第18話
(まぁ、初戦はこんなもんか・・・)
決して納得出来る内容では無かったが、ゲーム未経験者と低レベルのNPCの二人との初パーティ戦闘という事もあり、白は自身を納得させる様にした。
「良く出来ましたね、グレイス」
「うん、お姉様」
そんな中、結とグレイスは戦果に納得した様に、手を取り合い、キラキラした瞳で見つめ合う。
「アキラさんも魔法ありがとうございました」
「いえ、役割ですから」
「そうですけど」
「・・・」
グレイスとのやり取りのままの空気で、白へと礼を述べた結だったが、白はつれない態度で応えるのみだった。
「取り敢えず、素材の回収を済ませましょう」
「はい・・・。了解です!」
「・・・」
不満気な態度は隠さず、しかし、白の指示には従う結。
「ぅ・・・」
しかし、チェールヴィの死骸へと近付き、その見た目と臭いに嗚咽に近い声を漏らすのだった。
「終わりましたよ」
「えぇ、ご苦労様です」
「手伝ってくれても良かったのですけどね?」
周囲の警戒をするという意味では素材剥ぎ取りの手伝いをした白だったが、直接手を出す事はしなかった為、結は嫌味ったらしい言い方で、暗にそれを非難したのだった。
「二人が慣れたら、そうしますよ?」
「・・・」
「今までの訓練では、他の方がやってくれたのでしょうが、自分と行動する以上は最低限、カフチェーク活動するのに必要なスキルは身に付けて貰います」
「そんな事・・・、す」
「・・・」
白には聞こえない様に、理解していると不満を口にした結。
白も聞こえないまでも、それを理解したが、結自身が間違いに気付いている為、何も言わずにグレイスへと視線を移したのだった。
「どうかしたの?」
「あぁ。ステータスの確認をね」
「ステータス・・・?」
「グレイスの力・・・、能力の事だよ」
「そんなに早く成果が出るものなのですか?」
「えぇ。グレイスはレベル1でしたからね」
白の言葉通り、チェールヴィ三匹を倒した経験値により、グレイスのレベルは2へとアップしていたのだった。
(これは・・・、かなり)
グレイスのステータスを確認し、心の中で唸る様にする白。
体力系のステータスこそ魔術師平均の伸び率だったが、特筆すべきは魔力や魔力耐性のステータスの伸びであり、それは通常の低レベル帯のレベルアップ時の伸び率の二倍近いものなのだった。
(特別な成長補正スキルは無いし、魔のコルドゥーン家の跡取りが理由に関係しているのだろう。でも、これなら遠距離のアタッカーとして予定より早く戦力になれそうだな)
現状、結にガリュツィナーツィヤのフォローが有るとはいえ、職業的には厳しいタンクを担って貰っていたが、順調に二人が成長し、このダンジョンに隠されている装備を入手出来る頃には、役割を変える事も出来ると白は考えるのだった。
「どうでしたか?」
「どう?どう?」
「レベル2になっているよ」
「本当?」
「あぁ」
「やったー」
「おめでとうグレイス」
NPCにとってはステータスを見るというのは一般的な感覚では無いらしく、レベルやスキル、階級というものが、概念としては備わっていなかった。
その為、レベルアップをしても、感覚的に力が付いたとしか分からず、白から数値として成長を告げられる事によって、グレイスは素直に喜びを爆発させたのだった。
「取り敢えず暫くは上層でグレイスのレベリングを続けましょう」
「もう少し、潜っても・・・」
「駄目ですね」
「・・・」
結の希望を落ち着いた口調で一刀両断した白。
「でも、私もアキラさんもレベルは高いのですから大丈夫だと思いますよ?それに、その方がグレイスにも多くの経験値を与えられますし」
「ステータスだけ鍛えてもゲームの中では意味ありませんよ」
「え?」
「パーティ戦闘に於いては、それぞれのプレイヤーが役割を果たす事の方がより意味があります」
「・・・」
「ステータスでゴリ押しが出来るのなんて、低レベル帯の雑魚敵だけですよ。そんなゴリ押しレベルアップをしていても、本当の強敵に出会した時には何の意味も持たないですから」
パーティ戦術の基礎を身に付けずに下層へと進む事も問題あったが、白に取ってはグレイスの身の安全というのも重要な事なのだった。
(もし、一緒に行動している時に戦闘で死なれでもしたら、それこそ本末転倒。なるべく安全な方法でグレイスの願いは叶えたいからな)
「分かりました」
「うん」
流石に結も白の述べた理由には納得するしか無く、素直に頷くと、グレイスもそれに続く。
「じゃあ、取り敢えず今日はこの階層でレベリングを続けましょう」
「了解です」
「うん」
こうして、その日は一日中ダンジョンに潜った三人。
白と結は流石にレベルアップをする事は無かったが、グレイスは一日でレベル4まで達したのだった。
「はじめまして、アキラです」
「ああ。仲間から話は聞いてる」
三人でダンジョンに潜った翌日。
ケンの友人に紹介して貰った双魔のスキルに目覚めたプレイヤーの下へとやって来た白。
「『イクス』という。このラードゥガを根城にしながら、仲間とゲームクリアを目指している」
「ゲームクリアですか・・・」
「ああ。こんな事件を起こした犯人を倒して、全プレイヤーを解放する為にな」
イクスと名乗ったプレイヤーは、エルフ族の線の細い、女性と見間違えそうなキャラメイキングをした中性的な男性だったが、その口調は力強くハッキリとしたもので、自信に満ちた表情で目標を宣言したのだった。
「君もかい?」
「そうですね・・・。まだ駆け出しでけど」
「いや、その心意気や良しだよ」
「はぁ」
「一人でもそういうプレイヤーが増えてくれるのは、自分としても心強い。それに、仲間も友人から君の事は良い奴と聞いているらしいし、聞きたい事が有れば、何でも聞いてくれ」
「ありがとうございます」
清々しくこれぞ好人物といった感じのイクス。
白も引っ張られる様に、いつもより明るい調子で礼を述べたのだった。
「イクスさんは、どんなタイミングで双魔のスキルに目覚めたんですか?」
「あれは、ダンジョン攻略中だった」
「ダンジョン・・・」
「まあ、特別なボスと闘っていた訳では無いし、雑魚敵との何でも無い戦闘中、急にだったな」
「魔術系スキルを使用してたんですよね?」
「ああ。因みに俺は攻撃系だったが、知り合いの魔術師は回復魔法中って話も有るよ」
「知り合いって事は、結構な人数が使えるんですか?」
「本当かは確認してないが、話は複数聞くな」
「なるほど」
「まあ、俺の知り合いと俺ではレベル差で10はあるし、レベルで覚えるスキルじゃない事は確かだろうな」
「SP消費量は?」
「二つの魔法の合計使用量の130%だ」
「・・・」
イクスの告げて来た内容は、白もある程度予想は出来た事だったが、使用量的には中々厳しい制約と感じた。
(使いどころを間違えたら、即ガス欠になってもおかしくないな)
そう考えると微妙な気持ちになった白だったが、白には運命を破壊せし叛逆者もある為、将来的な事も考えた。
「ステータス画面を鑑定させて貰えますか?」
「ああ。構わない」
イクスの許可を得て、記憶の書庫の鍵を持つ者のスキルでそのステータスを確認する白。
(レベル43・・・、口だけの人間では無いな)
ゲームクリアを目標として宣言したイクス。
好人物なのは白も認めていたが、その目標に付いては正義感から来る無謀なものの可能性あるとも考えていたが、期間も考えるとその目標を口にするのに順調な準備を進めていると感じられた。
(魔術系スキルはレベルのものと、イベントクエスト関係のものは攻略に有用なものだけか)
習得スキルの欄を確認し、効率的な攻略を進めていると感じた白。
観察眼を発動した双眸に次に映ったのは、双魔の文字だった。
(内容は同時詠唱可能とイクスの言った通り130%の件・・・)
白が双魔の項目を確認していた、次の瞬間。
《記憶の書庫の鍵を持つ者による特殊観察眼を発動しますか?》
「っ・・・⁈」
突如として頭に響いて来たシステム音声に、驚き背をびくりとさせた白。
「どうした?」
「えぇ、実際に目にすると驚きますね」
「はは、なるほどな」
心配するイクスへと、如何にも小心者といった感じで応える白。
しかし、システム音声にはハッキリとYESと応じると、双魔のスキルの項目に、最初は無かった習得条件の項目が付け加えられたのだった。
(なるほど・・・、な)
その項目を確認し、イクスの習得スキルと照らし合わせて納得した様に、独り心の中で頷く白。
「ありがとうございました」
「ん?もう良いのか?」
「えぇ。実戦で得たと知れただけでもありがたいですし」
「なるほど。数を熟していくんだな?」
「えぇ」
「まあ、それが一番の近道だろう」
白の言葉に嬉しそうに頷いたイクス。
白は手短に礼を述べると、スキル習得の為、ケンの家で待つ結とグレイスの下へ向かうのだった。
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