第26話 ソフィアと遭遇



<フランスの魔女>


ソフィアは魔法を使って、イメージ通りのことができるようになってきていた。

大学には休学届を出している。

母親や父親には若くて健康なイメージを付与してみた。

若返ることはないようだが、身体の調子がとてもよくなったという。

ソフィアは両親がそう言ってくれるのがとてもうれしかった。

「ママとパパには迷惑ばかりかけていたからね。 これからは私がお世話してあげるわ」

ソフィアの言葉を聞きながら母親が答える。

「ソフィア、無理はしないでね。 私たちはあなたが居るのが幸せなんですからね」

父親も微笑みながら見ている。


ソフィアはそんな母親の言葉など軽く聞き流し、また仮面をつけて出かけて行く。

空も飛べる。

魔女にならってほうきに乗っかって出かける。

空を飛んでいると、下に車が走っているのが見える。

1台の車が暴走しているようだ。

「危ないわね、こんな街中で・・」

よく見ていると、警察から逃げているようだ。

ソフィアは右手人差し指で車を指さす。

「えい!」

右指からあおい光の矢が飛び出した。


かなりの速度で飛んでいき、車のボンネットに刺さる。

連続して5本ほど刺さり、そのまま地面まで縫い付けたようだ。

車は激突みたいになり、その場で停止。

ゆっくりと運転席のドアが開き、中から大柄の男がフラフラと降りて来る。

ソフィアがその男の近くに着陸。

「あなた、こんな街中で危ないわね」

降りて来た男はソフィアを見ながら、フラフラしている。

「あ? な、なんだてめぇは・・うぇ・・気持ち悪・・」

男はどうやら衝撃で混乱状態のようだ。

「あなたみたいな人はこうよ」

ソフィアはそう言うと、光の縄みたいなので男を縛りあげた。

「な、なんだ?」

男はそのまま上半身と足を縛られて、その場で横倒しになる。

「て、てめぇ、いったい何を・・」

男がそこまで言うと、ソフィアが男の口に赤く光るマスクをする。

「それは息はできるけど、しゃべれないわよ。 じゃあね」

ソフィアはそういうとまた飛んでいく。


ソフィアはしばらく飛んでいると、郊外の道を歩いている男の人を発見。

ここの辺りはブドウ畑ばかりなのに、歩いているなんて不思議だと思った。

ゆっくりと降りてゆき、男の後ろへ着陸。

男は振り向きもせず立止まる。

「あなたがフランスの魔女ですか」

男はそういうとゆっくりと振り向く。

斬り裂きジャックだった。

ソフィアはその男の透き通る目を見た瞬間に、背中に寒いものを感じる。

「あ、あなたは誰?」

それが精いっぱい出せる言葉だった。


男はソフィアをジッと見つめると言う。

「あなた、不浄なものたちを処理していませんね。 教えられなかったのですか?」

ソフィアには、何を言っているのかわからない。

「あなた、何も知らないのですか? 力を得たのでしょう。 それで不浄な人間を処理して選別するのではないのですか?」

「何を言っているの?」

ソフィアはまだ理解できていない。

「あなたがフランスの魔女ですよね? 人ならざる力を得たはずです。 それを正しく使っているのか尋ねているのです」

ソフィアは理解し出していた。

「あ、あなたも同じような能力を使えるの?」

「もちろんですよ。 私も選ばれましたからね」

ソフィアは男の言葉にひっかっかる。

私も、と言った。

他にもまだいるのかしら。

「そう・・私は選ばれたかどうかわからない。 けれどもこの力を使って、人助けをしているつもりだわ」

ソフィアがそういうと、男は首をゆっくりと横に振り言う。

「はぁ・・くだらないことをされますね」

ソフィアは少し腹立たしくなった。

「な、何がくだらないことよ。 困っている人を助けて何がくだらないのよ」

男はソフィアを見つめる。

「あなた・・それは人の目線ですよ。 我々は違います」

「はぁ? 人の目線? 何を言っているの? 人が人を助けるのは当たり前じゃない!」

ソフィアは突っかかる。

男は寂しそうな目線をしながらつぶやく。

「残念です」

そういうと、ソフィアの前から消えた。


すぐにソフィアの背中に熱いものが触れる感じがある。

お腹を見ると、赤く光る棒のようなものが突き出している。

ソフィアはゆっくりと後ろを振り返ろうとすると、背中から突き飛ばされた。

そのまま地面に突っ伏す感じで倒れる。

痛みはない。

ただ、何か考えるのが面倒な感じだ。


な、何これ・・私、何か悪いことしたのかしら。

あ、ママとパパの身体は良くなったんだわ。

良かった。

そうだ、後で一緒にでかけて、パパの大好きなパイでも食べに行こう。

ソフィアは薄れゆく意識の中でそんなことを思っていた。


ソフィアの倒れているそばで立っている男が、ソフィアを見下ろしている。

「あなた失格です。 あぁ、あのアジアの方とまたお会いできますかね」

男はそういうと東へと歩いて行く。


◇◇


<隕石が落ちたオーストラリアとロシア>


大きなクレーターが出来ていた。

その中心部には握りこぶしくらいだろうか、隕石がある。

その近くに、銀色に光る箱型の船のようなものが見えた。

すぐに空気が揺らぎ、周りの景色と同化する。

その船の中。

「おい、1号船とは軌道がずれたぞ」

「はい、申し訳ありません。 この星の周辺に浮遊物体が多く、少し避けようとしたら着陸地点がズレてしまったようです」

「まぁ、それほど離れているわけでもないので問題ないが、さっそく調査に出かけよう。 1号船にも連絡を入れておいてくれ」

「はい」

船の中では、人の形をしたような半透明の物体が会話していた。

「全く、あのバカどもには困ったものだ。 まだ実験段階ではないと言うのに。 あの道楽星の仕業か」

「はい、そのようです」

「通報があって来てみたが、どれほどいじったのだろうか? ここは触れてはいけない地域だったはずだ。 協定を無視するのか? 全く・・すぐに情報を集めて持って帰らなければいけないな」

船の中で、半透明の物体が話している。


◇◇


<山本の部屋>


山本茂、ただいま後悔中。

そういえばいいのだろうか。

罪悪感というのはない。

いや、あるのだろうか。

ただ、重い気持ちだった。

ベッドに横になり天井を見つめる。


俺はいったい何をしてきたんだ?

両親の復讐は終わった。

単に山下裕二だけをっていればよかったのか?

いや、違うだろう。

俺の今までの常識が邪魔をする。

戦国時代なら、親兄弟で殺し合いだ。

それで平気だったのかどうかはわからないが、それで時代を生きていたはずだ。

俺は俺の価値観で生きて行かなければならない。

常識はあくまで参考書だ。

山下家族が死んだところで、世の中が変わるわけではない。

それに俺も世の中を変えようなどとも思っていない。


あのイギリスの青年は、そんなことを考えていたのだろうか。

あの感じは純粋な感じだった。

だが、仲良くできるかといえば、そんな感じではない。

そういえば、他の地域でも俺みたいな能力を持ったものが、わからないだけでもっといるのだろうか?

そんな力を得たら、みんなどうするのだろう。

山本はそんなことを考えていたら、そのまま眠っていたようだ。


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