第18話 さてと、出発です。



 テシテシ、テシテシ、ポンポン、さて、朝か。いつものようにマーブル達と挨拶を交わして朝食の準備をする。準備している間にウルヴ達も起きて台所にやってきた。朝食を食べ終えてからみんなに伝える。



「これから父上に出発の挨拶をしてくるから、3人はそれまでに出発準備をしておいてほしい。」



「承知しました。昨日の段階でほぼ9割は完了しておりますので、あとは細かいものだけですかね。」



「一応ここに最初からあったもの以外は持っていくからそのつもりで。」



 そう伝えて屋敷へと向かう。一応昨日のうちに父上に会うことは伝えてあるのと、アッシュからも言われていたらしく、すんなりと通された。



「父上、お早うございます。」



「アイスか、これから出発するのか? 帝都まではかなり距離があるが、大丈夫なのか?」



「それについては問題ありませんのでご心配なく。それで出発の挨拶と試しに作ったものがあるので、それを父上にと。」



 そう言って、オーガジャーキーの入った袋を手渡す。



「これは?」



「今まで食べたことのない食べ物です。詳細については後でアッシュから聞いてください。味は保証しますよ。」



「そうか、ありがたく受け取っておこう。では、アイスよ、無事に帝都へたどり着くのだぞ。」



「はい、父上、行って参ります。」



 父上の居室から出て、今度はアッシュの部屋へと向かう。部屋の入り口には衛兵が控えていたが、取り巻きだったため、すんなりと通された。



「アッシュよ、入るぞ。」



「あ、兄上、お早うございます。これから出発ですか?」



「うん、これから出発する。で、昨日アッシュに約束したものを渡しに来たんだ。」



 そう言って、オーガジャーキーの袋をいくつか渡す。



「あ、これがそうなんですね? 早速中を見てよろしいですか?」



「ああ、確かめてくれ。」



 アッシュは興味津々で袋の中からジャーキーの1つを取り出した。



「これが、オーガの肉ですか? 何やらいいにおいがしますね。」



「案外クセになる味だと思う。ただ、最初はそれほど味はないから何度も噛んでみてくれ。」



「では、早速。・・・ん、なるほど。確かに兄上が言っていたように最初はにおいがあるくせに味がしませんが、噛めば噛むほど味が出てきますね。うん、これは美味しいです。」



「そうか、気に入ってくれて何よりだ。約束通りレシピを教えるけど、恐らく今すぐは無理だと思うから、できるようになるまでは我慢してくれ。」



「ふむふむ。なるほど、確かに今のトリニトでは無理ですね。しかし、いずれは作れるようにしてみせますよ。」



「ああ、期待しているよ。一応、オークなどの食べられる肉でも作れるけど、オーガなどの筋肉ばかりで脂が少ない種類の方がジャーキーに向いている。ただ、ゴブリンはこれで調理しても美味しくないからそのつもりで。」



「はい、それも頭に入れておきます。」



「じゃあ、これから帝都に向かうから私はこれで。」



「本音はもう少し兄上に鍛えて欲しかったのですが、気をつけて行ってきてください。」



「ありがとう、ではトリニトを頼んだぞ。」



 そう言って、アッシュの部屋を出て、衛兵として勤めている取り巻き達からも挨拶を受けて屋敷を出る。


離れ小屋に戻ると、マーブル達が出迎えてくれた。しばらくモフモフとプニプニを堪能してから食堂に向かう。3人は待機しておりいつでも出発できるとのこと。



「今日の予定だけど、トリニトを出てから木騎馬で帝都を目指す。普通に街道を行くのはまずい。これは当初の予定でも話したと思う。で、ラヒラス、人数分の木騎馬は用意できているかな?」



「大丈夫だよ。木騎馬は30騎完成している。以前50騎だったけど、少し改良する点があって、改良するのにいろいろいじっていたら、30騎に減っちゃってね。まあ、最低3騎あれば大丈夫だよね。」



「確かに、今は最低3騎あれば問題ないな。で、ウルヴ用の魔導具は完成しているかな?」



「それは大丈夫。いい感じで仕上がっているよ、フフフ、、、。」



「ウルヴ用? 俺には無いのか?」



「アイン用のは無いよ、というかそれについてはウルヴ専用だね。」



「ウルヴ専用か、あっ、なるほど、そういうことか、わかった。」



 アインも最初こそ自分用の魔導具が無いことに不満を見せたが、ラヒラスの言葉から何かを察したらしく納得していた。



「私専用? 何か嫌な予感がするけど、、、。」



 ウルヴは不審な目をラヒラスに向ける。



「ははっ、ウルヴよ、そんな目を向けるな。ウルヴ向けの戦闘用の魔導具だ。戦闘時に槍を出したりするときに必要な魔力を押さえたりする補助的なものだから安心して欲しい。」



「アイス様まで、、、。まあ、戦闘に関してはみんなより劣るのは自覚しているので、そういった意味ではありがたいのですが、何かそれだけではないような気がします。」



「気にしたら負けだよ。じゃあ、ウルヴ、これが魔導具なんだけど、これを腕に付けて欲しい。下手な籠手を装備するよりも防御力も高いし、魔樹でできているからもの凄く軽いよ。」



 そう言ってラヒラスがウルヴに魔導具を渡す。魔導具を受け取ったウルヴは右腕に装着してみた。



「身につけた感触はどう? 正直な感想が欲しいな。」



「うん、いい感じだな。確かにもの凄く軽いな、これは。とりあえずありがとう、と言っておくよ。」



「ところで、ラヒラスよ、君は大丈夫なのか? アインとウルヴについては戦い方などを見ているからわかるが、ラヒラスは戦闘向きではないよな?」



「ああ、確かに俺は戦闘向きではないけど、大丈夫だよ。自分用の魔導具をしっかりと用意しているから、道中で何かあったら披露するよ。」



「うん、じゃあ、その時を楽しみに待つとしますか。では、出発するけど準備はいいかな?」



 3人は頷いた。それから今回用意した道具などを空間収納に入れて離れ小屋を出て、一通り挨拶をしてからトリニトを出た。



 トリニトを出発するまではマーブル達は私の近くで一緒に歩いていたが、少し進んでからマーブルは左肩、ジェミニは右肩、ライムは腰袋にそれぞれ移動した。いわゆる定位置というやつだ。



 しばらくは街道を歩いていたが、往来する人はほどんどいなかった。トリトン帝国の国力というか様子がうかがい知れる感じだった。ただ、人がいないとはいえ、木騎馬の存在は隠しておきたいので危険なショートカットとも言うべき山道へと進み、そこで木騎馬を出し、4人でそれぞれ木騎馬に跨がる。



「うん、跨がった感じでは以前と変わりないけど、改良点って何?」



「改良点ね、改良点は移動時の負担を軽減するために、鞍にクッションが入った。これで尻の痛みをかなり軽減できるようになった。あと、消費魔力を以前の半分に抑えた感じかな。具体的にはウルヴの魔力量でも一日全力で走れる位には少なくできているはず。」



「ラヒラス、ありがとう。これで私も道中でアイス様をしっかり護衛できるよ。」



「いや、まだまだ改良していくよ。目指すのは魔力0のアイス様でもマーブル君達なしで動かせるようにしたいからね。」



「いや、そこまで気を遣わなくてもいいぞ。」



「いや、そっちじゃなくてね、俺らもマーブル君達を乗せて一緒に移動したいの。」



「なるほど、それについては断らせてもらう。」



 そんな遣り取りをしながら木騎馬の乗り心地を試すように進んでいく。試すように進んではいるが、すでに普通の騎馬よりも速く進んでいるのは気のせいだろうか? 流石にウルヴには遠く及ばないが、私達も騎乗に慣れてきているのは実感できる、が、これに慣れてしまうと通常の馬は乗れないな。乗れるとしてもせいぜい半日の距離といったところかな。騎乗の機会はそれほどなさそうだけど、通常の馬もある程度乗りこなせるようにはしていきたい。ラヒラス曰く、木騎馬でも通常の馬のような乗り心地にはいつでもできるとのこと。ただ、今回に関しては日程に余裕がないので、改良型の恩恵を思いっきり受けての移動にしますか。



 道中は恐ろしいくらいに順調だった。何事も無く進んでいる上、山道とはいえ周りはほぼ森、しかも植生が同じらしく、景色が全く変わらない。何か馬みたいな遊具に跨がっているだけで景色だけがグルグル回っている、そんな感じだ。刺激というか何というか、たまに何かがぶつかった感じがするけど、それでも虫がぶつかった程度の感じでしか無い。ん? ぶつかった? まさか、ね、、、。



 木騎馬の頑丈さについて理解が甘かった。それに気付いたのは、しばらく進んでいると道を封鎖するような感じで武器を持った不潔きわまりない存在が何人か待ち構えていたのだ。こちらとしても相手にする気は全く無いので、問答無用で突っ込んでいこうと気を入れ直して突破をはかると、そこにいた不潔きわまりない存在はもちろん木騎馬の餌食となり吹き飛ばされるが、奴らも一応人間だ。それなりに重量もある。いくら木騎馬が頑丈だからといっても、吹き飛ばした衝撃は少なからずあるはずだ。しかし、今回その衝撃はほとんどなく、先程感じた虫がぶつかったかそれ以下の感触しか感じなかった。



 更に今更感が強かったが、ようやく気付いたのは、これだけの速度で進んでいるにもかかわらず、普通に会話ができていることだ。この世界に転生する以前に乗っていた自動車でならそれもわかるが、今乗っているのは魔導具とはいえ馬だということだ。考えなくてもこれはもの凄いチートな存在だ。これを平然と作れるラヒラスって、一体何者?



 周りも暗くなってきたので、ある程度開けている場所に移動して、転送ポイントを作ってもらい、ねぐらに移動した。



 ねぐらに到着したら、最初にやることは夕食の準備だ。調理道具はねぐらにあるし、食器類は離れ小屋から持ってきたので十分だ。食材についてはねぐらにあった肉があったのでそれを使った。ただ、スガープラントのストックが心許なかったので、補充することにして、外に出ると、気を遣いながらもそこそこの広範囲にスガープラントが実っていた。



 大量に生えていたスガープラントを見て、ジェミニと出会ったときの頃を思い出したら、3人が興味深そうに聞いて来たので、一部内容を変更して伝える。一冒険者だった頃に出会って、転生後にも一緒に来てもらったのが事実だが、流石にそれは話せないから、狩りに出かけてマーブル達に出会った日(今の状態に転生した日、なんて言えないからね)に出会ったことを話し、引っこ抜けなかったから掘ったといったことを話したら、力自慢のアインがやる気を見せた。



「アイス様はともかく、マーブルやジェミニもいて抜けなかったのか? 俺が試しに引き抜いてみていいか?」



 お、それは少し見てみたいな。マーブル達を見ると、同じ考えだったらしく嬉しそうにその場を走り回る。それを見たアインは嬉しそうに一番大きそうなスガープラントの所に行き、その茎を掴むんで、「ふんっ、」と気合を入れて引っ張ると、何と、スガープラントが引っこ抜かれた。え? あれ、あんなにあっさり引っこ抜けるの? あれ引っこ抜いたときって、特別種のオークやオーガといった力自慢がいた上で、何度も綱引きみたいに息を合わせてようやく引っこ抜けた代物だよ? いや、どれだけ腕力あるんだよ? 君、本当に人間?



 引っこ抜いたアインは疲れるどころか、「あと何本欲しい?」とか意味の分からないことを言っている。あれ引っこ抜いたときって、みんな息上がりまくりだったんですけど? まあ、いいや、気を取り直してお言葉に甘えてあと2、3本抜いてもらいますか。



 そんなこともありつつ、夕食を食べ終えた後、残りのスガープラントは根の白い部分と葉と茎に分けて白い部分は搾って出てきた液体を集めてから、鍋に入れて火にかけて甘味料にし、葉と茎は水術で水分を無くしてすり潰し、それぞれ塩コショウもどきとして入れ物に入れる作業をした。この絞り出す作業でもアインは大活躍をした。案外あれ搾るのって大変なんだけど、アッサリ終わってしまった。



 いい時間になったので、風呂と洗濯を済ませて、寝ることにした。私とマーブル達はいつもの場所で、配下の3人は客室で寝てもらうことにした。長距離の移動なだけあって、何だかんだ言ってみんな疲れていたので睡魔に負けるのも早かった。

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