第三九話 研究所に向かって
「ひぃ! これは! まずい!」
「自分の身に何が起こったか理解出来たようだな、逃がしはしないぜ」
レイ・ヴィスタンスはゆっくりと回廻を追いかける。
「デッキに居た時、オマエの右手から僅かな電流を感じて確信した。絶縁体……オマエの能力は体を絶縁体にする事だ。確かにオレの電撃は効かなかったが知っての通り、絶縁体はあくまでも電気を通しにくい性質を持つ。電気が通らないわけではない」
回廻は止まってレイの方を見ずに喋り始める。
「ちみの電気は私に蓄積され過ぎたのだな……それで許容値を超えて……」
「オレが能力の限界を超えて放ち続けた電撃はオマエの右手のひらに相当な電圧を掛けたはずだ」
「それが止めになって私の体を傷付けた始めたという訳かね」
「ふっ……まぁな。お前の絶縁体は今、破壊されている!」
レイは肘を曲げて右手を上げると、右手にばちばちと電撃が纏わりつく。そして、左手の人差し指で回廻を差す。
「オマエに感謝する! これでオレはまた強くなれた」
「やっ! やめるんだぁ! うあああ!」
「逃がしはしないぜ、最初に言っただろ。お前を東京本部の牢獄にぶち込むとな」
回廻は力を振り絞って立ち上がり逃げ始めるが、レイは右手の電撃を回廻に放つ。
「【
右手に纏わりついてた電撃は回廻の背中に直撃すると、回廻はそのまま前のめりに倒れる。
「これで!
――レイと回廻が戦い始めた頃、
風成は船首から一隻の船が離れていく様子を見る。
「あー、無理だ。さすがにあそこまで飛べないわ、なんで俺には翼がないんだ。」
「馬鹿な事言ってないで、おろ、おろ降ろしてよ!」
啓子はずっとおんぶされるのは気恥ずかしかったので風成の背中を叩いて抗議した。
「いたっ痛い! そんな怒るなって」
啓子は風成から飛び降りる。
「全くもう」
「これでも俺はビジネスクラス並みの乗り心地なんだけどな」
「意味分かんないわよ」
二人は海を見ていると、乗っている船の横からゴム製の救命ボートが幾つか現れるのに気付く。ボートは四人用で人が乗っていた。風成は指摘する。
「なんか、いっぱい出てきたぞ」
「船燃えてるから無理ないわよ」
「あれ、乗せてもらえないかな」
「多分、乗っている人を海に落とす事になるわよ」
「お、じゃあ頼む」
「嫌っ」
押し付け合っているうちに風成は、たった今船から出てきた一隻のボートに目を移す。
「なんだあれ」
「どうしたの?」
「ミイラがいるぞ」
啓子も一隻のボートに目を移すと顔に包帯が巻かれている白衣を着た人が居た。そのボートは最後の一隻らしく包帯に巻かれてる人以外乗っていなかった。
「あれに飛び乗るわよ」
「おいおい、怪我人を海に突き落とすなんて、敵とはいえ良心が痛むぞ」
「そんな事しないわよ」
「どうだが。怪しいな」
「……」
啓子は呆れつつも床を蹴ると足裏から炎を噴射させてボートに飛び乗り、風成も後を追いかけて、船から跳躍した。
「な、なんだ!」
顔に包帯が巻かれている人は二人の人間がボートに飛び乗ったので驚いた。啓子は攻撃される事のないように拳を炎に包ませて脅しにかかる。
「私達をあんた達の研究所まで連れていきなさい。言う事を聞けばなにもしないわ」
「クソが、よりにもよって君達が来るとは」
「あれ、お前は確か」
風成は聞いた事のある声と口調で相手の正体に気付く。そう彼女は昨日、風成と戦闘してた桐宮セツだったのだ。
「桐宮セツだな!」
「え、この人が?」
「ああ、間違いない、声が一緒だし。何より俺、最後にスーパーアッパーでぶっ飛ばしたからな。多分、それで包帯してんだろ」
「二度と君と会いたくなかったな。傷が疼いてしまう」
「おいおい、固い事言うなよせっちゃん」
「誰がせっちゃんだ! 食らいやがれ! 鉄づ……ぐっ」
セツは風成を攻撃しようとしたが、無理に動こうとすると顔が痛んだ。風成は研究所に向かいたい旨を伝えた。
「クソ、なぜ、あたしが運転しなきゃいけないんだ」
「私達、運転出来ないのよ」
啓子は船に付いている船外機を見て言った。
「……ちっ。あたしも今から向かう所だ」
「お、さすがせっちゃん」
「人をおちょくりやがって」
風成はセツを茶化し続けていた。対してセツは怪我している上に二人相手に戦闘する事は自殺行為に等しいので、このまま研究所がある人工島に連れて行くのが安全だと思った。
「君達、どうせ研究所に行っても、死ぬだけだ。東京
「俺達が行かなきゃ、お前らの都合で生まれた女の子はお前らの都合で一生利用されるだろ。そうはさせねぇよ」
風成は動き出したボートの進行方向を見ながら答える。
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