第21話 山下裕二の家へ
杉田は一瞬驚いたが、鼻で笑って佐藤を見る。
「佐藤・・あのなぁ・・いったいどこでそんな情報を手に入れているかわからないが、あまり人に言わない方がいいぞ」
「わかってますよ。 だから杉田さんだけに言っているんじゃないですか」
佐藤は少しムッとしたように言う。
杉田も笑いながら言葉をつなぐ。
「そうだなぁ・・それだけチベットの兵士がしぶといってことだろう。 どうせあの国の報告はロクなもんじゃない」
「えぇ、僕もそんなところだろうと思っています。 後、アメリカのヒーローの方は知っていますか?」
佐藤がそう言うと、杉田は少し心配になってきた。
こいつ、だんだんとオカルト化が進んでいるんじゃないのか、と。
「・・佐藤・・俺はそういう情報を集めていないんだ」
杉田はそう答えるが、佐藤は構わずに続ける。
「杉田さん。 アメリカのヒーローは凄いですよ。 本物のスーパーマンですよ。 僕の見た映像が事実なら、地球人じゃありませんね、彼は。 トラックを持ち上げて投げるし、飛び上がれば軽飛行機くらいの高さまで飛ぶのです。 弾丸もその身体は受け付けないようですし、今度ミサイルで実験でもしようか、なんて笑って言ってましたよ」
杉田はかわいそうな人を見る目で佐藤を見つめる。
佐藤は話していたが、杉田の目線に気づき慌てて話をやめた。
「す、杉田さん。 大丈夫です、僕は大丈夫ですからね。 ただ、話として面白いかなぁっと思って・・」
佐藤は慌てて言い訳をしていた。
杉田は微笑みながら佐藤を見る。
そして考えていた。
確かに、今調べている事件は証拠をつなげていけばある程度まではセオリー通りに進む。
だが、突然その糸が消える。
切れるのではなく、消える。
佐藤の言うように、そんな現象を本当に混ぜてみないと解決できそうもない。
杉田はそこまで思うと、頭を振った。
俺もまだまだだな。
◇◇
山本茂は名古屋へ向かっていた。
電車を乗り継ぎ新幹線で、名古屋へ到着。
時間は午後8時30分過ぎ。
以前来た通りに移動。
駅から歩いて行くと、山下裕二の家が見えてきた。
時間は午後9時頃だろう。
あまり人通りもない、閑静な住宅街だ。
山下裕二が出所しているのなら家でいるはずだ。
いなくても、親に聞き出せばいい。
今日の山本は、単にクズどもを処理する山本ではなかった。
自分をコントロールしているようで抑えきれない自分を感じていた。
山下の家の前、道路の反対側をゆっくり通過。
電線から山下の家に供給されている配線を確認する。
俺は電気を供給している経路の元を遮断する考えだった。
そして、もしかすればこれだけの大きな家だ。
自家発電くらいあっても不思議ではない。
その時が少しやっかいだなとも考えていた。
しかし、もう止められない。
「ふぅ・・・」
俺は集中する。
俺の周りの時間は停止したような状態になっているだろう。
俺は電柱に飛び乗り、山下の家に供給されている電線をすべて切断。
そのまま山下の家の庭に降り、目視できる監視カメラをすべて潰していく。
電線を切断しても、まだ山下の家の明かりはついている。
もしかして自家発電もあるのか?
俺はそう疑ったが、すでに事は起こっている。
山下の家の3階に飛び上がり、窓を確認。
無論、皮の手袋はつけている。
!
窓が開いていた。
俺は3階から侵入。
飛び上がった時に、両足の靴をビニール袋で覆い輪ゴムで止めていた。
これで足跡が付きにくいだろう。
ベランダについている泥は許容範囲か。
そんなことを思いながら3階の部屋を見渡す。
いろんな難しそうな本が並んでいる。
書斎か?
そう思いながら、家の中を歩いて確認していく。
部屋を出ると3階には3つの部屋があるようだ。
1階までは吹き抜けになっている。
通路を歩きながら2階へ下りて行く。
2階も3つ部屋があり、すべて確認したが誰もいない。
1階に下りて行くとリビングで家族がくつろいでいた。
山下の母親だろうか。
美人さんだが、嬉しそうな顔を子供に向けている。
その視線の先には息子の裕二の姿がある。
ソファに座っているのは山下のおやじさんだろう。
あの黒塗りの車に乗っていた顔だ。
その向かいには姉だろうか。
赤いスポーツカーに乗っていた美人さんだ。
なるほど、家族全員集合というわけだな。
山下裕二の出所祝いのようだ。
俺は無性にやるせなかった。
こんなに家族に大事にされている子供なんだ。
だが、この家族にとって俺の親なんて空気みたいなものなのだろう。
本当に第三者、他人事なんだろうなと思った。
事件後も弁護士を通してだけの謝罪だけだった。
・・・
・・
そんないろんなことが、俺の頭に一気に浮かんでくる。
自然と涙が流れていた。
軽く頭を振り、呼吸を整える。
俺はそのリビングの壁際に行き、集中力を緩める。
!
一瞬で部屋が真っ暗になった。
「あ、停電?」
若い女の声がした。
「お父さん、停電みたいだわ」
「あぁ、そうだな。 すぐに予備電源に切り替わるだろう。 3時間くらいは持つだろうからな」
山下の父親がそう言うと、パッと明かりがついた。
「ホッ、よかった。 せっかく裕二に会えたのに・・」
山下姉がつぶやく。
「そうよ裕二、今まで6年もしんどい思いしたわね」
山下母が言う。
山下裕二はうなずきながら、
「姉さん、母さん、ありがとう。 それに父さんにもいろいろ苦労させたみたいだね」
そう答えていた。
山下の父親も苦笑いしながら、グラスを片手に一口飲んでいた。
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