第30話 さてと、まずは元気になってもらわないとね。

 近くの集落から住民が領都フロストへと移住して住民が約40名となった。ついに念願の住民が手に入ったぞ!! と、喜んでばかりもいられない。結構深刻な問題点もあるのだ。それはもちろん、殺してでも奪い取るをされた訳ではなく、住民達そのものにあった。というのも、住民達は例外なく飢餓状態での長年の生活を余儀なくされていたため、すぐに働けるほどの体力を持つ者はほとんどいない。そして、これは個人的な意見なのだが何より衛生状態がよろしくない。というわけで、まずはこれらを改善していかなければならない。



「そういうことで、ラヒラス、頼んだ。」



「いや、いきなり唐突もなく「そういうことで頼んだ。」と言われてもわからないよ。」



「新たに来てくれた住民達を見て察しなさいよ。」



「いや、察しろと言われてもねぇ。で、アイス様、具体的には俺は何をすればいいんだい?」



「ラヒラスは魔導具の製作を頼む。住民達の衛生状態が非常によろしくないからね。」



「なるほど、わかったよ。最初からそう言ってくれよ。察するにしてもいろいろありすぎて優先順位をしっかりと付けてくれないと。」



「ごめん、調子に乗ってた。で、具体的には風呂と洗濯場と排泄処理だね。」



「うん、わかった。けど、住民達一人一人には無理だよ、今のところは。魔石がほとんどないからね。通信用の魔導具でほとんど使っちゃった上に、周辺探索では一切使わなかったからねえ、正直勿体ない気がするけど、その辺はどうなの?」



「まあ、通信道具は後で使う場面もあるでしょ。それはそうと、今現在はダークオークの魔石が残り3個しかないけど、その3個でどこまで作れる?」



「一応、その3個があれば、風呂と洗濯場と排泄処理については大丈夫だよ。ただ、さっきも言った通り個人個人には無理だから、公衆用として大型化すれば問題ないかな。あの魔石1つで100人用サイズのものは作れるから、そうしてもらえると大丈夫かな。」



「ああ、元よりそのつもりだったから、それで頼むよ。」



「わかった。で、これらの順番を頼むよ。」



「そうだな、排泄処理が1番で、その次は洗濯場、最後に風呂場かな。」



「了解、それでいいと思う。」



「じゃあ、頼んだよ。」



 ラヒラスに魔導具作成を頼んだ後、アインを呼んだ。



「アイス様、俺に何か仕事か?」



「うん、アインは住民が怪我をしていたりしたら、治療を頼みたいんだ。」



「それはかまわないが、彼らはまだ栄養が足りていないから、治癒術を施してもそれほど効果はないぞ。」



「そういうもんなの?」



「ああ、他の人の場合はわからないが、俺の場合は相手の自然治癒力を増幅する感じかな。だから、ある程度栄養が行き渡っていないと治癒効果もそれほど出ないんだ。」



「でも、あの状態のトリニトでも結構な人数治癒していたよね?」



「確かに以前のトリニトの住民もひどかったが、来てくれた領民達はそれ以上にひどいんだ。だから効果が薄かったり効果なしの場合もあるが、それでもいいか?」



「それはそれで仕方がないかな。これからはしっかり食事を摂ってもらうから、今は効果が薄くともやらないよりは大分いいと思う。というわけで、頼んだよ。」



「わかった、俺がやれることはやっておく。」



 アインにも仕事を頼んだ後、今度はウルヴを呼んだ。



「アイス様、お呼びでしょうか?」



「うん、ウルヴにはこれからトリニトへと行ってもらう。」



「私をトリニトへ? それはかまいませんが、どうかなさいましたか?」



「うん、これから領民達の家を作らないといけないから、トリニトから大工達を呼んできて欲しいんだ。」



「ああ、なるほど、確かに今のままだとまともな家ないですからね。」



「そういうこと。一応魔物の素材はたくさんあるから、皮などを使ってテントみたいなものを作ってしばらくは当座をしのぐつもりだけど、彼らだけでなく、これから来てくれる領民達のためにも住居は用意しておきたい。とりあえず数は50軒くらい、材料はこちらもちで、期間も費用もそちらの言い分でかまわない旨を伝えて、お願いしてきて欲しい。」



「わかりました。それで伝えた後は、私はそのまま向こうにいればいいですか?」



「いや、一旦こっちに戻ってきて欲しい。具体的な返事を聞いておきたい。」



「わかりました。それでは行って参ります。」



 さてと、3人にはそれぞれ指令を出したが、私達はどうしようかな。魔物の肉や採集物はまだ種類も量もそこそこあるから、しばらくは大丈夫そうだけど、手持ち無沙汰なのは否めないな。よし、肉は出しているけど内臓はほとんど使っていなかったな。こういうある程度時間的に余裕のあるうちに仕込んでおきましょうかね。あ、そうだ、その間にマーブル達に狩りをしてきてもらいましょうかね。



「私はしばらく内臓調理の仕込みをしなければなりません。それにかかりっきりとなってしまいますので、君達は暇になってしまいます。このまま普通に遊んでくれても問題はないのですが、折角なので任務を与えたいと思いますがどうでしょうかね?」



 私がこう言うと、マーブル達はこぞって賛成の意を示してくれた。流石は私の可愛い猫達だ。



「ありがとう。では、任務を与えます。マーブル、ジェミニ、ライムの各隊員達はこれから肉の調達をお願いしたいと思います。今までは少人数だったので、消費は少なめでしたが、今は新たに領民達がおりますので、蓄えは多い方がよろしいと思いますので。」



「ミャッ!」



「了解です!!」



「ボク、がんばるよー!」



 3人は敬礼のポーズを取る。



「ありがとう、では、任務開始!!」



 私が開始を宣言した途端、3人は西の森へと飛び出していった。それを確認して内臓の仕込みに戻った。内臓の仕込みは時間がかかるし、時間をかけた方がいい、それ以上に栄養状態の悪かった住民にいきなりしっかりとした肉料理を出しても胃が受け付けないことも多いため、できるだけ消化しやすいようにできるだけ柔らかく仕上げないといけない。それ以上に美味い物を食べて早く元気になってもらいたい事の方が大きい。



 じっくりと仕込むこと数時間、夕食の時間も近づいてきたとき、任務を与えた彼らも戻ってきた。では、報告を聞くとしましょうかね。最初はマーブル達かな。ライムの声も聞きたいから、みんなから離れておかないとな。



「ミャー!」



「アイスさん、大漁でしたよ!! ワイルドボアやマーダーディールを始めとしたお肉がたくさん手に入れたです!!」



「ボクも頑張ってキレイにしたよ-!!」



「おお、みんな任務ご苦労様。他にも何か見つかったかな?」



「はい、ダークオークを始めとした魔樹がこちらにも結構いたです!!」



「おお、そうか。それはいいことを聞いた。後日魔樹狩りといきましょうかね。」



「ミャー!」



「行くです! 木材たくさん手に入れるです!!」



「ボクもたくさん倒す-!!」



「うん、みんなにも期待しているよ。」



 よし、食料や木材、あとは魔石の目処が立つな。最低限これで住民達の生活もどうにかできる。では、アインとラヒラスの報告を聞こうか。流石にウルヴはまだ戻ってないか、って戻ってるし。どれだけ跳ばしてきたんだよ、、、。まあ、いいか、早いに越したことはないしね。



「じゃあ、まずはラヒラスからかな。進捗状況はどうかな?」



「頼まれた魔導具は完成してるよ。あとはどこにそれらを設置するかかな。」



「おお、もう出来たのか。」



「大きさはともかくとして、何度か作っているしね。念のため排泄処理に関しては、転移魔法を入れておいたけど、それでよかったかな?」



「ああ、助かるよ。排泄物処理施設は離れたところでやった方がいいと思う。」



「そうだね。一応予定としては排出したてのものをまずは転移させて、一カ所にまとめる。で、まとめたものを処理する。で処理が終わったものは、肥料貯めみたいなものを用意してそこに転移させる感じでいいかな。ただ、これからのことを考えるとこれらを数カ所作らないとならないけど、魔石の目処はどうなっているかな?」



「それでかまわない。魔石については大丈夫そうかな。さっきマーブル達からの報告でここでも魔樹が現れることがわかったから。」



「それは助かるね。では、いくつか作る方向でいってみるよ。」



 排泄物処理施設は居住区域とは逆の方向に作っておくこと、処理が完了して肥料となったものを貯めておく場所は今後開拓していく予定の場所に作っておくことなどを簡単に話してこの件は一旦終了。どうせ後で変更するだろうから。まずは最低限当座をしのぐ、というよりもこれからのことを考えて一通りの流れなどを確認しておきたい。



「では、次はアインかな。」



「うん、やはり思った通り効果は薄かったな。とはいえ、治療しておいてよかったと思える人は結構いたな。」



「なるほど。ただ、先程も言った通り、これからしっかり食事も摂ってもらうから徐々に体力はついてくるんじゃないか?」



「そうだな。これからもこまめに活動は続けるとしよう。」



「そうしてくれるとありがたい。ただ、他にも頼みたいことはあるから、申し訳ないけど手の空いたときに頼むよ。」



「もちろんそのつもりだ。」



「さてと、最後にウルヴだね。かなり跳ばしてきたみたいだけど、大丈夫?」



「お気遣いありがとうございます。慣れてきたのもあり、この程度は大した疲労にもなりませんでした。むしろ私だけが楽をして申し訳ないくらいです。」



「あの距離をわけもなく往復してそれかい、すげえな、、、。まあ、それはそうと、大工達の返事はどうだった?」



「喜んで引き受けるとのことでした。ただ、向こうでも少しばかり建築依頼がでており、それが片付いてから専念したいとのことで、1ヶ月後を目処にしたいそうです。その代わりに1軒金貨10枚で受けてくれるそうです。一応その条件で頼んできましたが、宜しかったでしょうか?」



「なるほど、1ヶ月もあれば、住民達の体力も回復しているな。うん、それでかまわない。よくその場で了承してくれた。彼らの腕はかなりのものだから、今頼んでおかないと、後で大変なことになるからね。よし、これでフロストの町はどうにかなりそうだな。」



 どの報告もいい結果に終わってホッとしているのが正直なところだ。あとは、住民の健康状態がどこまで良くなってくれるかかな。こればかりはわからないけど、できるだけのことはしていこうか。



 いい感じで夕食の準備が整ったので、領民達と一緒に夕食を摂ることにした。食器については余り気味だったダークアルラウネの木材を使ってマーブル達に急遽作ってもらった。しばらくはスープ系がメインとなるため、そこそこの大きさだけど、とにかく数が必要だったため、まずはジェミニが手頃な大きさにカットして、マーブルが風魔法でいい感じに成形し、おがくずなどをライムがキレイにしていく。先程の狩りで獲物をたくさん獲れたことでご機嫌だった我が猫達が張り切ってくれたので、あっという間に人数分以上の食器を作り上げてくれた。それを見ていた住民達は唖然とするばかりだった。出来上がった料理を全員に分けてこれから夕食の始まりだ。



「では、食べる前にみんなに伝えたいことがある。みんな、よく来てくれた。心から歓迎する。約束したように食事などの生活は必ず守る。まずみんなにしてもらいたいことは、タップリと食べて元気になってもらうことだ。本来ならタップリと肉料理を堪能してもらいたいところだが、まだみんなは食べることができない。これは仕事をしていないからではなく、今食べても肉を受け付けず吐きだしてしまうからだ。だから、今はこれをしっかりと食べてタップリと肉料理を食べられるように元気になってもらいたい。」



「領主様、とんでもねえだよ。こんなにたくさん飯を用意してくれるだけでもありがたいだよ。逆に何もしてないのにこれだけの飯をいただけるなんて申し訳ないだよ。」



 元集落の長がそう言うと、他の者達も一斉に頷いた。



「それについては、元気になった後しっかりと働いてくれれば問題ない。まあ、これ以上話しをしてしまうと折角の夕食が冷めてしまうな。では、みんな、お腹いっぱい食べて欲しい。では、ご飯となってくれた魔物達や植物たちにも感謝の気持ちを込めて、頂きます!!」



「「「「「「いただきます!!」」」」」」



 夕食は楽しいひとときであった。私を含めてウルヴ達も住民達に混じっては大いに語り合い、心の距離を縮めていくことが出来たと思う。それ以上にマーブル達は大人気でこの距離を縮めるのに大いに役立った。特に最初はおびえ気味だった子供達もいつのまにか元気になりこちらにもちょっかいを出してくるくらいにまでしてしまった。まあ、マーブル達の可愛さを見れば当然と言えば当然かな。



 こうして大成功に終わった夕食会を経てから、日々元気になっていく住民達が増えてくれたおかげで、開発も進むようになっていった。1ヶ月どころか1週間くらいで全員が問題なく働ける状態になったので、改めて役割分担を行おうと思ったが、以前いた集落は昔からあんな感じだったらしく、専門職のようなものは存在しなかったので、逆に何か仕事を一通りさせてみて興味を持ったり見所のありそうな仕事に振り分けていくと、結構キレイに分配することができた。



 しかし、畑などの農業系に向いている人が少なく、この件についてはできるだけ早く解決していかなければならない。まだまだ人手は足りていないのが現状だが、今できることをしていくしかない。今現在はラヒラスに頼んで農業用の魔導具を作ってもらっているが、いずれはそれに頼ることなくできるようにしていく必要もある。



 とはいえ、これで開発の目処が立ち始めたのは間違いないので、このまま順調に進んでくれたらと切に願うばかりだ。

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