第65話 絶対に負けられない戦い。
時刻は午前十一時。教室は賑わっている。お友達と和気あいあいとお話中の雲雀さん。三年生には最後の文化祭。今までの思い出話に花を咲いている。楽しそうだ。
「あの、雲雀さん。俺そろそろグラウンドに行きますね」
「え? あっ、そっか。約束してたね。私も一緒に行くよ〜」
周りのお友達が『なになに、どうしたの』と質問してくる。雲雀さんが朝の出来事をみんなに教えた。
『面白そう〜。私も行く〜』と次々に席を立つ。まぁそうなるよね。
雲雀さんのお友達が『新旧彼氏対決だぁ』と言ってはしゃいでいる。
そしてみんなでグランドに移動。野次馬の皆さんもゾロゾロと後ろからついてくる。
◇◆◇
野球部専用の土グラウンドに到着。観客が予想以上に多い。野球部の文化祭の出しものは大盛況だ。
油木光君は……いた。
——って、どうして一人だけ試合用のユニホーム着ているの? 他の人達は練習用のユニホームだよ。気合入っているのかな?
テル君は俺たちに気づき手を振ってくれた。なんだか馴れ馴れしい気がするけど、まぁいいか。
テル君と少しだけ話をして思ったけど、実はそんなに悪い人じゃない気がする。雲雀さんが好きになった人だしね。
俺と雲雀さん、それに雲雀さんのお友達はテル君の近くに移動した。
「こんにちは、来ましたよ」
「ありがとう。わざわざ来てくれて」
テル君は礼儀正しい。帽子を取り挨拶してくれた。後輩がいるからかな?
「和希君すまない。ちょっと問題が発生してね」
「問題? なんですか?」
「実は……俺と和希君の対決が学校中に広まってね」
あ、なるほど。それで観客が多いのね。雲雀さんのお友達も言ってたよね。『新旧彼氏対決』って。見たい人は沢山いるよね。
「それが何か問題でも?」
「その後が問題なんだ。俺と和希君の対決の勝者が雲雀と結婚すると噂になっているんだ。つまり雲雀を賭けての勝負になっているんだ」
「え? えぇぇぇ! マジで!」
雲雀さんや周りのお友達も驚いている。
「勘違いしないでくれ。俺はそんな事は一言も言っていない。それに和希君との対決は野球部の関係者にしか言っていない」
テル君は嘘を言っていないようだ。目が泳がずに真っ直ぐ俺を見ている。
「いったい誰がそんな噂を……」
俺はボソリと呟く。
「……足楽彩子の仕業ね」
「……おそらく。すまない」
と、雲雀さんとテル君が言った。テル君は悪くない。噂とは関係ないのに……やっぱり良いやつだ。
「和希君わざわざ来てくれたのにすまない。勝負は無かった事にしてくれないか?」
……ちょっと待て。テル君の言い方は俺が負ける前提で言ってないか? でも、仕方ないか。相手は現役野球部。負ける気はしなくても万が一があるしね。
周りの観客やお友達の雰囲気を見る限り雲雀さんを賭けた勝負の話が無かった事になりそうにない。
観客の中に俺に敵意剥き出しのぽっちゃり男子生徒が多数いるよ。ここは穏便に済ませた方が良いよね。
「ちょっと待って」
「雲雀さんどうしたの?」
「テル。あなたは和希が負けると思ってるの?」
「まぁ、そうだな。和希君は素人だろ? 負けるのは確定だろ?」
わぁーお。すごい自信だね。そして雲雀さん怒ってる? 顔が怖いよ?
「和希が人畜有害油製造機に負けるわけないじゃない」
「人畜有害油製造機? 何を言っている? ……もしかしてそれは……俺の事か!
ちょっと待て。それは酷すぎないかっ。俺は汗っかきなだけだ。新陳代謝がいいだけなんだぞ!」
わぁーお。暗黒神雲雀様の登場だ。テル君に痛恨の一撃だよ。
「とにかく二人は勝負しなさい。勝った方のお嫁さんになってあげる」
「いや、俺はそれは望んでいな——」
「ああん。なんか文句あるの? 人畜有害油製造機」
「……いえ、ないです」
テル君半泣きだよ。可哀想。
「テル。分かってると思うけど手を抜いちゃだねだからね。分かった」
「あ、ああ。分かった。おまえがそれでいいなら。和希君もいいのかな?」
う〜ん。雲雀さん本気なの? ……ふぅ。仕方ない。
「いいですよ。真剣勝負しましょう。俺も全力出します」
周りが『わっ』と賑やかになった。コレって文化祭一大イベントになってない?
周りがお祭り騒ぎの中、俺は雲雀さんに真意を聞いてみた。
「雲雀さん、どうして自分を賞品にしたんですか? コレだとあの子の思惑通りですよ」
「あら、和希は負けちゃうの?」
「絶対負けません。雲雀さんは誰にも渡しません」
「じゃあ大丈夫だね。それにね、周りの有象無象を黙らせる為でもあるから。和希の実力を見せて自分じゃ敵わないって心をバッキバキに折ってね」
「……なるほどね。了解です。頑張ります」
雲雀さんは天真爛漫な笑顔を俺に向けた。雲雀さんは無邪気なお子様だよ。
でもね、この笑顔をまた見るために、テル君に渡さないためにガチ集中でいくぞ!
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