大学編 第6話


 水無瀬さんと出会ったのは大学の教室で、内気な私は自分から友人を作りにいくことができずに一人過ごしていたときに水無瀬さんから話しかけてきてくれたことがきっかけだ。

 

 忘れもしない、私が所属している文学部の日本文学の講義、『源氏物語』の登場人物、六条御息所についての講義を聞いていた授業の日だ。

 ちなみに六条御息所という登場人物は恋人の光源氏が他の女性の所に通うことにプライドの高さからか直接は文句を言えず、生き霊となって光源氏と相手の女性の所に現れるという、魂が「あくがる」女性だ。古語で「あくがる」というのは現代語の「憧れる」のもとになった言葉で「心が体から離れてさ迷う。さ迷い歩く」という意味だ。


 そんな講義を聞きながら、もし先輩が他の女性のもとに通っていたら私も同じようになるかもしれない……そんなことを片隅に浮かべながら授業を受けていたら


 「……」


 隣に座る女性の視線に気がついた。授業中なのでお互いに言葉に出すことはできなかったが彼女がにこりと可愛い笑顔を浮かべたので、こちらもペコリと頭を下げた。


 そうして講義が終わった後に隣に座っていた彼女、水無瀬さんが話しかけてきてくれたのだ。


 「こんにちは」


 「は、はい……こんにちは」


 「ふふっ、そんなに緊張しないで?」


 「き、緊張なんて……その、何かご用ですか?」


 「うーん、用事というか……その、お近づきになりたいかなって」


 「お近づきって……」


 「だから、その……お友達になりたいの!……貴女のお名前教えてくれる?」


 目の前の女性をじっくりと見てみたら、不安そうな表情をしていた。そして無意識だと思うが指先も握ったり開いたり不安そうに動かしていた。表情だけなら嘘をつけるが、つい表れる仕草は嘘をつけないだろうと信用した。


 「はい、私は鳴海 蛍です。宜しくお願いします」


 私が自己紹介をしたら、彼女もニッコリと笑って自己紹介をしてくれて、少しお話をしてその場は別れた。もし、何処か場所を変えてお話しようとか誘われていたら断っていただろう、変な勧誘もあるから気を付けろと先輩に言われているのでその辺りは警戒してしまうから。


 そうして顔見知りになった水無瀬さんとは小さな教室では多分、一緒の講義をとっていないのだろう会うことはなかったが、大きな教室の講義で一緒になったときは隣同士で並んで座ってお話するようになり、きちんとした良い人だと思ってからは外で一緒にお茶をするようになり……大事なお友達になった。


 先輩に「大学で水無瀬さんってお友達ができました」って言ったら「女の子?」と尋ねられたので「勿論、そうですよ」と言ったらホッとしたような表情をしていた。ふふっ、私に男の友達ができたらって心配してくれたのかな?先輩を裏切るようなことはないので安心して欲しい。


 「今度、水無瀬さんとショッピングに行ってきます」


 「あぁ、楽しんでおいで」


 こうして、今まで休日はほとんど先輩と過ごしていたけれど水無瀬さんとの予定も私の手帳に記載されるようになった。


 


 

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