5.彼って人気者なんですね(違う)
けどもそこから順風満帆にことが進むはずもなかった。
案の定、私が寝かされていた部屋に入ってきたアイリーンがジェイドさんに強烈なパンチ(言葉)をかましていた。
ちなみにジェーンさんは一緒に入ってきたミミィを見た瞬間、触りたいぃとよだれが出そうなくらいガン見していたが、
とりあえず今は武器をしまっているようだ。それだけでも進歩しているアイリーン。
「で、あなたが私たちに加わることになったんですか」
「ああ、『ラテテイ』のためにも必要なことかと」
しかし、それに怯むようなジェイドさんでもなく、アイリーンが炎ならば彼は氷のように淡々と論破していた。
「ハーレムを構築するために私たちのメンバーになったと思われますよ」
「……それでもだ。命には代えられん。それにいろいろ教えがいがありそうだしな」
アイリーンの指摘に自分でも気にしていたのか、ちょっと目をそらしながら返すジェイドさん。しかし、彼女が真っ向から拒否すると思っていたので、そこは意外というかなんというんだろう。
まさか『審美眼』でも使ったのだろうか。
どちらにしても彼女がいいというならば問題はない。
「騎士さんのようなこと言うのですね」
「……――立場的にはそれに近い」
私が余計なことを考えている間にぽんぽんと進んでいく会話。
うん?
『騎士に近い立場』ってどういうことだろう。
「そうですか」
でも、アイリーンはそこについて深く突っこまない。彼女にとってはどうでもいいことなんだろう。
「ミミィも良いですね?」
「へ? あ、はい。問題ありません」
あとは人見知りしやすいミミィだけだが、彼女も問題ないという。
まあ彼女もよっぽどムキムキの人じゃなければ、基本的にはリーダーであるアイリーンの決定に逆らうことはない、自分の意思で。
「では、パーティのリーダーとしてお願いいたします」
アイリーンのこの一言によってジェイドさんの加入が決まった。
「私たちと一緒に旅をして、○○や×××などを教えてくださいませんか?」
……――――最初がやたらと丁寧なあいさつだったから、ヤな予感はしていたのだが、やっぱりやりやがった。というのが私の思いだ。
真っ昼間ですよ、アイリーンさん。
「アイリーン」
「アイリーンさん……」
「……――――」
順に私、ミミィはジト目でアイリーンを見るが、彼女はいたって笑顔だ。しかも純度百パーセントの。
ちなみにジェイドさんだけは少し顔を赤くしてそっぽを向いている。失礼だがこの手の冗談に意外と耐性ないんだ、この人。
「ふふふ、冗談よ。というか、そんなことで顔を赤らめるなんて」
私たちの視線にオホホと笑うアイリーン。今はまだ笑ってすまされる冗談だけれど、世の中には言っていい冗談と悪い冗談がある。この先、思いやられるよ。心臓に悪いなぁ。
話がまとまった後、ジェイドさんのパーティ加入の手続きをるために表の受付に移動してその旨を伝えると、わかりましたぁと少し間延びした声をだす受付嬢が書類を取りだした。
「ちなみにどなたが入られるのですかぁ?」
受付嬢が私たちの顔を順繰りに見て尋ねる。私たちが少し首を傾げると、本人を連れてきてもらわないと、ダメですねぇと呆れたように言う。
うん、それは知っているよ。
ほとんどの冒険者は冒険者として認定された直後にパーティに加入する。
もちろん私やミミィのように継ぎ足しでパーティに加わることもあるけれど、大半は仲間同士で組む。
だから身元がはっきりしている。
でも、中には名前を勝手に借りていく人もいるし、意に添わない加入を強制する人もいる。それを防止するために必ず本人の同意のもと、そして本人申告による申し込みしかしていない。
ちなみに前世と非常に文化は似ているようで、平民でも戸籍というものがあって、出生地と別の場所でなにかしようもなら、かならず出生地に問い合わせがいくというシステムになっているので非常に不正はしにくいらしい。
「ここにいる人ですが?」
私はそっと隣を指さすと、すまない、俺だとぼそっとジェイドさんが名乗る。受付嬢はわかりましたぁと言って、冒険者録を探す。
「えーっと、お名前はジェイド・ユグレイン様ですねぇ…………って、え、えええぇぇ!!!!」
突然の受付嬢の叫びにまたまた私たちに全員の視線が向けられる。
どうしたのだろうか?
そっと隣を見ると、ジェイドさんはとってもばつの悪い顔をしている。
?????? 私には理由はわからないけれど、彼にはなにか心当たりがあるようだ。
「ジェイド様がここを離れるなんてぇ!!」
ふむ。
どうやら彼女はジェイドさんを知っていたらしい。ま、イケメンだもんねぇ。
うっかり私でもときめいちゃったくらいだから、仕方ないよ。
とはいえ、この受付嬢からへん――――――
「だって、ジェイド様って
お? なんか思った理由と違ってたようだ。というか、どういう意味だろう?『ギルドの安全をつかさどる』って。
しかし、そんなことよりも私たちに誑かされたとは失礼極まりないんですが。
たしかに傍から見ればハーレムパーティに見えるかもしれないけれど、実際はそうでもないのだ。
とはいえども、私たちの釈明にすぐ頷くような子じゃなさそうだなとか考えていると、ジェイドさんがすっと口をはさんだ。
「すでに決まった事項であり、俺の直属の上司にも了解を得ている。それに自分の
ジェイドの言葉にうそぉと涙目になる受付嬢。
「うぅぅぅぅ。その方が余計に質悪いですぅ……――――でも、しょうがありませんねぇ。わかりましたぁ」
「だから、さっさと手続きしてくれ」
「はぁい」
そう言って、加入登録書をジェイドさんに手渡す受付嬢。彼はそれを受けとり、必要事項を記入していく。
『氏名:ジェイド・ユグレイン 性別:男性 年齢:二十、現所属:公営ギルド・フレルディア支部守護 現所持スキル・ランク:『探索』B+、『分解』S-、『魔法壁』S』
…………――――
…………――
……――
ちょっと興味がそそられた私はその記入内容を見てしまったのだが、彼の所有スキルの内容に驚いてしまった。
「って、あんた、Sランクスキル持ちなの!?」
「ああ」
彼はなにか問題でも?というように頷くが、問題だらけだ。
「『ああ』じゃないわよ!? なんでそんなすまし顔がとれるのよ!? あんたが加入したら、私たち国外へ出れないじゃないのよ」
「ダメ、ダメダメダメダメ!!!!」
おもわず私は叫んでしまった。夢の外国放浪生活、私の青春を返せ!!
私たちの今の目標は国外旅行だ。
Sランクスキルを一つでも所持している人が加入しているパーティは国外へ出ることを制限される対象だ。私は持っているのかもしれないけれど、承認されてないんだから、その対象からは外れるんだよぉ。
「しょうがないだろうが。言っただろ?『現段階で最善の方法』なんだって。しかも、言ったら絶対にお前、反対しただろう」
呆れたようにジェイドさんは言うが、だったらそれを先に言ってよぉ~~~~!! その場で反対はしたかもしれないけれど、心構えぐらいにはなったのにぃ。
「まあ、スキルを使わなくたって攻撃力を得られることはできる。だから、もしこの先の道中でお前たち、お前と
私の悔しそうな表情を見たジェイドさんは微笑んでそう言う。
むぅぅ。ずるい。ずるいよ!
そんなときだけ微笑まないでよ!! しかも、めっちゃ受付嬢さんも悔しそうな顔をしてるしぃ!! いい気味だ!
書類に記入し終わったジェイドさんは、受付嬢にそれを提出する。彼女は渋々ながらも受領印を推す。
これでジェイドさんは私たちのパーティ『ラテテイ』に正式に加入した。
「しばらくの間はよろしくな」
こういう習慣があるのか、ギルドを出るときに受付嬢さんを含む職員さんやその場にいた冒険者さんたちが暖かな拍手で送りだしてくれた。
「はい、よろしくお願いしますっ!」
「わかったわよ」
「しょうがないわね」
しかし、私たちは三者三様だった。
ミミィは嬉しそうに、私は少し拗ねて、そしてアイリーンは私たちのやり取りに苦笑しつつ、彼を受けいれた。
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