第22話 さてと、王都に着きましたね。

 街道沿いに進むと入り口が見えてきた。ようやく帝都トリトンへと到着する。城壁に囲まれてはいるが素材についてはそれほど大したものは使っていなさそうだが、異様に分厚いのが印象的だった。正面には門が2カ所あり、真正面は大きな門、少し外れて左側には小さな門があり、大きな門の方には門番が数名いるだけだったのに対して、小さい方の門には少し行列ができていた。何か見覚えのある光景だったが。まあ、それはいいとして、今の私は一応伯爵家の長男なので、基本的には大きな門の方から入るらしいが、今のいでたちは、どう見ても一般庶民の格好と変わらなかったが、仮にも皇帝陛下から呼び出しを受けている身だし、その手紙も持参しているので、大きな門に向かった方がいいんだろうなあ。ということで大きな門を目指す。



 大きな門に到着すると、門番に止められる。そりゃ、当たり前だよな。貴族の格好ではなく普通に一般庶民と同じ格好だもんな。とはいえ、個人的な貴族用の服は実は持っていなかったりする。フレイム伯爵家では、弟のアッシュが継ぐことは最初から決められていたので、それらしき衣装を与えられたことがないという背景があったりする。



「止まれ、何者だ? 一般市民はこちらではない。」



「役目ご苦労、私はフレイム伯爵家が長男、アイス・フレイムである。此度は皇帝陛下からのお招きに応じてこちらに伺った。」



「はっ、お前が伯爵家の長男だと? 馬鹿も休み休み言え。偽の報告で罪に問われたくなければ早々に向こうの門へと向かうがいい。」



「こちらは皇帝陛下からの招待状だ。検めてくれ。」



「確かに、皇帝陛下からの招待状で間違いない、とはいえそのような格好の人間が持てるようなものではない。フレイム伯爵家から盗んだものではないのか? これは私が預かっておく。入りたいのなら向こうの門から正式な手続きを取ってくれ。くれぐれも帝都で騒ぎなど起こすなよ。」



「はあ、まあ、疑われるわな。仕方がない、向こうの門から入るとしよう。門番、役目大義であった。」



 普通なら貴族に対して無礼きわまりない態度ではあったかもしれないが、こんな格好では仕方がない。あの門番達はしっかりと自分たちの役目を果たしている。まあ、とりあえず皇帝陛下から呼ばれたから来たよという行動はしっかりとったので、後は呼ばれた当日まではのんびりと過ごしましょうかね。あと3日しかないけどね。



 小さな門へと行って、行列の最後部に並ぶ。小さめながらも入り口では2つに別れてそれぞれ検問らしきものを行っていた。すんなり入れた人達もいれば、捕まっていろいろと質問をされている人もいたりする。私達はどっちになるのだろうか?



「アイス様、貴族なのに大きな門を通過できなかったよね?」



「まあ、仮に貴族とはいえ継承権を持たない子供だし、何より貴族の格好じゃないからね、これも致し方ないよね。さっきの門番達は自分たちの仕事をしっかりしていたよ。」



「なるほど、俺的には無礼極まりない態度だと思ったけど、確かにその通りなのか。」



「それよりも、この門から入るとなると、どうする? 身分を偽る?」



「ああ、そっちの方が良さそうだね。フレイム伯爵家の名前は出さないでおくか。」



「その方がいいかも。」



 そんな会話をしていると、私達の番になった。



「帝都トリトンへよくぞ参った。身分証は持っているか? もし無いようであれば、1人につき銀貨2枚を払ってもらう。そこにいる動物達については1匹につき銀貨1枚だ。」



 私はギルドカードこそなかったが、冒険者ギルドから貯金カードのようなものはもらっているので、これで身分証明できるだろう、というか、身分を示すものはこれしかない。皇帝陛下からの招待状は先程の門番に没収されてしまったしね。ということで、身分証を提示する。



「うん、確かに確認したが、そこの猫とウサギの分はもらわなければならない。2匹だから銀貨2枚頂こう。」



 門番に銀貨2枚を支払って門を通過しようとしたが、通過する前にオススメの宿などを聞こう。



「門番さん、もしよろしかったら、ペット可でいい宿があるか教えてもらえます?」



「宿か、なるほど、トリトンは帝都だけあって、宿はたくさんある。ただ、ペットというか従魔可という宿となると数は一気に減る。お前達は1日で金貨1枚払えるのであればいいところがあるぞ。」



 その高いけど門番オススメの宿の場所を教えてもらって、最初はそこへ向かう。というのは、そろそろ暗くなってきているからだ。帝都だけあって、周りに魔物などがほとんどおらず、野宿して狩りというのは厳しいし、やる意味も無い。というわけで宿に向かっているわけである。



 帝都トリトンは市民街と貴族街と王宮(というか帝宮? 言いづらいから王宮で統一、異論は認める)の3区域に分かれている、といえば何か華やかなイメージがあるかもしれないが、そこはトリトン帝国、ぶっちゃけ区画分けされているとはいえ、一言でいうと、ショボい、これしか出てこない。最初にトリニトに来た時の状態に毛が生えた程度、そんな感じだ。そういう訳だから今のトリニトの方が幾分マシな状態かな。そんな帝都を街道沿いに進むと次の城門があった。恐らくこの先が貴族街ということなんだろうな。その市民街と貴族街の境目付近にその宿はあった。周りの景色から浮いているのは否めないが、なるほど、良さそうな宿だ。早速入ることにしようか。



「いらっしゃいませ! うみねこの宿へようこそいらっしゃいました!」



「宿泊をお願いしたいのですが。」



「ご宿泊ですか? 当宿では現在、3人部屋が2つ、2人部屋が2つ、1人部屋が3つ空いております。」



「では、3人部屋と2人部屋を1部屋ずつ頼みます。」



「はい、3人部屋と2人部屋を1部屋ずつですね? 1泊につき朝と夕の2食つきで、3人部屋は金貨2枚、2人部屋は金貨1枚いただきますがよろしいですか?」



「はい、それでお願いします。」



「ありがとうございます。そう致しますと、1泊で金貨3枚となりますが、何日宿泊されますか?」



「では4日間でお願いします。」



 謁見は3日後となっているので、念のためだ。金貨12枚なら問題ない。



「はい、そういたしますと、金貨12枚ですが、先払いでお願いできますか?」



「では、これでお願いします。」



「確かに4日分頂きました。延長なさる場合は追加で頂ければ問題ありませんので、そのときはおっしゃってくださいね。」



「わかりました。」



「では、お部屋に案内しますので、こちらへ。」



 金貨12枚を支払って案内される。借りた2部屋は都合のいいことに隣接した場所だった。鍵を受け取りそれぞれ部屋に入る。部屋割りはもちろん、2人部屋は私とマーブル達が泊まり、3人部屋にはウルヴ達が泊まる。特に何も言わなくてもそういった感じで別れる。



 部屋に案内されると、従業員が説明してくれた。部屋はなかなか綺麗で、従魔達も泊まれるように床が特にしっかりとした造りになっていた。部屋にはそれぞれトイレと浴室が備わっていたのが嬉しい誤算だった。その他としては、通信の魔導具が置いてあり、何か用があるときにこれを使って呼び出せばいいそうだ。各食事についてもこの魔導具を使って頼めば届けてくれるらしい。



 ウルヴ達がこちらに来たので、軽く明日以降の予定などを話し合う、といっても当日まではここでのんびりする予定なので、朝と夜に簡単な報告や連絡事項などを確認するだけで、残りの時間は各自自由ということで解散した。実際、招待状は没収されているので、謁見が行われるかどうかはわからないし。



 夕食を頂いたが、味はそこそこだった、まあ、トリトン帝国だし、そこは仕方がないのかも知れない。とりあえず風呂があるだけでもこの宿は泊まる価値があるだろう、トリトン帝国内では、、、、。



 夕食後、ライムがどうしても気になる汚れがあるということだったので、綺麗にしてもらう。というか、こっちでは全く気付かない場所だったけど、ライム的には気に入らなかったらしい。ライムにお礼のおにぎりの刑を執行したのをきっかけにモフモフタイムに突入した。



 モフモフを堪能していると、宿の従業員が来たので何かと思ったら、王宮からの使者だそうで、こちらに案内してもらった。こちらに来たのは使者と覚しき人物と私を追い払った門番の2名だった。何故か2人とも青い顔をしていた。



「アイス・フレイム様、今回のことは誠に申し訳ありませんでした!!」



 使者がそう言って土下座する。それに合わせて先程の門番も土下座をした。



「この者がアイス様に対して無礼を働いたどころか、皇帝陛下からの招待状を没収してしまい何とお詫び申し上げたらいいのか、、、。」



「顔を上げて下さい。今回の件についてはそちらの門番の方に不備はありません。むしろしっかりとご自分の役目を立派に果たしていると思っておりますので。」



「いえ、この者はアイス様に、、、。」



「し、知らぬ事とはいえ、申し訳ないことを致しました。どうぞ存分に処分をなさってください。」



「嫌みで言っているのではなく、本心でそう言っているのです。こちらの門番が皇帝陛下からの招待状を仮に没収したとしても、こうしてそちらに届け出なければこのことはわからなかったのです。このことがわかったというのは、しっかりとご自分の役目を理解し、行動したからこそわかったことなので、役目を見事に務めたことによる誉れこそあれ、処罰するのはよろしくないと思っております。」



「「ありがとうございます!!」」



 2人はそろって再び土下座した。



「と、ところでアイス様、こやつが申すには、身なりが貴族ではなかったとのことですが。」



「はい、こちらの門番の方に手紙を渡したときの格好はこれでしたね。そりゃ、怪しむでしょう。くどいようですが、彼は褒められこそすれ、罰する理由なぞどこにもありませんよ。」



「でしたら、なぜアイス様はそのような格好で来られたのでしょう?」



「御使者殿、貴殿もある程度耳になさっているとは思いますが、我がフレイム伯爵領では、長男である私ではなく弟のアッシュが次期当主として早いうちから決められておりまして、私には貴族の服などは買ってもらったことはおろか、着たことすらないのですよ。そういうことですから、正直格好のことはすっかり頭から抜け落ちてしまいまして、、、。」



「な、なるほど、そういうことでしたか、納得致しました。」



「ところで、ご用件とはそれだけですか?」



「あ、し、失礼致しました。まだお伝えしたいことがございました。」



「伺いましょう。」



「はい、謁見の儀でございますが、予定通りに執り行われるとのことです。」



「承知しました。3日後に皇帝陛下の元へお伺い致しします、とお伝え下さい。あ、それと、」



「それと?」



「こちらの門番の方のような任務に忠実な方は大事にするべき人材であり、決して罰してはならない、ともお伝え願えますか。」



「承知致しました。間違いなくお伝え致します。」



 そう言うと2人は立ち上がり、部屋を出るとき改めてこちらに礼をしてきたので、こちらも礼で返した。正直気乗りはしないのだけど、改めてこうして告げられると行かないわけにはいかないよな。まあ、一応これが今回の目的だし仕方ないか。



 本心では没収されたのをいいことに、帝都を観光して帰ろうかなとも思っていたので、これは少し誤算だったが、こんな国でも任務に忠実な、しかも、一門番みたいな人に出会えたのは収穫だったかもしれない。まあ、ここを離れたら2度と会うことはないだろうけど。



 そんなことを考えながら再びモフモフタイムを堪能してこの日は終わった。

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