残り39日

「久しぶりですね、アゲハ。私は悲しかったです。まさか連絡を取れないようにブロックしているなんて」


「1時間に15回も連絡してくる奴をブロックして何が悪いんだ」


 俺は貴重な休日である日曜日を姫乃のために使い、今はファミレスで時間を潰していた。なにやら大事な話があるということなので仕方なく首を縦に振ったのだ。ちなみに俺とは連絡が取れなかったので、景兄を経由して連絡が届いた。そこまでして俺と連絡を取ろうとする姿勢にもはや関心さへ覚えてしまうくらいだ。


「昔はよく遊んでいたのに…思春期で恥ずかしくなったのですか?」


「年々めんどくさくなっていっただけなんだが……」


 まぁ、本当の理由は姫乃も俺も理解をしている。しかし、それを言うことは無かった。お互いの間で暗黙の了解になっている。なのでこれ以上話を深堀りすることはなく、別の話題に切り替わった。


「でも、私は嬉しいです。アゲハに私以外の女の子の友達ができて。ずっと独り身かと心配しましたから」


「余計なお世話だ。それに、なんであいつが俺と関わってくれるのか未だに分からん」


 あの学校の生徒なら、まず俺と関わることはしない。まあ稀に三島美香のような厄介者が絡んでくることもあるけれど。普通の生徒なら、俺と友達になることはメリットがなに一つなくデメリットは沢山あるからだ。しかし、花蓮は前触れなく突然話しかけてきて、そのまま二人で遊ぶくらいの仲に発展した。その話も全くもって理解できない内容だったし、さらに嘘でもなく本音で言っていたからこそ余計に混乱したことを覚えている。

 彼女は俺から一番遠い人種だと思っていたが……人生、何が起こるか分からない。


「……ほんとに分からないですか?」


「なんだよ、姫乃は知ってるのか?」


「はぁ……勘が良いのか悪いのか分からない人ですね」


 なにやら俺には知り得ないことを姫乃は知っているらしい。女の子同士、秘密もあるだろうから深くは聞かないことにする。


「それで、花蓮さんのこと、どう思ってますの?」


「どうって……面白いやつ」


「そういうのじゃなくて、女の子として好きか嫌いかって話です」


 女の子としてどうか……それは考えたことは無かった。一般的に考えて、美人な方だとは思う。しかし性格は最悪だ。あんな捻くれた奴、いままで見たことがない。俺は面白いと思っているが、俺と同じくクラス内でも外でも一人が多いところを見ると、やはり合わない人が多いのだろう。そう考えると、変わり者同士で気が合うからかもしれない。


「うーん……嫌いではない。むしろ、友達としてなら姫乃と健人と同じくらい好きだぞ。じゃなきゃあんなにいつも一緒につるんでないさ。でも女として好きかどうかと言われたら……分からない、という答えが1番近いと思う。そういう感情は今まで体験したことないから、判断のしようがないんだよ」


 女としての感情とは、恋心であり、交際をしたいのか否かという選択だということは理解しているのだ。でもこれまでそんな感情とは無縁の人生を歩んできたので本当に分からない。景兄はこういうことに関しては得意分野だと思うので、ぜひ学びたいものだが……恋愛感情は学んでどうにかなる代物ではない、ということくらい分かっている。

 まあきっと、いつの日か誰かに恋する日が来るだろう……うん、たぶん。


「はぁ……。人の心は見抜けるのに、自分の心は見抜けないのですか、不器用極まりないです」


「なにか言ったか?」


「バカって言ったんです」


 なぜか姫乃は頬をフグみたいに膨らませて怒っていた。今の答えのどこに怒られるポイントがあったのか全く意味がわからない。言われた通り、嘘なく正直に話しただけなのに。


「はいはい、わかりました。仕方ないですね。ここは、私が人肌脱いであげましょう! アゲハの成長のために、頑張ります!!」


「いや別に必要ないけど」


 一人で怒って、一人でやる気になって、ほんと元気で騒がしい奴だ。世話好きなのは昔から変わってないよ。だからこそ、自然と周りに人が集まって、皆から愛される存在になっているのだろう。


「まさか用事はこれで終わりか?」


「ええ、終わりです。私も忙しい身ですので、やる事が多いのです」


 生徒会長も大変なこった。休日出勤なんで、俺なら耐えられず即帰宅している。……そもそも姫乃は仕事と思わず、人助けの一環だと感じてそうだ。


「まぁ、なんだ、無理はするなよ」


「ア、アゲハが私を……心配してくれて……うぅ、成長しましたね……」


 嘘泣きで感動している姫乃を無視して、俺は二人分の会計を済ませた。


「でも本当に大丈夫です。今日、これ以上にないくらいに楽しい休日を過ごせましたから」


 心の底から笑って帰った姫乃を見て、たまには遊んであげようと思った。


「そういえば……花蓮に誘われていたな」


 早めに切り上げたので、今日はまだ時間がある。しかし、断ったのに再度誘うのは気が引けた。


「いつでも遊べるから別に今日じゃなくとも大丈夫か」


 明日、世界が滅ぶわけでもないし、消えてしまうわけでもない。遊べる日なんていつでもあるだろう。


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