036 休日に優衣からのお誘い3

「変なモノが入っていたのではなくて、変なところに続いていた? というところかな? でも『私たちがそこに入って行く』という選択肢しかなさそうね」亜香里はライトで地下へ続く階段を照らしながら、箱をまたいで階段に足をかけている。

「それしかないと思うけど、何が出てくるか分からないから、対応できる様に武器は手に持って行こうよ。中は狭くて日本刀は使いにくそうだから、ライトセーバーを貸してくれる?」

 亜香里は詩織にライトセーバーを渡し、自分はブラスターピストルを構えて階段を降りて行き、詩織と優衣はそれに続いた。

「私がお願いしたことなのに、お二人に面倒をかけてすみません」優衣は恐縮しながら、念のため箱の蓋が閉まらない様に支え棒をする。

「気にするなって。同期入社で同じ能力者補になった仲間でしょう? 3人いれば何とかなるよ」格好良いことを言う亜香里だが、本人の好奇心が何物にも優っていた。

 階段を降りた地下1階にあたるところは真っ暗で、3人が手に持ったライトしか明かりがなく周りの様子はよく分からない。

 見たところ狭い地下通路で何処にも穴や隙間は無く、急に変なモノが出て来そうな感じはしない。突き当たりにドアが一枚あるだけであった。

 3人はドアの前まで慎重に歩いて行き、亜香里が2人に確認する。

「ここまで来たらドアを開けないと意味がないから開けるけど、武器の準備は良い?」

 暗がりの中、2人が頷(うなず)くのを確認してから、亜香里は勢いよくドアを開けライトで部屋の中を照らす。

 その部屋は6畳ほどの小さな部屋で変なモノは居らず、部屋の奥に小さな机が1つあるだけだった。

 ライトで机の上を照らすとノートが数冊ある。3人はページをパラパラとめくってみる。

「おそらく、アキ叔父さんのノートだと思います。手帳に書かれていた字と良く似ています。私の机にあった手帳もここにあったモノだと思います」

「他には何もなさそうだから、このノートを持って上に戻らない?」詩織の言葉に2人とも頷(うなず)き、優衣は大事そうにノートをバッグに入れて、3人は歩いて来た地下通路を戻り、階段を上って箱の外に出た。

 蔵の電気が全て消えており、蔵の入口から漏れる外の光だけが蔵の中を照らしている。

「この蔵も古いですから、どこか電線が切れたのかも知れません。とりあえず外に出ましょう」暗い蔵の中に居ても仕方ないので優衣の言う通り、蔵の外に出てみることにする。

 蔵の外に出てみると、入る前とはなんとなく空気の感じが違うことに気がつく。

「なんだか庭の様子が変です。木が少し縮んだ様な気がします」優衣は敷地内の木々を見ながら洋館へ向かい、2人もそれに続く。

 3人が玄関ホールに入るとホールの照明が全て消えており、薄暗い。

「あれ? 家の中も電気が切れています。停電があっても大丈夫な様に非常電源設備が稼働するはずなのですが」優衣は中の部屋へ走って行く。

「なんだかスッゴく変な感じがしない?」

「する、する。このお屋敷もさっき来た時と、どこか分からないけど変わった感じがする。スマートフォンは? あーやっぱり、圏外だ。こんな都会なのに… 停電しても基地局は電源のバックアップがあるはずだから、急に圏外にはならないはずよ。蔵の中には1時間もいなかったから、やっぱり何かがおかしいよ」

 優衣が困った顔をしながら、走って玄関ホールに戻ってくる。

「亜香里さん、詩織さん、ちょっと信じられないのですが、キッチンにあるカレンダーを見たら二〇一〇年四月になっていました!」

「「 エッ!! 」」思わず声を上げて考え込む2人。しばらくして詩織が口を開く。

「今は『組織』の変なトレーニングの時間じゃないよね? 週末の休日に優衣の家に呼ばれているだけよね?」

「その認識で合っています。優衣が以前から『組織』の人間で、私たち2人をトレーニングしているのであれば、話は別だけど」

「亜香里さん、ひどいです! 折角できた同期の友達をそんな風に騙(だま)したりしませんよ。今の状況に一番困っているのは私なのですから」

「悪い、悪い。優衣を疑っている訳ではありませんよ、可能性を言っただけだから。ただ、このお屋敷に居ても本当に10年前に戻ったのかどうかは分からないから、外に出て確かめて見ようよ」亜香里の言葉のとおり、外に出かけるためにガレージへ3人で向かう。

「私のバイクが無い! 優衣のバイクも!」

「父親のバイクが昔乗っていたZ1000に変わっています。車も何代か前のレンジローバーです。ヘッドライトが丸目になってます」

「本当に10年前に戻ったみたい。とりあえず車で外に出てみようよ、車のキーある?」

「ええ、壁のキーロッカーに」

 優衣からキーを受け取り、レンジローバーに乗り込む詩織。スマートキーではなく、差し込んで回すキーを回してみるがエンジンが掛からない。

「エンジンが掛からない。バイクのキーも貸して」

 Z1000のキーを回しスターターボタンを押してみるが、やはりエンジンは掛からない。

「ダメだ。仕方がないから歩いて外に出てみますか?」

「そうね、ここにいても何も分からないから。何が出てくるか分からないから装備をして外に出てみようよ」亜香里の注意喚起で、3人は改めてブラスター、ライトセーバー、トルコ弓を直ぐに使えるように持ち、篠原家の門から外に出てみる。

 敷地の前の道路には人のいる気配はなく、車も走っていない。乗り捨てられた様に、道路のあちらこちらに車が止まっている。

 3人は敷地に沿って歩道を歩き、角を曲がり、大通りまで出てきた。

「また、ラクーン・シティじゃないよね?」

「それは無いと思うよ。道路に止まっている車は、単に止まっているだけみたいだし、周りのビルを見ても燃えた跡は無いし、ゾンビも出てこなさそうだし」

「でも、ここの大通りはいつも車の交通量が多いんですよ。生まれてから今まで、こんなに静かなこの通りを見たのは初めてです」

 大通りに面した店舗やカーディーラー、ガソリンスタンドも開店したまま電気が消え、人が居なくなっている。

 3人が大通りをしばらく歩いていると急に黒い雲が増え、空が暗くなり風が吹き始め、次第に強くなって来た。

「『組織』のトレーニングでもないのに、映画のシーンを思い出しました!」

「亜香里ぃ、嫌なこと言うなよ。亜香里のそれって大体当たるし、その後とんでもないことが起こるのでしょう? おまけにこれはトレーニングじゃないから、詰んだらそこでトレーニング終了って、ならないんだから」

 3人が誰もいない通りで話をしていると、その場に立って居られなくなるくらい風が強くなり、3人は近くにあった無人のコンビニエンスストアの自動ドアを手でこじ開けて中に逃げ込んだ。

「これ以上、風が強くなったら、このお店のガラスも割れてしまうね」

 3人が避難したコンビニから、数百メートル離れた通りの向こうに大きな落雷が続けて落ちている。

「落雷って、同じ所には落ちませんよね?」優衣が子供の頃に習ったことを思い出す。

「まさかだよね? 強い風が吹いて空が暗くなって、同じところに落ちる落雷とか」亜香里がある映画を予想する声をかき消す様に、叫び声のような大きな金属音が聞こえてきた。

「あーっ! ビンゴ! トライポッドが襲ってくる! 早くここから逃げよう」

 先ほどより少し風が弱くなってきたためコンビニエンスストアを出て、トライポッドが出現した反対方向に走り出す亜香里と、状況がよく分からないが危ないことだけは分かったので、一緒に走り出す詩織と優衣。

「亜香里ぃ! とりあえずに逃げるけどあれが何なのかと、どうすれば良いのか教えてよ!」走りながら、亜香里に向かって叫ぶ詩織だった。

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