訪問
*
ちょうどその日から1週間後。
ケイトの家の車両が出る度、必ずスカルズ家の車両が付けて回り、セシリアが乗っていないときにはすぐにいなくなる事から、彼らがセシリアを付け狙っている事は確定になっていた。
セシリアとサマンサを乗せた車両は、1週間前と同じルートで商店街へと向かっていた。
「……」
「大丈夫かセシリア」
「だ、だだだ……」
「なわけねえか……」
顔は頑張ろうと気合い十分なセシリアだが、身体がガックガクと震えまくっていた。
「まあ、お前は歩いてるだけでいいからよ。それだけ頑張れ」
「はい……」
そんな彼女の手を、ちゃんと守るからな、という意図でサマンサが優しく力強く握ると、セシリアの震えが少し弱まった。
このくらいにしかしてあげられねえのは、アタシの弱さだよなやっぱり……。
セシリアに音が聞こえない様、サマンサは静かにため息を吐いた。
ちらっとバックミラーを見ると散々見かけた車両がついてきていて、ネイサンはもうかなりうざったそうにしていた。
なにも起こらないまま、商店街に到着した車からセシリアとサマンサは降り、正面の出入口から南通りまで進んだ。
多少は上手くなったが、下手くそな追跡を披露するスカルズ家使用人達4人の後ろを、作業員に化けたチェルシーとデボラが追跡する。
相手はそれに気が付くこと無く、1週間前も通った連絡通路へとついて入ってきた。
セシリアを抱きかかえたサマンサが、手はず通り通路の中間部分にある建物の裏へ繋がる通路に駆け込んだ。
「動くな」
「なッ」
そこには腕組みをしたケーシーが、作業服姿で仁王立ちして待っていた。
「逃がしませんよ」
「クッソ……」
スカルズ家の男性使用人2人がとっさに引き返そうとしたが、チェルシーとデボラに挟まれた。
「――ッ」
突破しやすいと踏んで使用人2人は彼女らの方へと駆けだしたが、
「どけっ」
「せいッ」
「はッ」
チェルシーとデボラを弾き飛ばそうとする手を彼女達に掴まれて、凄まじい早さで投げ飛ばされた使用人は同時にそれぞれ潰れたカエルみたいな声を出した。
ちなみに残りの2人は、ケーシーの後ろにいるセシリアの方へ駆けだしたが、時間稼ぎをしようとした1人はケーシーにラリアットを喰らって引っくり返った。
「舐めたマネしやがってテメエこの野郎!」
「ふげえッ」
セシリア確保に動いたもう片方は、サマンサのドロップキックを顔面に喰らい、勢いそのまま倒れ込んで鼻血を噴きつつ悶絶した。
「鉄火場じゃなくて良かったと思えよゴラァ」
「サ、サマンサさんっ、そのぐらいにしてあげてください……」
尻を突き上げて呻く使用人に、サマンサが追加でフロントキックを入れようとしたが、セシリアにあわあわとそう言われて制止された。
「コイツが優しくて良かったな!」
蹴りによる追撃を止めたサマンサは、不愉快そうなしかめ面をしながら男に唾を吐きかけるだけに留めた。
その数時間後。
商談と称して訪問の約束を取り付けたケイトは、スカルズ家に向かう車中でその当主・フェルナンドが、セシリアをつけ回させた目的をイライザから聞かされた。
その目的というのが、下層民出身のセシリアを娶る事で器の大きさを見せつけようとした、というものだった。
「はあ、なるほど。要するに見栄のためにセシリアを利用しようとしたわけね」
「どうやらその様で」
「まったく、人をアクセサリーか何かだと思ってるのかしらね……」
「心中、お察し致します」
頭が痛そうに眉間へ手を当てるケイトは顔をしかめ、隣に座っているイライザはゆっくりと一度相づちをうった。
その彼女は、メイド服の上に弾倉ホルダーが付いたモスグリーンの防弾ベストに、ツヤ消し黒塗りのアサルトライフル、サイドアームにいつもの50口径を股のホルスターに吊っていた。その上に黒いロングコートを着て装備を隠す。
ケイトは白いシンプルなワンピースの上に同じ色をした毛皮のコートを羽織り、これも同じ色のつばが広い帽子を手に持っていた。
そして、そんな2人が乗っているセダンの後ろには、配送トラックに偽装した兵員輸送車が追走していた。
実態としては完全にカチコミの様相だが、外から見てそれを覗い知る事は出来ない。
スカルズ家の邸宅は、北方の海に繋がる大河のほとりにある、ケイト達の屋敷とは逆サイドの港湾のすぐ近くにある丘の上に建っている。
道路から1本入って茂みの中の枝道を進むと、右手に頂点部に槍状の柵が付いている塀に守られた建物が現われた。
様式こそ珍しいものではないが、外壁にこれでもかと大理石の彫刻が施されていた。
庭にも高価なエクステリアが並ぶ、成金趣味な屋敷の門の前に近づくと、その横にある詰め所の使用人2人はケイトの姿を見ると何の警戒もする事無く門を開けた。
2台が玄関前のロータリー部分に入ると、フェルナンド自らが玄関まで出迎えに来た。
「ようこそ我が邸宅へ。ケイト・バーンズ・ハーベスト嬢」
中背の肥満体なフェルナンドは顔をテカらせながら、イライザにドアを開けられ、後部座席から降りたケイトへ一礼する。
「ご機嫌よう。フェルナンド・スカルズ様」
彼女はスカートの端をつまんでお辞儀し、
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