第四五話 終わらない攻防

『中々良き、戦法だったぞ』


 十月とおつき風成ふうせいの背後にいる霊、紫苑しえんは魔刀『紫苑』をかなで義安ぎあんに投げつけた事を褒めた。


 風成は意外そうな顔をする。


「あれ? てっきり刀を投げつけた事に怒るかと」

『なにを言うか、わらわだって相手の意を突く為によく投げてたぞ』

「そんな使い方でよく壊れなかったな」

『当時は刃こぼれする度に研いでたが、わらわが結果、刃こぼれはせぬ』

「え……命を賭けたって、刀を強くする為に死んだのか?」

『話はあと――』

「【結界展開けっかいてんかい】!」


 八つに分かれた結界が消えたかと思えば、義安の前方に大人一人入りそうな結果が展開される。風成は疑問に思う。


(なんで一回、結界を消したんだ? ……今出した結界は、さっきの八つの結界が合体したのより大きい。単純に考えれば結界の大きさを変えるのに一々、消したりする必要があるって事かな)


 義安は前方に結界を張ったまま風成に突撃する。


 風成も義安に対して突撃する。


「ふんっ!」


 風成は義安の結界越しのタックルを両手のひらで受け止めた。


「うぐぐっ! 動け!」

「無駄だ、この結界は干渉を受けん」

「お前だって、俺を押す力なんてないだろ。くそ動けえええ!」


 二人は互いに押し合ったと思われたが、


「なんつって」


 風成はいきなり手の力抜いて両手をあげ、後方に下がった。


「っ!」


 義安は目一杯、前方にタックルしていたので前に倒れそうになる。風成はここぞとばかりに飛び込んで相手の後頭部を殴りつけようとした。


「もらったぁぁ!」


 しかし、義安は倒れながら体を回転させ仰向けになる。


「いてぇ!」


 義案の前方に展開されている結界は風成の右拳を受け止める形になり、少年は拳を痛めた。


 風成は義案の結界の上に着地する。そして二人は目が合う。


「……」

「……」

「なんの時間だよこれ」

「どけ」

「うげっっ!」


 義安は展開した結界を消すと同時に足を上げて体を折り曲げて、くの字になる。そのまま、落ちてくる風成の腹部に足を振り上げてかかとをぶつけた。


 義安の履いている黒ブーツには鉄が仕込んである為、肉体強化の能力を持つ風成でも腹部を痛める。


「靴になんか入ってやがるな、内臓に響く」


 彼は蹴られた勢いで床に尻餅をついていた。


(あいつの攻撃は見切れるし、俺に決定打を与えるほどの攻撃力は無い。ただ、俺の攻撃も通じない。速さで攪乱しても小さい結界を分離させられて色んな方向から攻撃されちまう)


 そして、風成はそもそも、なんで結界越しにタックルしてきたんだと思った。何故なら、結界を分裂させて一定範囲内で自由に動かせるなら極力近づく必要はないからだ。つまり、義安は小結界と言って展開される大きさの結界なら自由に動かせるという事になる。更に風成は、


(あいつが最初に結界を出すときは必ず、前方から現れるな……)


 義安の能力の制限に気付きつつある。


 六々堂ろくろくどう回廻かいねと戦ったレイ・ヴィスタンスも能力が行使できなくなるほどに追い詰められていたように能力者の能力は無制限に使えるわけではない。また、桐宮きりみやセツが足の爪を鉄化させて伸ばす事が困難なのも一種の制限である。


 能力者の脳機能は拡張され常人とは異なる構造に進化している。その結果、超能力とも呼ばれる超常現象を引き起こせる。しかし、能力者に成りたての者は能力をコントロール出来ない。脳機能や体がまだ能力を行使できるように適用されていなからだ。訓練や時間を重ねるにつれ能力をコントロール出来る様になる。また、突然、限界を超えた規模の能力を行使出来る事もある。


 風成は再び、前方に結界を張った義安がタックルしているのに気付く。


「またそれか……ってか床に落ちた刀に拾いたいな……」


 床に落ちている魔刀『紫苑』が独りでに回転しながら風成のもとに向かった。風成は刀に目を見張り立ち上がる。


「なっ勝手に!」


 刀が風成のもとに最短距離で向かっているせいか、義安の背中にぶつかりそうになる。


「くっ」


 義安は風成の反応で回転している刀が近づいてくるのに気付き、前方の結界を消すと素早く床に片手をついてうつ伏せになる。刀は義安の体の上を通過する。


 刀は風成の左手に収まり、風成は利き手である右手に持ち替えた。


「紫苑? ……これは?」

『言ってなかったかの、所有者が刀を強く求めれば、刀は来るぞ』

「それを早く言えよ……まさか俺を試してわざと言わなかったとか」

『忘れてた』

「おい」


 風成は紫苑の肩を手の甲で叩こうとするが、霊体なのですり抜けた。


『で、どうするつもりぞ。この攻防を続けてたらキリがないと思うが』

「俺に考えがある」

『ほう、楽しみにしてるぞ」


 義安は立ち上がり呟く。


「奇怪な刀だ」

「ひゃ」

「?」

「ひゃははははは!」

「⁉」

「あははっ! ひーはははは!」


 風成はいきなり、両目を片手で塞ぐと狂ったように笑う。


「なんだ」


 さすがの義安も戸惑いを隠せなかった。

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