第91話


 「……ねぇ、あなた。昼食に付き合いなさい」


 会社の上司、社長のお嬢さんの石井 美沙姫(いしい みさき)女史に食事に誘われた。上司に誘われたら断るのも角が立つので大人しくついて行く。


 きちんとした和食の料理屋に連れていかれ「何でも頼みなさい」と言われたが……勿論、メニューを見て一番安い日替わり定食を頼んだ。何の用で食事に誘われたかわからないから……お小言かもしれないと警戒していた為だ。


 「……ねぇ、あなた一体何者なの?」


 石井女史は唐突にそんなことを聞いてきたが……


 「……何者と聞かれても……ただの苦学生です」


 と俺は答えるしかなかったが、石井女史は


 「……嘘。あなたのお陰でうちの会社は助かったわ」と笑顔で感謝を伝えてきた。


 何の事かと尋ねたら……例の総会屋みたいのは手を引いたらしい。


 「……それは私には関係ないと思うのですが」


 「……いいえ、彼らは明らかにあなたに会ってすぐに大人しく帰った……そしてその後、彼らは手を引いた」


 「それにあなたはお茶を持っていくときに皆が怯えていたのに……あなた一人だけ平然としていた……」と石井女史は言う。


 何て答えれば良いのかと考えていたら


 「……まぁ、この件は良いわ。とりあえず食べましょう」


 石井女史は笑顔でそう言った。年上の美人上司が目の前にいるとなかなか食べにくいが一食浮くと思い黙々と食べた。


 「……ふふっ、面白い男の子」


 石井女史が何か言った様だが俺には聞こえなかった。

 

 

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