第46話


 いつものように蛍が遊びに来る。もうほとんど告白のようなことを言った蛍は、その想いに答えを出さずに保留している俺を黙って待ってくれている。自分でも情けない話だと思う。


 蛍のことをどう思っているか?そんなものは結論は出ている。もう俺も蛍が好きなことは嫌というほど自覚していた。最初はただの後輩の女の子だったはずが、恋をして蛍が綺麗になったのか、それともあばたもえくぼと言うように俺が蛍を可愛いと見ているのかわからないが今では自然と蛍のことが頭に浮かんでしまうほど夢中になってしまっている。見た目だけでなく一緒にいると安心する存在は蛍だけだ。


 ただ、本当に好きだからこそ俺なんかが蛍を幸せにできるのか……と思ってしまう。


 叔父に会ってかつての自分の姿を見せられた為に俺なんかが蛍の傍にいたら蛍が不幸になるんじゃないかと考えてしまうのだ。


 「……先輩、今日は何のゲームをしますか?」


 「……そうだなぁ」


 『ドクターマ○オ』


 落ち物ゲームで対戦しようかと俺が言ったら、蛍が


 「……先輩、負けたら勝った人の言うことをなんでも一つ聞く……というのはどうでしょう?」


 そんな提案をする。


 「……なんでも?」


 「……はい」


 「………………エッチなことでも?」


 「………………ちょっとなら」


 ほほう……


 「いいぞ、後悔するなよ?」


 「……はい」


 一回勝負ということで始めようとしたら床にあぐらをかいている俺の膝の上に蛍がおもむろに座った。一瞬何が起こったかわからなかった、そして蛍のお尻の感触と女の子の良い香りがしたと思ったと同時にゲームがスタートした。


 「おい、蛍!ず、ずるいぞ!」


 「……先輩、勝負は非情ですっ」


 こちらは蛍を背中から抱き締めるようにコントローラーを操作しなくてはならない、こんなの集中できるか!それでも頑張って抵抗していたのだが……


 「……くっ!」


 「……先輩、私の勝ちです」


 蛍が俺の腕の中で照れながら勝利宣言をする。参った……蛍がここまでやるとは思わなかった。


 「……はぁ、俺の負け。約束だ、なんでも蛍の言うことを一つ聞くよ」


 「……それじゃ、先輩……」


 蛍は何を望むのだろうと内心ドキドキしていたら


 「……先輩、お願いですから……黙って私の前からいなくならないでくださいね……」


 蛍が潤んだ目で言った一言に……心臓を掴まれたのかと思った。なんで蛍はわかったのだろう。もし、このまま……今の付かず離れずのまま蛍が卒業するまで待ってもういじめの心配が無くなったら蛍の前から消えるということも考えていた……俺なんかじゃない男が蛍の傍にいた方が良いんじゃないか、たとえ一時は悲しい想いをさせるかもしれないがいつか忘れてくれるだろう……なんて思っていた。


 「……先輩、約束してください」


 「……あぁ、わかった」


 ……本当に蛍は俺の理解者だ。絶対に敵わないと思って


 「……蛍、好きだよ」


 「……はい、私も先輩が好きです」


 蛍を抱き締めながら初めて自分から告白する。


 「……でも俺なんかじゃ蛍を幸せにできないかもしれないって不安だったんだ……」


 「……先輩、私は今、幸せです、先輩がいてくれたらこれからもずっと……」


 蛍の細い腰を引き寄せ、頬に手を当て、初めての口付けをした。そして何も言葉にせずにただ抱き締めあっていた、それだけなのにすべてが伝わっている気がした。


 「……先輩、そういえば先輩はゲームに勝ったらどんなお願いをするつもりだったんですか?」


 思い出したように蛍が尋ねてきた。


 「……そうだなぁ、一緒に海に行って……蛍の水着姿が見たかった」


 俺の願望を告白したら


 「……先輩のエッチ。…………いいですよ、一緒に行きましょう。でもあまり期待しないでくださいね……」


 そうして恋人との夏休みの予定を一つ決めた。


 

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