13.天に二物を与える神様

 この人めっちゃ綺麗なんですけれど。しかもこの人が国の中枢にいるっていうことは、頭もいいっていうことだよね!? なんで天は与える人にだけ与えて、与えない人には与えないんですかね!?

 私は目の前にいる人に対してそんな感想しか抱けなかった。


 ここはレヴィヨン王国の王都エルブの郊外にある、王太子殿下が居住されているという離宮に私たちはきていた。あのギルドでの言葉通り、ジェイドさんから事前連絡が行っていたので、正門らしきところでは顔パス状態だった。

 ジェイドさんスゲーな。

 しかも離宮っていってもさすがは大国。

 前世でいうヴェなんとか宮殿やらクレなんとかとか、なんとかガム宮殿とかみたいな豪華な迷路で、それを勝手知ったる家のようにすいすい歩いていくジェイドさんに私たちは無言でついていくだけだった。


 そして、ジェイドさんがノックもせずに入った部屋には銀髪の長身の男の人がいたのだ。彼は手元で作業していたのをやめ、ようやく来ましたかと目を細めた後、そこにお座りなさいと声をかけてくれた。

 うーん……この蒼い瞳、どこかで見たような気がするんだけれどなぁ。

 まあ、いいや。

 部屋にいた男性は短い髪を揺らしながら、私たちが座ったところの正面に座る。


「はじめまして、ミコ・ダルミアン。そして、長命族エルフの賢者、アイリーン、猫耳族ケット・シーの戦士、アンバレダ・ミミィもようこそ夏離宮へ」


「は、はじめまして……――」

 男性はクールビューティーというよりもアイスブリザードのような感じだな……――なんか違うけれど、気にしないでおこう。しかし、アイリーンもミミィも緊張しているからか、珍しくも挨拶さえできてないし、私も声が震えてしまったのは見逃してもらえると――――


「ふふふ。怖がらないでくださいな。別にあなた方をとって食おうなんて考えておりませんので」


 見逃してもらえなかった☆

「……兄貴、どう見てもその笑みが悪魔の笑みにしか見えないから」

「おや、心外なことを。私の弟ならばこの笑みが悪いことを企んでいるように見えます?」

「見えるから言ってるんだよ」

「それはそれは非常に残念ですねぇ」

 そんな私たちを見かねて、アイスブリザードのような男性に気安く絡むジェイドさんだったが、その彼でさえ男性の言い分には黙りこんでしまった。

 ……って。


「お兄さん!?」


 ジェイドさんはたしかに『兄貴』と言った気がするんですけれど……と思って目の前の男性を見ると微笑まれた。

「ええ、そうです。愚弟が言ってませんでしたか、これは申し訳ない。私はこの金髪の兄、ユリウス・ユグレインと申します。お見知りおきを」

 はぁ。

 いやさぁ、はぁ、そうなんですかとしか言えないんですけれど。だって、国で保護対象のスキルを持っている美形・・兄妹の兄なんですよ、奥さん!

 とんでもない優良物件じゃないですか。

 むしろ優良物件すぎて、裏がないか心配になっちゃうぐらいですってば。

 でも、それで納得できた。

 そりゃあジェイドさんと髪色は違っていても、目元とかはそっくりなんだっていうことがね。

「ちなみに、こいつは魔力もスキルも持ってないが、家柄と俺と妹という存在、そして頭の出来が良すぎたから二年前、二十三で宰相補佐になっている」

 ジェイドさんの淡々とした説明に、へぇそうなんですかと頷くしかなかった。

「ふふふふ。褒められているのか貶されているのか微妙なところですが、褒められているとしておきましょう――紹介にあずかった通りです。私はそこの放浪金髪と脳筋金髪と違ってスキルを持っていません」

 銀髪の男性、ジェイドさんのお兄さん、ユリウスさんは少し不気味な笑いをしながら、自己紹介してくれた。

「ですが、実家の伯爵家は先代の王妃殿下の出身だったことや、たまたま同じ時期に生まれた現王太子殿下のご学友として、小さいころから王宮に出入りさせていただいておりましたので、ついでとばかりに押しつけられました」

 うーん、こっわぁい(涙)。

 お兄さんの黒い笑みはガチで怖かった。多分、前世での政治家が束になっても勝てないんじゃないくらいの狡猾さがあるような気がするよ。

「とはいえども、悪いことばかりではありません。ジェイドから聞きましたが、あなたの力をもって魔物を封じこめることができなかったと聞きました」

「あのう、それなんですけれど」

 とうとう本題が来たのだが、それについて言っておかなければならないことがあることを思いだした。あれは自分では役に立たないことを。

「なんでしょうか」


「私の魔力は少ないです。だから、もしかしたら同じ『洗浄』を持っている方でも私以上に封印できる力を持つ人がいるかもしれないんですよね。その方にお願いすることはできないんでしょうか?」


 アイリーンやミミィは私に魔力が少ないことを知っているけれど、はじめて会ったばかりのユリウスさんはそれを知らない。だから先に私は自分の力では解決できないことを言っておかないとと思って言ったのだが、目の前の男性はうんうんと頷く。

「なるほど。放浪金髪があなたを気に入る理由がわかりました」

 はぁ!?『気に入る』ってどういう意味ですかね? 保護対象としては見られている気がするけれど、それが気に入るにつながっているのかどうかわからない。というか、どう考えても放浪金髪ってジェイドさんのこと……ですよねぇ?

 当の本人は少し赤くなってそっぽを向いている。

 ねぇ、どういうことですか!?

 しかし、ユリウスさんはその続きを言わずにそうですねぇと考える。人の話を聞かない、マイペースなのはどうやら兄妹そろってのことのようだ。

「多分、あなたはなんらかの制限をされているのではないでしょうかね」

「どういう意味ですか?」

「失礼ですが、あなたのアンクレットはおそらく魔力封じというか、当事者の魔力を制限するものなんですよね」

 アンクレット?

 言われてみれば冒険者になると決めたとき、ギルドに行く前日にはもうすでについていたような気がするな。とはいえ、自分からはめた記憶も、親につけられた記憶もない。それに物心ついたときからはめていたというわけでもない……はず。

「それを外せば魔力が膨大に膨れあがるはずですよ」

 ほっほうー

 試しに外れるかどうかいじってみたが、複雑な構造のそれは一切外れる様子を見せなかった。それどころか、さらにしっかりと絡みつきはじめたような気がするんですけれどぉ。

 物理的には変わってないはずなのに、精神的圧迫感がすごい。

 そんな悪戦苦闘する私の様子を見ていたユリウスさんは、興味津々でこちらを見ながら口をはさんできた。


「私の知り合いの男で魔術、スキルの研究に長けたものがいますので、そのものに……へぷっ」


 不自然に言葉が途切れたのでどうしたのかと思ったら、ユリウスさんは倒れていて、先ほどまで彼がいたところには魔王化したアイリーンが立っていた、バールを持って。

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