絶望正義:死神? を魅了したようだ

ボケ猫

第1話 いったい俺って、何やっているのだろう?




とあるスーパーの駐車場。

午後7時頃。

俺は車で買い物に来たので、車を止めれる場所を探してゆっくりと車を移動させていた。

・・・

お! あのスペースなら入れそうだ。

そう思って、ゆっくりと移動してバックで停車しようとすると、俺の横をかなりの速度で黒いワンボックスの車が駆け抜けていく。

「危ないなぁ・・」

そう思いつつも、駐車スペースに1発で車庫入れ完了。

ま、軽自動車だしな。

車のカギを閉め、スーパーに入って行く。


10分くらいして出てきた。

俺の買い物はそれほど多くない。

自分一人食べる程度の買い物だ。

家族はいない。

事故で亡くしたからな。

さて、車に来てみると驚いた。

俺の車に傷がついている。

それも車の側面からぐるりと一周、線が付いていた。

ご丁寧に、おそらく鍵か何かでつけて回ったのだろう。

いったい誰が・・俺はそう思って、フト思った。


そういえば、先程車を止めるときに黒のワンボックスカーが危ない運転で横を抜けていったよな?

もしかして、あれが自分の止めようとしていたところに入ったと勝手に思って腹立たし紛れにやったのか?

それにしても、こんな傷を警察に通報しても結局犯人なんて捕まることはないしな。

面倒なだけだ。

俺はそう思うと、車に荷物を置いて辺りを見渡した。

居た。

あのワンボックスカーだったと思う。

車のガラスは黒くスモークがかかっている。


フム・・どうしようかな。

確実な証拠もないし・・あ!

ドライブレコーダーに映っているかも。

俺はそう思って車に乗り込み、ドライブレコーダーを再生してみる。

車が停止しても、どうやら周りを撮影してくれているみたいだった。

ホッとした。

再生していくと、見るからにヤンキーなやつが近寄って来る。

そのまま俺の車の周りを何の遠慮もなく回って、去っていった。

こいつの顔は写っているな。


さてと、俺は車から出る。

右手で腰の部分を確認。

ある。

俺の腰には死神からいただいた『デス・ソード』がある。

これで斬れば俺にも死神にも生命の恩恵が得られる。

簡単に言えば、俺の身体能力が向上するというものだ。

まぁ、それはいい。


俺はゆっくりと黒いワンボックスカーの方へ歩いて行く。

ワンボックスカーの中には男が1人乗っているようだ。

俺は運転席の方へ回って、車の窓をノックする。

コンコン。

「すいませ~ん」

男は運転席でタバコをふかしながら無視している。

もう1度ノックする。

コンコン。

ワンボックスの中の男が面倒くさそうに窓を開け、こちらを見る。

「なんか用か、おっさん!」

俺はその顔を見て確認した。

こいつだ! 

間違いない。


「あ、すみません。 実はですね、私の車に傷がついていましてね」

俺はそう話を切り出した。

「あ? それがどないしたんや」

「いえいえ、車のドライブレコーダーを再生してみたら、あなたが私の車に近づいて来て、車の周りをまわって帰って行く映像があるのですよ。 何か知っていないかと思いましてね」

俺がそう聞くと、ヤンキー風の男が窓から乗り出してきた。

「なんやおっさん。 ワシがやったとでもいうんか?」

やや声を大きくしてきた。

「いやいや、そういうわけじゃないのですが、あなた以外にこの時間映ってないので、何か知ってないかと思って聞いてみたのですよ」

俺はそう言ってみる。

「なんやおっさん、ワシにインネンつけとるんか?」

ヤンキー風の男がそういうとドア開け、車から降りて来た。


結構ガタイがいいな。

だが、体幹がしっかりとしていない。

俺はそんな風に観察していた。

「おっさん、ワシでなかったらどうするや、えぇ~!」

ヤンキー風の男が威圧してくる。

駐車場にいる買い物客たちが少しザワザワしだした。


「う~ん、別にあなたがやったとは言ってないのですがねぇ」

「アホか! 疑ってるんやろ? 警察にでも連絡するんか?」

ヤンキー風の男はニヤニヤしている。

俺はその対応を見てつぶやく。

「・・面倒だな・・」

俺のその言葉が聞こえたのか、ヤンキー風の男が顔を近づけてくる。

「あぁ? なんやて?」

俺は面倒なので、ヤンキー風の男を見て言う。

「・・ふぅ・・おっさんって、お前もおっさんだろ。 面倒だ。 お前がやったのだろ、このボケ!」

ヤンキー風の男が少し驚いていたようだ。


俺の身なりは、普通のおっさんだ。

品があるといえばそう見えないこともない。

身体はそれほどがっちりしているわけではないが、自重くらいの運動は難なくこなせるレベルだ。

身長はそれほど高くない。

全体的に清潔な雰囲気は持っていると思う。

普通にしていたら、ヤンキーのような連中とは無縁の人間だ。

だが、あの事件から俺は人間をやめたのかもしれない。

まぁ、死神などというものと接触したんだからな。

さて、今はこの前のアホなヤンキーの処理をどうするかだ。


「おんどれ、なんやて~!!」

ヤンキー風の男が怒声をあげる。

「アホが、声を荒げるな。 耳はいいんだ。 それよりこんなところでは買い物の皆さんに迷惑がかかる。 場所を移動するがいいか?」

俺がそう言うと、ヤンキー風の男もオラオラいいながらも同意。

「少し行ったところに海岸がある。 そこまで行く」

俺がそう言って車まで戻る。

ヤンキー風の男は肩を揺すって自分の車に乗り込んだ。


俺が自分の車を発進させて移動すると、黒のワンボックスカーがついて来る。

案外素直だな、なんて思いながら移動した。

スーパーの駐車場では、何事もなかったように普通の買い物客の雰囲気に戻っていたようだ。


少し走って海岸に到着。

堤防に車を横づけして俺は車外へ出る。

ワンボックスカーが俺の車の後ろにつけた。

ヤンキー風の男が降りて来る。

「おっさん、こんなところまで連れてきて、何かくれるんか?」

余裕ができたのか、俺を完全に舐めてるだろう、ニヤニヤしながら話してきた。

「いや、あんなところで目立っても嫌だしな。 それより俺の車に傷つけたのはお前だろ」

俺がそういうと、ヤンキー風の男がすぐに返事をする。

「おっさん、人を疑うんやったら証拠がいるで」

「俺が買い物に行っている間に、お前以外の映像がない。 それで十分だろ」

俺がそういうと、ヤンキー風の男が言葉をかぶせてくる。

「おっさん、その傷をワシがつけてた映像でもあるんか? ワシがおっただけで犯人扱いか? えぇ!!」

少し声を荒げている。


俺たちがそんな会話をしていると、車のヘッドライトが近づいてくる。

2台の車のようだ。

ヤンキー風の男がその光の方を向いて、ニヤッとしていた。

その車が俺たちの車の方へやって来て、俺の車を囲むように停車する。

すぐに車から人が降りてくる。

3人と5人の男たちがそれぞれ降りて来た。


俺と会話していたヤンキー風の男がその降りて来た男たちに挨拶をしていた。

「すんません、わざわざ来ていただいて」

「このおっさんか、お前に文句言うたのは?」

降りて来た男の中の一人が言う。

「はい、何でも車に傷つけたやろ? なんて証拠もないのに言うんですわ」

ヤンキー風の男がニヤニヤしながら言っている。

「おっさん、それがほんまやったらタダで済まんで!」

「ほんまや、ほんまや・・」

降りてきた男たちがザワザワし出す。

ヤンキー風の男が前に一歩出てきて言う。

「なんやおっさん、ビビッたんか? なんか言うてみぃ、こんなところまでワシらを呼び出して」


昔の俺なら犯人探しもしなかっただろうし、完全にビビッていただろう。

だが今の俺は人かどうかも怪しい。

明らかに人間の身体能力は超えている。

俺はヤンキー風の男が集めた男の中、声をかけて来たリーダー風の男を見る。

「ふぅ・・面倒だな、お前ら。 どうせ、あのアホがやったのに間違いない。 それだけだ」

俺がそう言うと、一瞬静かになった。

すぐに怒声が飛んでくるが。

「なんやて~!!」

「ワレ、死んだぞ!!」

・・・

・・

ギャーギャー騒いでいる。


「おっさん、度胸は認めたる。 そやけどな、どうするっちゅーんや?」

リーダーっぽい男が言う。 

そして続けて、

「まぁ、払うもん払ったらワシらも鬼ちゃうからな」

そう言うと、周りからはゲラゲラと笑いが起こっていた。

「・・リーダー鬼でしょ・・」

「・・それが蟻地獄の始まりでしょうに・・」

「ギャハハ・・・」

・・・

「おっさん、ワシらを動かしたんや、結構高いで~、なぁ?」

リーダー風の男が笑いながら周りを見る。

みんなで笑い合っていた。


やっぱりいるな・・こんなやからだ。

何でこちらが被害を受けて金まで払わされるんだ?

これを恐喝というんじゃなかったっけ?

どうせ警察に通報しても解決しないし、余計な嫌がらせが増えるだけだしな。

でも、一言。

俺はそう思って口を開く。

「そっか・・警察には通報した方がいいのかな?」

俺がそういうと、男たちはまた一瞬静かになる。

すぐに笑い声が起こったが。


「おっさん、どうやって警察を呼ぶんや?」

「警察が来るまで時間がかかるやろ!」

「このおっさん、相当頭弱いのとちゃうか?」

・・・・

男たちがうるさい。


俺が耳に手を当ててて、

「こうやって電話で呼ぶんだがな、警察」

俺がそういうと、また一瞬静かになる。

今度は怒ったようだ。


「おっさん、舐めとるやろ? ぁあ!!」

男の中の一人が声を荒げて言う。

リーダー風の男が手を挙げて制止する。

「おっさん、こっちはどうでもええんや。 痛い思いさせたら申し訳ない思うて言うてやってるのに、わからん奴やな。 もうええわ」

リーダー風の男がそう言うと、全員の雰囲気が変わる。

「お前ら、おっさんに常識を教えてやれ!」

その声を合図に、男たちが俺の方へ近寄って来る。

俺は動かずに息を軽く吐く。

「ふぅ・・・」

男たちは俺がビビッて動けないと思ったようだ。

「おっさん、死ねや!」

男の中の一人がそう言うと、俺に殴りかかって来た。


俺にはスーパースローモーションのように見える。

集中すると、時間が圧縮されるというか、相手の動きが止まったように見える。

アホな男の拳がゆっくりと俺の顔面に近づいて来る。

こんな汚い手で触られて、病気でも移ったら嫌だな。

そんなことを思いながら、近づいてくる拳を見る。

「うっわ、まだあんなところかよ。 しかし、こいつらってどこでこんなアホになったのかな? 育つ環境が悪かったのか? どちらにしても、社会更生なんて無理だろう。 それに更生してもらいたくない。 存在自体が不愉快だ」

俺はそんなことをブツブツとつぶやきながら、迫って来る拳を見ていた。

仕方ない。

どうせやるつもりだったんだ。

そう思って、腰にあるデス・ソードを右手に持ち、殴りかかって来る男の拳側横に移動し、腕を切断。

そのまま身体を横薙ぎにして、距離を取った。

返り血で汚れるのは嫌だからな。

5メートルくらい移動した。


俺が移動して、少し集中力を緩めると普通の時間の流れに戻る。

「おらぁ!」

殴りかかっていた男がそう叫んで拳を振り抜くと、そのまま腕が飛んで行き、前のめりになって倒れる。

上半身だけが不自然に前に水平移動して落ちた。

!!!

一瞬で静かになる。

リーダー風の男が驚いた顔をして見つめる。

「な、なんや? 何が・・おっさんは? おっさんはどこや?」

そう言って、全員でキョロキョロしている。


誰も見つけれないので俺が声を出す。

「こっちだよ」

俺の声に全員が驚いてこちらを一斉に向く!

頭右かしらみぎじゃないぞ。

俺はそう思った。

全員が俺を見ながら、俺の右腕に光っているものも見つけたようだ。

青白く光る棒のようなもの。

誰かが声を出す。

「・・な、なんやあれ? 光ってるで、ラ〇トセーバーみたいやな・・」

「そ、それよりも、アツシ・・二つに割れとるで・・」

「・・アツシ、死んだ?」

・・・

男たちは何をしていいのかわからないようだ。

ただ、いきなり騒ぎ出すようなことはないようだ。


俺の心はもう決まっている。

こいつら全員始末する。

俺はあの時に決断したんだ。

逃しはしない。

別に、快楽殺人者ではありませんよ。

ただ、現行の社会システムで排除できない膿。

俺の独断と偏見で決めたこと。

迷うな!

そう自分に言い聞かせながらゆっくりと歩いて行く。

男たちは動けないようだ。

「・・あ、あぁ・・」

「・・く、来るな!」

俺は集中して息を吐く。

「ふぅ・・」

俺の周りの時間が圧縮され、停止したような感じになる。


俺は軽く駆け出し、その場にいたリーダー風の男と、ヤンキー風の男を残して斬り抜けた。

相手にしてみれば、一瞬の間に起こったことだろう。

リーダー風の男の少し前で俺は立ちどまり、少し待っている。

時間が通常状態で流れだす。

「う、うわぁ!」

リーダー風の男が驚いていた。

そりゃまぁ、いきなり目の前に現れたような感じだろうからな。

「え? お前ら・・・」

リーダー風の男は周りを見渡し、自分の手を中途半端に前に出し固まっていた。

ヤンキー風の男は歯がガチガチと鳴っていたようだ。

恐怖というか、想像を超えることが起こると、本当に歯がガチガチというんだなと俺は思っていた。


さて、リーダー風の男を俺が見る。

男は一瞬ビクッとなったようだが、震えながら言葉を出す。

「お、お前・・こんなことをして、タダで済むと思っているのか?」

だんだんと弱々しくなりながら発言する。

「知らんな」

俺はそう言うと少し間合いを詰める。

リーダー風の男が後ろへ下がろうとするが、足が思うように動かないようだ。

「・・やめろ・・た、助けてくれ・・」

リーダー風の男が言う。

「はぁ? 意味わからんよ」

俺は答える。

「ひ、人殺し・・やめろ・・近寄るな!」

リーダー風の男が泣きそうな顔で言う。

俺は構わず一歩踏み出し、遠慮なくデス・ソードを振るう。


リーダー風の男の右腕から身体を横一文字にデス・ソードが抜けていく。

俺はそのまま向きを変え、ヤンキー風の男も横薙ぎで斬り捨てた。


ブン!


全員がその場で倒れて、息絶えたようだ。

俺はデス・ソードを元に戻すと車に戻って行く。

男たちの死体はそのまま放置。

そのうち事件処理されるだろう。

さて、こいつらの車にドライブレコーダー搭載してないだろうか。

そう思って確認するが、どれも搭載していなかった。


それにしても、こいつらの車が邪魔だな。

俺の軽自動車を囲むように停車している。

俺は自分の車の前に停めてあるワンボックスカーに近寄っていった。

汚れるのは嫌なので、軍手を車から持ってきている。

軍手をつけ、片手でワンボックスカーの後ろバンパーのところを持つ。

「フン!」

そのまま持ち上げると同時に横に投げ捨てた。


ガッシャーン!!

車が横出しになりながら転がっていった。

これで俺の車は移動できる。

俺はそのまま車を走らせて家に向かう。

・・・

・・

家に到着、中へ入る。

俺一人では大きすぎる家だ。

以前は家族3人で暮らしていた。

とても尊敬できる両親で、誰からも悪口を言われることのない両親だった。

ただ、俺に早く嫁を連れてこい。

早く孫の顔を見せろの連続だったが。

今となってはその言葉が懐かしい。

両親が還暦を迎え、おやじも定年退職をして一段落したところだ。

俺からもお金を出して、どこか旅行でも行ってきたらといって後押しした。


外国は苦手だからと日本国内を回って来ると言って出かけて行った。

朝、とてもいい笑顔で出て行った。

それが俺が見た、両親の最後の姿だった。

高速道路での事故だった。

何でもベンツに乗った若者が制限速度を100キロもオーバーで両親の車に激突したそうだ。

両親の車は軽自動車。

相手はベンツ。

車の強度が全然違うだろう。

若者は重傷を負ったようだが命は助かったという。

両親は即死。

まさか、そんなことが自分の身に起こるとは思ってもみなかった。


相手は20歳未満ということで、未成年扱いを受けていた。

弁護士までついて、更生の機会があるからとか言っていたが、俺には何も聞こえなかった。

勝手に裁判が進んで行く。

俺に何か言うことはあるかと裁判長から聞かれたので、

「厳罰を望みます」

と、俺は言った。

結果、懲役10年というものだった。

若者についた弁護士は控訴するとか何とか言っていた。

俺にはまだ現実が受け入れれない。


何で普通に暮らしていた両親がいきなりいなくならなければいけないんだ。

何か悪いことでもしたのか?

何の落ち度もない。

マスコミや警察も少しの間騒いでいたが、時間の経過とともに、その事件を俺が蒸し返そうとすると、迷惑がっている雰囲気だ。

あぁ、他人事なんだな。

それに、裁判官の犯人に対する最後の言葉。

「罪を償って生きてください」

は?

どうやって償うのか?

あんなアホな若ゾーに何ができる?

10年すれば、普通に生活するんだろ?

何なんだこれ?

法律?

それって、人が生きていくために作ったルールだろ?


日本で作られた法律が、海外でも通用するのか?

戦争反対と言っていれば、攻められないのか?

そんなことはない。

日本だけの狭いルールだろ?

そんなもので人の命が決められていいのか?

俺が望むのは、あんなアホが息をしないことだけだ。


そういったことを裁判の時に発言したような気もする。

裁判を侮辱するのかとかなんとか、こちらが悪者のような扱いを受けた。


もうどうでもいい。

俺はどう毎日を過ごしたのか、あまり記憶がない。

そんなある日。

夜中だったと思う。

寝ていると、フト枕元に何かいる感じがした。

目を閉じているのに感じる何か。

これって幽霊なのか?

そんなことを思ってみたが、ゆっくりと目を開ける。


俺を覗き込む黒いフードを纏ったものがいた。

フードの中は真っ暗で何も見えない。

俺は驚かなかった。

何故だかわからない。

俺がジッとフードに隠れた顔を見つめていると、声がする。

耳で聞こえるような感じだが、頭の中に直接聞こえているようでもある。

『絶望の光。 美しい・・』

俺は聞こえたままに答える。

『絶望の光?』

『そうだ。 貴様の光は美しい』


フードを被った人物は同じ姿勢のまま俺を覗き込んでいる。

俺は口を開いて言葉を出そうとするが、動けないようだ。

『ん? 動けない・・。 お前、誰だ?』

俺は別に焦るでもなく聞いた。

『私は、死神と呼ばれたり天使、悪魔などと呼ばれたりもする』

俺はその言葉を聞きつつ、これは夢なのかなとも思った。

すると、すぐに答えが返ってきた。

『夢ではない』

!!

こちらの考えていることがわかるのか?

まぁいい。

『それで、その死神だか天使だかわからないが、俺に何か用があるのか?』

俺は普通に聞いてみる。


『その絶望の光、消すには惜しい』

死神と呼ぼう、死神は言う。

『絶望の光? よくわからないな。 絶望というのは光を失うから絶望じゃないのか』

俺は言ってみた。

『そうだ。 だが稀にその絶望の中に光を持つものがいる。 人によって色は違うがな。 貴様のそれは美しい』

死神は動かずに俺を覗き込んだままの姿で言う。

『それで、その光がきれいだからって何かあるのか?』

『いや、何もない。 ただ美しいだけだ』

死神が言う。

俺は可笑おかしくなった。

『フフ・・だったらなぜわざわざ俺のところに来た?』

『わからない・・何故だろうな。 ただ惹かれたのだ』

俺は死神の言葉を聞きながら思った。

『・・死神、あなたは人に何か力を与えたりすることができるのか?』

・・・

死神は少し間をおいて答える。

『絶望の光は生きることをあきらめていないあかしでもある。 お前は何を望む』

『さぁな、だができるなら力が欲しい。 人に縛られることのない力が・・』

俺はそう言うと、知らないうちにまた寝ていたようだ。


朝、午前6時。

俺は目を覚ました。

昨日の夢はいったい何だったんだ?

はっきりと覚えている。

変な夢だった。

俺はそう思ってベッドから起き上がる。

服を着替えて、リビングへ行こうとすると、枕元にスマホほどの長さの黒い棒があった。

何だ?

俺はそう思ってその棒を掴み持ち上げてみた。

!!!

一瞬でいろんな情報が頭に流れ込んでくる。

・・・

・・

「・・はぁ、はぁ、はぁ・・いったいなんだこれは。 昨日の夢は、夢じゃなかったのか。 それにこのデス・ソードってなんだ?」


その黒い棒を握った瞬間にわかった。

死神が俺にくれたものだ。

何でもこのデス・ソードを持つと、ほぼ不死身の身体になるみたいだ。

そして、自分以外の生命体を倒すと、その生命エネルギーを自身の生命エネルギーに変換して、身体強化などに変換できるらしい。

ヴァンパイアか!

死神にもそのエネルギーが行くようだ。

それを祝福という。

デス・ソードを利用して、好きなようにしてみろということらしい。

またこのデス・ソードは俺以外には反応しないみたいだが。

・・俺って殺人狂じゃないんですけど。

俺はそんなことを思って考えていた。

それにこの棒みたいなもの。

ラ〇トセイバーみたいに見える。

少し格好いい。


黒い棒を持って、スイッチみたいなものに親指を置いてみる。

ブゥン!!

青白い光の棒みたいなものが出た。

「おお! マジで出たな。 これって夢じゃないよな?」

そう思って、部屋の扉にその光の棒を当ててみる。

スッと扉に入って行く。

手ごたえはない。

そのまま抜くと、きれいに穴が開いていた。

!!

なんてことをしてしまったんだ。

扉に穴が開いてしまった。

とにかく本物のようだ。

黒い棒のスイッチから親指を離す。

シュン!

青白い光が消えた。


なるほど、俺の指で反応するんだな。

俺はその黒い棒を見つめながらフト思った。

そうだ、俺の両親を殺したあいつを消しに行こう。

いや、奴は刑務所に入っていた。

その前に、あの弁護士だな。

裁判官も許せんな。

って、これじゃあ俺がテロリストじゃないか。

彼らは職務として行っているだけだ。

気に入らないからといって消してはいけない。

俺でもそれくらいの常識はあるぞ。


でもこんな日本のルールで苦しんでいる人はたくさんいるだろう。

独善的だが、そういったバカを世界から減らせるだろうか?

いや、減らしても意味ないだろうか。

歴史が物語っている。

人一人でできることなんてたかが知れている。

俺がやろうとしていることは、単なる殺人だ。

だが、それは日本のルールの下でのことだ。

う~ん・・やっぱ、俺の目に映るクズは許せんな。

でも、まずは虫あたりからだな。

そう決意してから2年が経過している。


デス・ソードを手にして、まずは虫を倒して回った。

1週間くらいすると、自分の変化が感じられた。

何だか体調がいい。

身体も軽い感じがする。

軽くジャンプしてみた。


ドン!

くぅ、痛った~・・くない。

それに天井に頭をぶつけてしまった。

そんなバカな。

天井まで1メートル以上は飛び上がらないと手が届かない。

その天井に頭を打ちつけてしまった。

天井が壊れなくて良かったが、それにしても凄いジャンプ力だ。

俺は驚いて、外に出てみた。

時間は午後10時を過ぎているだろう。

一応辺りを見渡してみるが、人の気配はない。

俺は思い切り地面を蹴ってジャンプしてみる。


ダン!

!!

「うぉぉぉ・・・こ、これは・・」

簡単に俺の家の2階建ての屋根を超えて飛び上がっていた。

飛び上がるのはいいが、この高さから落ちるんだよな?

「うぉぉぉぉ・・・・」

ドン!!

し、死んだ・・?

いや、痛くない。

身体的には普通に飛んで普通に着地した感じだ。


しかし、いったいこの身体能力はなんだ?

確か、あのデス・ソードで斬ると、その生命エネルギーを自分のものにすることができるとあった。

だが、虫を倒していただけだ。

まぁ、数にすれば凄まじい数だろうが。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る