第8話 反逆のフェイゲンバウム
一か月後
ベリアル軍の三分の一が新生イエルシャルム共和国軍の中心となり、イエルシャレム軍総司令の座にベリアルの子ベリナスが立ち、クラウディア妃殿下は正式に選挙で共和国議長に選出された。
ハハルビコフ帝国内部は混乱し、サタン、ベルゼブブが推すルシフェルの長男ルシェールと、ルシフェルの懐刀であった穏健派のルシェリ派で国内は混乱していた。
この機を逃してはならないと、イエルシャルムの西に位置する広大な穀倉地帯を要するベルフェゴールの納める地、シネル王国に宣戦布告すべく、ベリナスとヤハゥエは協議を重ねた。
イエルシャルム国内は解放の喜びで沸き上がり、シネル王国からの亡命者も多くが義勇兵として新生イエルシャルム共和国軍に志願し、ハハルビコフ討つべし、の声が多く上がった。
一方、フェイゲンバウムは、なぜ自分がルシフェルの落胤であることをヤハゥエが隠していたのか問い詰めることが出来ず、懊悩しつつ日々を無為に過ごした。
ベリアル軍は隣接するサタン派筆頭のマモンが治めるディナール王国侵攻を準備し、書簡でシネル王国とディナール王国に対しクラウディア王国連合軍として、同時に宣戦布告する旨が、ベリアルとヤハゥエの間で協議され、議会の承認とクラウディア王国のシャイン陛下の宣戦布告の檄文が両王国に届けられた。
すかさず、越境してベリアル軍と戦闘状態に突入したディナール王国に対して、イエルシャルムと直接隣接するベルフェゴールのシネル王国軍は全く兵を動かさなかった。
いや、動かなかったのである。
シネル王国侵攻軍の先鋒を務めたヤハゥエとルシフェルとフェイゲンバウムは、様子見の籠城を続けるシネル王国の城を次々と落とし、シネル王国首都ザサスにまで迫った。
ことここに至っても、籠城し、隣接するベルゼブブのリフィトポリス副王国に援軍要請を出すベルフェゴールだったが、その要請は無視され続けた。
ベルゼブブは弱小のシネル王国を救助するより、捨て駒にしてイエルシャルム軍の補給線を伸び切らせることを選択したのである。
ザサスを包囲したヤハゥエは降伏勧告の使者として、フェイゲンバウムを敵城内に送った。
だが、フェイゲンバウムは降伏勧告ではなく、ベルフェゴールに会うなり、彼を突き殺し、ベルフェゴールを亡きものとして、自身はシネル王国軍を自分がルシフェルの落胤であることをシネル王国王城ザサスで宣言し、ハハルビコフ帝国に寝返ったのである。
その口上はこうである。
「無能なるベルフェゴールは、王の器ならず! しかし諸君! わたしは脾肉を肥え太らせる豚の如きベルフェゴールではない! ヤハゥエ・ヤルダバオートはわたしを卑劣な嘘で騙し、わが父であるルシフェルを討った! それはいい! しかし、新生共和国軍は、ハハルビコフ帝国の内部分裂を好機とみなし、諸君ら平和を愛するシネルの民を討つ! これのどこに天王なる神の意志があろう! わたしはこれよりザサスを放棄し、ベルゼブブ副王のもとに臣下の礼を取るべく向かう。だが、わたしはその手土産にヤハゥエ・ヤルダバオートを、我が父の仇、あの卑劣漢をここで討つ! 我に怨あり、ヤハゥエに故あり、ならばわたしはヤハゥエを討ち、これを亡き父への手向けとするものである! 諸君らは偽りの降伏をし、彼らを招いてくれ。奴らのことごとくを単騎で、このフェイゲンバウムが討ち取ろう!」
ここに至りついに、フェイゲンバウムの狂気の野望が根を張り芽吹いた
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