第58話 この通りスキルも発動して
「……いい加減そろそろ行くか」
思いの外早く立ち直った俺は体を伸ばすとゆっくりと立ち上がる。もしかしたら今まででこういった事態に慣れてしまったのかもしれない。
「あれ?カメラは使わないんですか?」
「ああ、それの事なんだが流石にクワガタの赤ちゃんにカメラを持たせるのは不可能だと思ってな」
「それは確かに……そうですね……」
「だろ?だから一旦カメラは忘れてハクヤのステルススキルで探りに行ってもらう」
考えた結果出て来たのは一つの作戦。確かハクヤのステルススキルは目を瞑っている間だけ効果を発動する。
だがそんなステルススキルにも使い道はある。
「実はステルススキルって触れた仲間にも効果がかかるんだ」
「合法セクハラじゃないですか!お見事!正直ワタルさんのこと見直しました!」
やっぱお前だけ仲間はずれな。
ちなみに先程落ちていた本に書いてあった知識である。運が良くて助かるな。
「なるほど、つまり僕が目を瞑り君達が誘導するわけだね」
「そうなるな。部屋を出たら俺達が方向を言うからその通りに進んでくれ」
一通り説明も終わりそれぞれが準備を始める。取り敢えず俺は荷物を右手に、そして例のクワガタを頭に乗せて準備完了。
「よし、お前も落とされるなよ?」
(落ちたら……飛べるよ……)
そりゃそうだ。クワガタだもんな。
「僕なら飛んでいる雌豚相手でも余裕で撃ち落とせるが?」
張り合うな。引っ込んでろ。
そんな事を言っているうちにエルスも準備完了。これでようやく始められる。
「さて、始めようか。ステルスッ!」
ハクヤがスキルを発動させるが特に変化は見られない。やはりパーティーメンバーには変化は分からないらしい。
「で、後は俺達が…」
がっしりとハクヤの手を握る。
「……子供の頃の遠足を思い出しました」
「3人は幅とりすぎだろ」
「いや、そうじゃなくてですね」
いまいち会話が噛み合って無い気もするが特に問題は無い。そしてそのまま3人で横に並んだ俺達は扉の前へと足を運ぶ。
「よし……開けるぞ…」
「一ついいかい?」
俺が扉に手を掛けた途端ハクヤが目を開け呟いた。
「何だよ改まって」
「君達は目を瞑らなくてもいいのかい?」
痛恨の一撃。汗が止まらない。
「い、いや……発動すんのはお前だろ?俺達はその恩恵を受けるだけであって……」
「それもそうだね。心配はいらなそうだ」
納得されたようでなにより。改めて俺は扉に手を掛け、ゆっくりと開く。
ギ、ギギギ……と鉄の擦れた音が響くが誰かが来る気配も無い。
「近くには誰もいなさそうだな」
「ラッキーですね!早めに進みましょっ!」
この状況にノリノリなエルス。うちの仲間は皆緊張感が足りない気がする。
「で、探すって言ってもどこから?」
「こういう場合は最上階が定石だね」
「つまり登っていけばいいんだな?」
俺はハクヤの手を引き、館の廊下をゆっくり移動する。基本的には俺が前を歩き、それに続いてハクヤ→エルスといった順番で進んで行く。
と、そうした間に階段が見えてきた。
「2階に続いてそうですね。姿が見えなくても足音はしますし気を付けましょう」
他にも今回は幅の広い階段だが、狭い階段では挟まれたりと危険がいっぱいである。あまり素早く行動出来ない今の俺達にとってはかなり難易度の高い場所と言える。
だが、登らなくては始まらない。
「行くぞ……」
目を瞑ったハクヤを誘導しつつ、足を忍ばせ階段を一歩一歩登っていく。
その時だ。
ガチャッ
上の階からだろうか?扉の開く音が鳴り少しずつ何者かの歩く音が近付いてくる。
「どうします?殺します?」
「メイドだったら首に縄付けて飼おう」
あらやだ俺達本当にやばい侵入者みたいじゃないですか。
「まぁ、姿は見られないし声出さなきゃ平気だろ。いいか?声出すなよ?」
「タップダンスしていいですか?」
「もしそれでバレたらお前を階段から突き落として誤魔化すけどいいか?」
「来たタイミングで僕が目を開いたらと思うとドキドキして怖いね」
「そんな考えが思いつくお前が怖いよ」
と、耳を澄まさなくても聞こえる距離まで足音が近付いたとこで俺達の会話はひっそりと途切れる
トッ――トッ――
来た………!
「よいしょ………ん?」
ん?
階段の上の方から顔を出したのは可愛らしいメイドさん……だが何故か固まっている。
「……これ見えてたりします?」
ひっとりとエルスが呟くが、そんな筈も無い。この通りスキルも発動して―――
「ふ……ふ……」
ふ?
「服が浮いてますぅぅぅぅぅっっ!!!」
「「「……………!?」」」
大声を上げながら逃げて行くメイドさんを見ながら俺はハクヤへビンタを3回。すぐに手を離し3人まとめて階段を猛ダッシュで駆け上がる。
「ほんと役に立たねえのなッ!!」
「……姿は見えていなかったからセーフでは駄目かい?」
良いと思った理由を教えてくれ。
声を聞いてやってきた兵に絶望しつつ俺は走るのだった。
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