第67話 エルザ

真なる王の試練──


その場所に案内すると唐突に言い出したジャック。その仕草はジェントルマンのそれで短い手足を器用に使い、左胸に手を当て軽く会釈する様は道に入っていてまるで貴族の様な身のこなしであった。


先程までとは別人だな──


ライネルはそう感じ絶鬼達を見渡すとライネルの意見に同調する様に首を縦にコクコク振っていた。


どうやら絶鬼達もその変わりように驚愕し、動揺が隠せない様子だった。


「さぁ。こちらでございます。ライネル様。」


「う、うん。ありがとう。」


祭壇の奥に入った後は細く暗い道が続きそして開けた場所に出た。そこは洞窟内にも関わらず色とりどりの光が入り込み中央に広がる湖がその水面を揺らしていた。


──綺麗だな。それがライネルの第一印象だった。


色とりどりの光は自分たちの来た道からも差し込み赤い色が追加された。開けた場所を一望すると軽く一辺が100mはあるだろう程巨大な空間。中央には5本の光が合わさりあい更に中央には巨大な宝石が鎮座している。その宝石に乱反射した5本の光は収束され天に向かって伸びていた。


「漸く揃いましたか。」


「……はい。エルザ様。遅くなり申し訳ありません。」


「良いですよ。ジャックが悪いわけではありませんから。まぁ……これはこれは可愛らしい王様だこと。うふふふふ」


エルザと呼ばれた女性は僕を見てニヤリと笑うと次の瞬間には僕の目前に現れた。


「ようこそ。真王の試練へ。ここへは王の中でも追従を許さぬ程の高い能力、すなわち全種族の最たる者しか入れない特別な空間ですわ。」


どうなってるんだ?瞬間移動?いや…その類では無いだろう。空間……否…時空そのものを超越した何かで移動したようだ。


「真王の試練?」


「はいですわ。王となる者を試す──それが王の試練ですがこれは規定値を超えれば誰でもなれるものなのですわ。しかし真王となると話は別。王の中でも頂点に君臨し、王の中の王と呼べる存在。それこそが真王なのですわ。」


「真王になると……何かが変わるの?」


「そうですわね……まずは全種族の始祖の能力の一部を継承できますわね。そして全種族信仰の象徴として崇められその偉業は永遠に語り継がれる事になるでしょう。更に功績が神に認められたなら種族の守り神として永遠の時を私達神族と一緒に暮らすことになるのですわ。言わば不老不死の体を得ることが出来ると同義ですわね。」


「……ふぅん。なら僕は辞退する。」


「「「「えっ!?」」」」


みんなが驚愕の表情の中ライネルは続けて話し始める。


「まず僕は誰かに崇められたいわけじゃない。しかも不老不死?そんなのゴメンだね。人生なんて……終わりがあるから急ぐんだし、楽しいんじゃないか。結末のない小説ほど楽しくないものはないんだよ。」


「……小説?」


「ああ…それは……こっちの話で…。僕は過去……前世の記憶があるんだ。しかも前前世の異世界の記憶もある。だからこそ思うんだ。強すぎる力や永遠の生命なんて人の身に余る力は必要ないんだって。それに何だか……所謂魔王とかそういう部類になっちゃいそうで嫌なんだ。」


「!?ギクリ……」


おいおい。ギクリって口で言っちゃったよ。かつて前科があるパターンか?


「まぁ……だから僕は王にこそなる事には承知したけど……真王になる気はないから。」


「うふふふふ。お待ちなさい。私がそれを赦すとでも?」


突如般若の様な恐ろしい顔に変貌したエルザは僕の首を掴み頭の高さまで持ち上げた。とても細腕とは思えない程の怪力で僕の首はギリギリとしまっていく。


「がはぁ……た、たしゅ……」


声にならない必死の訴えが虚しく静寂にかき消される。充血した双眸で周囲を見ると絶鬼、龍鬼は既に無力化され地面に突っ伏していた。


……もはやこれまでか……


そう思われた時だ。


──開眼せよ。そして我が力を解放するのだ。


意識が朦朧とする中、そんな声が聞こえてきたのだった。

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