異能

キクジヤマト

第1話 ニューフェース (出自不明の新人)

 特有の緊張の中、特殊チャネルの無線で特務警察特殊部隊、Z班の隊長から指示が来る。

『Z班、Iが倉庫に入る。想定外の事態に備えてその場から早急に離れろ』

『了解』

「?隊長」

「何だ」

「想定外の事態に備えるのなら、倉庫から離れたのでは対応が遅れるのでは」

「…初出動だろ。見ていれば判る」

八神隊長の返答は新人の石川にとって、答えにはなっていないものだった。

それでも指示には従うしか無い。

石川は初出動であるため、隊長である八神と行動を共にしている。

他のメンバーはそれぞれの持ち場にいるはずだ。

隊長の八神が何かしらしていたのは感じた。

その後他のメンバーも行動を起こしたようだった。

彼等が何をしたのかは石川には判らずにいた。

Z班は新人の石川を入れて5名しかいない。

他の班は最低でも15名。

多い班では20名であるからZ班の5名は、異常な少なさである。

他班では対応出来ないような最悪の事態が任されるZ班。

対応出来る隊がその後には無いと言う意味でZ班。

彼等が出動し、これまで失敗した事は無い。

石川にとって、そんなZ班に編入出来た事が喜びであった。

そのZ班の活動を身近で見る事が出来ると、期待した石川には拍子抜けする展開だった。

無線連絡から10分後、倉庫のあったあたりが闇に飲まれる。

闇に飲まれるという表現は適切では無いかもしれない。

だが、そう表現するしか無かった。

もし別の表現があるとしたら、地上に突然ブラックホールの様なものが出現した。

と、言うのが最も近いだろう。

数秒でそれは消えた。

消える間際青や緑、そして赤や紫色のきらめきが見えた気がした。

「終わったな。よし、井上を迎えに行くぞ」

Iというのは八神が隊長を務めるZ班の副長、井上譲司のことだ。

何故かはまだ知らされていないが、司令部の者たちは井上を”I”と呼ぶ。

「水素濃度がまだ高い。気をつけろ」

「何故水素濃度が上がったのです?」

「水素だけじゃ無い。周期表で行くと1番、水素から8番の酸素まで、常温で気体のものは漂っているからな。火気厳禁ってやつだ」

石川の問いには相変わらず答えていない。

先程まで倉庫のあった場所に着くと、窪みの中に井上が立っていた。

「ご苦労」

八神が井上に声をかける。

「俺は何もしていない。毎回ご苦労と言われてもな」

不機嫌そうな顔で答える井上。

その理由を判っている八神は一瞬笑ったように見えたがすぐに無表情となる。

訳がわからず、それでも窪みの底にいる井上にロープを投げ入れる石川。

「これは井上さんがやったのですか?」

「…」

無言の井上。

インカムの回線を切り替え、本部に報告を入れる。

『こちらZ班八神。22時38分を持って終了した。Iを回収、撤収する』

『了解した』

見ていれば判ると言われたが、さっぱり判らない石川。

「あの、どういう事でしょうか」

「見ての通り、対象は倉庫毎消滅した。今回の出動は終了だ。他のメンバーも撤収しているだろう」

そう言って隊長の八神は井上に缶コーヒーを渡す。

「微糖かよ。俺はブラックだっつうの」

「許せ。無糖は売り切れだった」

文句を言いつつ、渡された缶コーヒーを一気に飲み干す井上。

そんな井上をじっと見つめる石川。

「何だ?お前も欲しかったのか?」

「い、いえ」

「お前、何も聞かされず現場に来たのか?」

井上の問いに頷く石川。

「…呪いだよ。俺にかけられた」

「呪い」

もっと聞きたい事はあったが井上の悲しいと言うより、絶望していると言った方が的を射ている顔を見て、それ以上の言葉は続かなかった。

「井上はこのところ隊にいるより、”施設”にいる事の方が多いからな。班の連中もわざと話さない。言葉で説明するより見せた方が早いからな」

「初めてとは言え、今のを見てこの反応かよ。この坊や、大丈夫か?」

「まだ情報不足は否めない、が訓練校ではトップだった」

「学科が、それとも”実技”が」

「両方だ」

「へえ。かわいそうに、それでZ班か」

「自分はZ班に配属され、光栄であります」

「堅い、堅い。もっと気楽に行かないと、これから持たないぞ」

先程の顔から打って変わって、脳天気な顔をしている井上。

「八神、お前も大変だな。こんな新人坊やの面倒とは」

「お前以上に面倒なやつはいないだろうよ」

「ま、それはそうだろうが。…これからは坊やが一番大変だろうがな」

八神も井上も、石川を坊や呼ばわりする様な年齢では無いのだが。

「慣れるさ、いやでも」

「違いない」

これが井上譲司副長と石川猛との初顔合わせだった。

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