168 お盆休みのリゾート? 2
「ンンッ? 今、何時?」
亜香里がスマートウォッチで時間を確かめると、午前1時。
「さっき寝たばかりじゃない、 ナニ? 何だか外がうるさいのだけど…」
両腕を使って起き上がり、ヨタヨタしながらドアを開けて廊下に出てみると、二階の窓から庭を見下ろすと、白装束に白い三角頭巾を被り松明を持った集団が、円陣を組んで何かを叫んでいる。
「エェッ! ちょっと待ってよ。何で軽井沢にKKK(クー・クラックス・クランク)がいるの?」
廊下を見ると少し離れた窓から、詩織と優衣が外を見ていた。
ベッドから急いで飛び起き松葉杖を忘れた亜香里は、壁伝いに2人のところまで歩いて行くと、詩織が亜香里に気がついた。
「お寝坊さんも、起きてきましたか?」
「あれだけうるさいと私でも目が覚めます。あれは何なの?」
「ここのコテージのこととあの人たちの事を聞こうと思い、父に連絡を取りましたが電話に出ません。あれってアメリカ発祥の怪しい集団ですよね?」
「建物に入って来るよ」
謎の集団は優衣がカードキーで入館した玄関から、続々と建物内へ入り階段を登って来た。
「2階に登って来る足音がします! どうします?」
「どうするも何も、不審者は撃退するしかないでしょう」
詩織はどこから持って来たのか、片手に木刀を持っている。
階段を登って来た白装束の集団が亜香里たちを見つけ、廊下をユックリと近づいて来る。
手には松明を持っておらず、その代わりに30センチくらいの黒い棒を持っていた。
「(銃刀は持ってなさそうね)勝手に入って来たから、警察を呼ぶよ!」
詩織は、木刀の切っ先を謎の集団に向けて叫んだ。
すると謎の集団が手に持っていた棒から、次々に網が発射され亜香里たちに飛んで来た。
(アッ! まずい!)気がついた時には3人とも、謎の集団が発射したネットランチャーに捕らえられ、投網に捕まった魚の状態になっていた。
詩織は、亜香里と優衣に手を伸ばして、瞬間移動で投網から脱出し、洋館の外に出た。
詩織が『取りあえず、逃げられた』と思い、芝生から起き上がり横を見ると優衣は居るが、亜香里の姿がない。
「アレッ? 亜香里が居ない!」
詩織が掴んだつもりの亜香里の足は左足のギプスで、亜香里本人はまだ洋館の2階に居る。
一人、投網の中に残った亜香里は、近寄って来る謎の集団と対峙していた。
(詩織は
亜香里は気を取り直して、投網の中から謎の集団に向かって叫ぶ。
「あんたたち! 私は鹿やイノシシじゃないんだから! あまりふざけたことをするのなら、こっちにも考えがあるからね!」
亜香里は廊下に横たわったまま、小さい稲妻を出して網を焼き切った。
廊下の壁に捕まって、何とか立ち上がる。
「イタタッ! ギプスが無いとやっぱり痛いよ」
網を焼き切った亜香里を見て、謎の集団は動揺したように見えるが、一歩も退かなかった。
「不法侵入したくせに、ふてぶてしい人たちね!」
亜香里が瞼を閉じ、能力を集中した瞬間、階段を駆け上がって来る音と『待って!』という大声がした。
階段を駆け上がって来たのは、片手に亜香里のギプスを持った詩織と、頭巾を脱いだ白装束の男性である。
亜香里は(エッ!)と気がつき、目を見開く。
「亜香里、この人たちはこの洋館(コテージ)のオーナーに頼まれて、宿泊のゲストをお遊びで驚かすためのスタッフなんだって」
詩織と一緒に階段を上がって来た白装束の男性が、申し訳ない表情をしながら説明した。
「夜遅い時間に驚かせて申し訳ありません。もっと早い時間に真夏の怪談として驚かす予定だったのですが、こちらに来るのが遅れてしまいまして… オーナーからは、今日は違う方が宿泊すると聞いていたものでして。女性が泊まると分かっていれば、こんなに手荒いことはしませんでした。本当に申し訳ありませんでした」
亜香里と対峙していた白装束集団も、説明を聞いて頭巾を脱いで、頭を下げる。
「そう言うことですか。 何か行き違いがあったと言うことですね。分かりました。私たちも怪我はしていませんし大丈夫です」
壁に寄りかかりながら亜香里が話す。
「そう言って頂けると助かります。いきなり網を掛けてスミマセンでした。ところで先ほどネットランチャーを掛けた時、お二人が急に消えましたし、あなたは火花のようなもので網を焼き切りましたが、どうやったのですか?」
亜香里と詩織は(アッ!)と思い、顔を見合わせ、どう誤魔化したものかと思い、亜香里が頷いて話を始める。
「私たちは、東京にあるマジック同好会に所属しております。今日はその合宿でこの洋館(コテージ)を利用させてもらっています。 昨日ここに着いてから館(やかた)の中にいろいろな仕掛けを設置済みなので、瞬間移動や火花を出すことくらい、容易(たやす)いことです。例えばこんな感じです」
亜香里は焼き切ったネットランチャーの網を左手に持ち、右手の人差し指でそれを指し示して、火花を散らし燃やして見せる。
白装束集団からは『オォッ』と言う声とともに拍手が起きる。
「なるほどよく分かりました、私たちも今日のような衣装を着て脅かすのが本職ではなく、奇術の方が専門ですので、よろしければ差し支えのない範囲で技術交流をやりませんか?」
亜香里と詩織が再び顔を見合わせて(話が面倒な流れになって来たね)と思っていると、目を閉じたまま手すりを持ちながら、優衣が階段を登って来た。
優衣が2階に上がると、白装束集団のまとめ役の男性が急に話し始める。
「今日は遅いですし、明日の予定もありますので、私たちはここで失礼します」
その男性の言葉で白装束集団は、洋館を出て敷地内から去っていった。
「最後はあっけなく出て行きましたね。能力のことを疑われたらどうしようかと思いましたよ。もしかしたら優衣が精神感応を使ったの?」
「はい、亜香里さんの受け答えを聞いていて、話がややこしい方向に行きそうだったので、早く帰るように、リーダーに精神感応で帰るように言い渡しました」
「そっかー、助かったよ『技術交流』と言われても、こっちには奇術のネタがありませんから」
「そうですよ、この能力が普通の人にバレたら『組織』の活動が出来なくなります」
「それにしても優衣のお父さんの知り合いって変わった人よね。わざわざ軽井沢の奥まで、あんな人たちを動員するんだから」
「そうだ! それで思い出しました。もう一度父に連絡を取ってみます。せっかくゆったりしたリゾート気分を満喫していたのに、それを邪魔されるような集団に襲われたのですから」
優衣が怒ったように電話を掛ける。
『お父さん? 今? 午前2時です。聞いてくださいよ! 洋館(コテージ)でグッスリ眠っていたら、怪しい集団が押し寄せて来て…』
優衣は先ほどまでの経緯を父親に説明する。
『はいはい… そう言うことですので… 亜香里さんなんかは、ギプスが取れちゃったんですから… はいはい、それではよろしくお願いします』
「優衣、何だって?」
「父もそんな仕掛けがあったなんて知らなかったと言っています。その知人にさっそく連絡を取って善処させるって」
「そんなに大袈裟なことをしなくても良いよ。ギプスが無くなったのは不便だけど」
「ゴメン、足を掴んで一緒に瞬間移動したつもりだったんだけど、まさかギプスだとは思わなかった。すっぽりと抜け殻状態だけど、これをもう一回、足に嵌めることは出来ないよね?」
詩織はギプスを右手に持って亜香里に差し出す。
「セミだって抜け殻に戻ることはできないでしょう? 『組織』にまた新しいのを作ってもらいますよ。 真夜中に変なものに起こされたけど、緊張が解けたら眠くなりました。じゃあ寝ますね、おやすみなさい」
亜香里は廊下の壁伝いに歩いて行き、自分の寝室に入って行った。
「深夜だし、ウチらも寝ようか」
「そうしましょう、おやすみなさい」
窓の外から微かに聞こえてくる虫の音を聞きながら、詩織と優衣もそれぞれの部屋に入って行った。
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