのだろう。しかし、数が合わない気がするけど、確か、農業班が肥料として少し欲しいと言ってたな。すると、合わない分はそれかな。まあ、しっかりと有効利用しているからいいか。



 それとは別にラヒラスに頼んで作ってもらった箱を確認する。うん、どれもいい出来だな。流石はラヒラスだと思う。今回はそれに加えて領内で少し暇だった領民が気合を入れて磨いてくれたらしい。どの箱にも光沢が出て正直彼らに渡すのが惜しくなるくらいだったが、嫌がら、、、いや、『お礼』として渡すのだからここまでしておく必要もあるだろう。皇帝陛下にはエビルトレント製の箱に地龍の素材を入れた袋と、地龍の肉を入れた袋を入れる。ちなみに肉を入れた方の袋は10メートル立方と小さいが、こちらには時間経過しないやつである。お三方(笑)にはダークアルラウネ製の箱に、ゴブリンが丸々入っている袋を入れて完全に準備完了だ。お三方、農地の開発が進むよ、よかったね。嬉しいでしょ?



 本来はそろそろ出発しないと間に合わない状態なのだが、こちらには転送装置があるおかげで一瞬で向こうにたどり着けるから、もう少しこちらでのんびりしていた。その間に、領主館の改築を提案されていたが、正直大きさなんてどうでもよかったのだが、領民達がどうしてもと言っていたので、お言葉に甘えることにした。話を聞くだけでもかなりの大きさになりそうだった。でも、ウサギ広場のある所へは手を付けなかったところに住民の心遣いや野ウサギ族に対する思いを感じる。うん、いいことだ。



 出発までの間に、ジェミニもギルドの作業場にちょくちょく顔を出しては、解体の指導をしていたようだ。数が多いおかげで、解体できる領民も増え、かなり効率がよくなったそうだ。ちなみに今解体している分は本隊が倒した分だけで行っており、私達が倒した分は手つかずとなっている。これはギルドに卸す分を優先させる意味合いが強いのでそうなっただけである。



 そんなこんなで、ついに出発の日を迎えてしまった。嫌がらせとはいえ、面倒なのは変わりは無いので、本音ではあまり行きたくないんだよね。でも、報告もしないとならないからガマンして行くとしましょうかね。


見送りには族長など主要メンバーとアッシュまで来てくれた。



「ご主人、いってらっしゃいませ。」



「兄上、行ってらっしゃいませ。」



「アッシュ。領主代行として、何かあったらお前が判断してみなよ。これも領主の勉強としてやってごらん。」



「わ、私がですか? 正直自身がありません、、、。」



「なに、全部1人で背負うことはないんだよ。困ったらいろいろと相談すればいいだけのこと。あくまで練習だよ。気楽に構えていれば良いさ。フェラー族長もアッシュを支えて上げて。」



「お任せ下さい。アッシュ様をご主人の代行としてサポートします。といっても、いつも通りに過ごせばよろしいのですな?」



「そういうこと、じゃあ、頼んだよ。」



 そう言って、マーブルに転送してもらい帝都に到着した。



 帝都に到着してから、まずはリトン伯爵に挨拶に伺った。とはいえ、今日は拝謁するので軽く挨拶してから王宮へと向かった。話しは行っているのですんなりと通されて、部屋に案内された。部屋についてだが、全開と同じ部屋でメイド達も同じ顔ぶれだった。まあ、貧乏国だからそんなに変化があるわけではないか。しばらくモフモフタイムを兼ねてくつろいでいると、呼び出しがかかったので、案内されるままに進む。いつもの謁見の間かと思ったらどうやら違うらしい。少し小さめの部屋に案内される。とはいっても腐っても帝都だからそれでもかなり広いけどね。



「アイス・フロスト子爵が到着されました!」



 案内してくれた兵士が大声で伝えると、部屋の中に案内される。部屋には皇帝陛下の他、都合の良いことに3馬、いや、お三方、つまりリードレッド宰相、ハブハド公爵、ヒアハード侯爵という構成だった。ちなみにここは謁見の間ではないから、特に面倒な作法は必要ないらしい。



「アイス・フロスト子爵、お召しにより参上致しました。皇帝陛下におかれましては、ご機嫌麗しく。」



「フロスト子爵よ、久しぶりであるな。此度は大変であったな。領内の様子はどうだ?」



「はい、こちらにいらっしゃいますお三方がこちらに伝えて下さったおかげで、何とか乗り切ることができました。領内については所々被害はあれども、少しずつ復興に向けて作業が始まったところです。」



「そうか、それを聞いて安心したぞ。ところで、此度のスタンピードについてお主は援軍不要と言っておったからその通りにしたが、それは何故だ?」



 皇帝陛下が不思議そうにこちらに聞いて来た。ぶっちゃけ楽勝だからお前らは足手まといだからいらねぇ、とは言えないので、無難に答えを返してみた。



「はっ、スタンピードでしたので、なまじ援軍などを要請しますと、その援軍を出してくれた地域に魔物が来てしまうと本末転倒となってしまう恐れがありましたので。また、フロスト領ではまだ開発したばかりですので、最悪壊滅状態になってもどうにかなる、という考えがありました。」



「なるほど、納得した。それで、そのスタンピードで襲ってきた魔物は何だったのだ?」



「魔物でございますが、ゴブリンが500以上、オークが100以上、地龍が2体ほどでした。」



「な、何だと? ゴブリン共の数もそうであったが、地龍もだと?」



「はい、ここにいるマーブル達の活躍もあり、何とか倒すことができました。つきましては、皇帝陛下には手に入れた魔物の素材に献上を、先触れを出してくれたお三方にはお礼の品を用意して参りましたので、どうぞお納め下さい。」



 私の言葉に、皇帝陛下は純粋に喜びの表情を、お三方(笑)は少し引きつった表情をしていた。



「おお、気を遣わせて済まんな、ありがたく受け取るぞ。」



「はい、それではマーブル、例の物を。」



「ミャア!」



 マーブルが可愛い鳴き声(これ重要)とともに右手を挙げると空間が浮き出てきた。それに手を入れて箱を取り出す。もちろん、これは私が空間収納を持っていることを隠す意味合いが強い。ちなみに、マーブル自体も空間収納に近い技能を持っている。というか、マーブルにやってもらっているのが、闇魔法での収納魔法だ。



「おお、このネコは収納の魔法も使えるのか! ますます欲しくなったが、譲ってはくれぬか?」



「マーブルは陛下のお願いといえど聞き届けるわけには参りません。もし、どうしてもと言うのであれば、力尽くで納得してもらう結果になりますが。」



 そう言って殺気を込める。別にこの国に忠誠を誓っているわけではないので、ぶっちゃけ滅ぼそうがどうなろうが知ったこっちゃない。その殺気に当てられてそこにいる人達の表情は青くなっている。ちなみに、私だけではなく、マーブルやジェミニも殺気を放っているから生きた心地はしていないだろうね。



「い、いや、済まん、冗談だ。ところで、その箱に入っているものが余に献上してくれるものなのか?」



「はい、この箱はエビルトレントで作ってある箱です。こちらの箱ごとお受け取り下さい。」



 そう言って、皇帝陛下にエビルトレント製の箱を手渡す。



「これがエビルトレントの箱か。エビルトレントは話しでしか聞いたことの無いくらい珍しい種類の魔樹だな。こんな貴重なものをいいのか?」



「はい、ご遠慮なくお納め下さいませ。しかし、陛下に最も献上したいものはその中身の方です。」



「おお、そうだったな。早速開けてもいいか?」



「はい、中をご確認下さい。」



「そうだな。どれどれ、、、。こ、これは? マジックバッグではないか!? しかも、中身は地龍の素材一式が表示されているぞ!? こちらの方は、地龍の肉だと!?」



「はい、地龍の素材が入っている方の袋は、時間停止こそありませんが、容量が100メートル立方となっており、今後のお役に立つかと思います。また、地龍の肉が入っている方の袋ですが、こちらは5メートル立方と容量こそ小さいですが、こちらには時間停止の付与が付いております。」



「な、何と、これほどのものは今まで見たことがない、、、。ほ、本当に余がもらってもいいのか?」



「はい、どうぞお納め下さいませ。」



「ありがたく受け取っておくぞ。しかし、まだ開発すら満足に出来ておらぬ状態にもかかわらず単独でスタンピードを解決し、更に今厳しい状況にある中で、このような素晴らしいものを余にもたらしてくれた。これは余からも礼をせねばなるまい。」



「いえ、援軍不要という私の要望にお応え頂けただけでも十分です。」



「フロスト子爵よ、そうは言っても、これだけのことをされて、何も無しでは余の沽券にも関わるのだ。そういう訳で、拒否はできぬぞ。」



「は、はあ。」



「素材にしろ、これらのマジックバッグにしろ、我がトリトン帝国に対する貢献は大きい。よって、フロスト子爵は現時点をもって伯爵とする。リードレッド宰相、よいな?」



「は、ははっ、陛下のご命令通りに。」



 リードレッド宰相は渋々頷き、周りのものが動き出して手続きをしていた。



「では、これが任命書だ。受け取り拒否は許さぬぞ。」



 皇帝陛下から任命書が手渡された。



「ありがとうございます。これをもって更にフロスト領の発展に精進致します!」



「うむ、良い返事だ。ところで、ここにいる3人にも渡すものがあったのではないのか?」



「お気遣いありがとうございます。ここでお渡ししてもよろしいですか?」



「うむ、構わんぞ。3人も待ちくたびれていることだろう。」



「ありがとうございます、では、お言葉に甘えさせて頂きます。では、マーブル。」



「ミャア!」



 マーブルに先程と同じ事をしてもらう。先程と違うことは、箱を3つ取り出したが、それぞれマーブルとジェミニにも1つずつ持ってもらったことくらいかな。



「残念ながら、エビルトレントはもうありませんので、その代わりといっては何ですが、ダークアルラウネの魔樹で用意させて頂きましたので、こちらをお納め下さい。」



「なっ、ダークアルラウネだと? これも滅多に手に入らない木だぞ?」



「先日、魔樹が発生しておりましたので、その時に手に入れたものでございます。」



「そうか、基本的に魔樹は探知が難しいと聞く。そのため被害も大きいらしいが、そういった被害は大丈夫だったのか?」



「ご心配頂き感謝に堪えません。幸いにも被害は微少で済んでおりますので。」



「そうか。それならばよかった。おお、そうだ、3人も中身を確認してはどうだ? 遠慮はいらんぞ。」



「は、ははっ。では、失礼して。」



 振り絞るようにリードレッド宰相がそう答えてから、3人は箱を開ける。箱の中にはやはり袋があり、3人は顔をほころばせた。



「お三方にも、マジックバッグを献上致します。こちらも時間経過してしまいますが、30メートル立方の容量があります。また、今後の領土発展となるものも一緒に入れてありますので、ご確認下さいますと幸いに存じます。」



 一応説明しておくと、マーブルが付与したマジックバッグは中身を覗かなくても確認できるように表示される仕様だが、表示させるには袋に触れた本人しか認識できないようになっている。というわけで、陛下には地龍の肉と素材が入っていたので、3人は地龍とはいかなくてもそれなりのものが入っていると期待したのであろう、嬉しそうに袋の中身を確認しようと袋に触れた。



「っ!!!」



 興奮で赤みがかっていた顔色が一気に青くなって硬直している。ハブハド公爵が恐る恐る尋ねてきた。



「フ、フロスト子爵、いや、伯爵、、、。こ、これは一体?」



「お喜び頂けたようで何よりでございます。中身を確認頂けたようで。これはご領地の発展に大きく寄与できるものと確信してご用意致しました。」



 訝しんだ皇帝がハブハド公爵に尋ねる。



「ハブハド公爵よ、顔色が悪いがどうしたのだ?」



「い、いえ、あまりの量に些か驚きまして、ははは、、、。」



「そうか、フロスト伯爵の好意だ。遠慮せず受け取るといいぞ。」



「は、ははっ。」



「それにしても、フロスト伯爵よ、大義であった。これからも頼むぞ!!」



「ははっ! では、これにて失礼致します。」



 皇帝陛下に貴族の礼を捧げてこの場を後にする。さてと、彼らはどう出てくるかな。嫌がらせの第一弾はうまくいったな。第二弾が必要になるかどうかはわからないけど、一応用意しておきますかね。



 あ、そうだ、リトン伯爵が帰りに寄っていけと言っていたな。数日は泊まる必要があるかも知れないけど、1泊くらいで勘弁してもらいますか。フロスト領も気になりますしね。



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