EP00-1




 唐突に意識が覚める。

 朧げな意識が暗闇であることを認識し、それが瞼を閉じているだけなのだと気づく。当然、その瞼を開こうとするが何故か開かず、適温二兆世されている心地の良い水の中で漂う感覚が優しく自分を包んでいる。



 ――あれ? なにを……していたん……だっけ?



 手足も動かそうとしてもピクリともしそうにない。いっそ、この液体の中で溶かされているのではないのだろうか? そう思うほどに自分の体の感覚が、自分の意識があやふやだ。



 唯一はっきりしているのは、自分の前の方から声が聞こえているということ。

 内容は聞き取れないが、その声には驚喜にして狂喜、狂気というまったくもって正常な人間が持たない類の感情を多分に含まれているのが分かる。



 ――多分、声の質的に成人男性……かな?



 纏まる事の無い思考、輪郭がはっきりとしない肉体。

 なにもかも確たるものがない状態なのに、不思議と安心感に包まれている。

 まるで、母親のお腹の中で眠りにつく赤子のように。



 再び意識が閉じていく。



 ――もう一度目覚める事が出来るなら……うん、もう少しまともな状態だといい……なぁ……。


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