第5話
次の日の昼休み、約束通り蛍の教室に迎えに行く。どこか場所を探して一緒に昼飯を食おうという話だ。
俺が現れた時、蛍の机はクラスメート達に囲まれていた。そいつらは俺が現れたことにギョッとした顔をしている。
「……どうした?蛍」と聞いたら
「……皆さんが売店で飲み物買ってきて欲しいって……」
蛍が答えた内容を聞いて「蛍をパシりにしようってのか」と思い
「それじゃ、俺が買いに行ってやろうか?」
そう言ったら後輩達は慌ててそんなことは冗談ですからと言ってきた
「冗談らしいぞ、蛍」
俺がそう言うと蛍が荷物を持ってテクテク近寄ってきたので「行くぞ」と言って連れ出した。俺達が去った後の教室が矢鱈とざわざわしていた。
「どっか空き教室にでも行って飯を食おうか」
そう言ったら蛍は「はい」と小さく答え、少し離れて着いてきた。
「……蛍、いつもパシらされてるのか?」
「……お使いに行ってる時にお弁当を隠されたりします……」
蛍が悲しそうに言ったことに「……そうか」としか答えられなかった。
空き教室に入って俺はコンビニで買ったパンを袋から取り出し、蛍はカバンから小さなお弁当箱を取り出した。
パンを食べていると蛍がこちらをチラチラ見てくる。
「どうした?」
そう聞いたら
「……先輩はお弁当じゃないんですか?」
「あー、俺、一人暮らしだから朝作るの面倒なんだよ」
そう答えたら何か言いたそうな顔をしていたが、俺は気にせずに他愛もない話を一方的にしていたら教室の扉が開いた。
「おやおや、珍しい組み合わせだね」
そこには好好爺とした高齢の教師、山吹先生がいた。この教師は俺が問題を起こしたときも腫れ物のように扱うでもなく変わらず接してくれた唯一の教師だ。それでも当時の俺は誰も信じられず自分から避けていたはずだ。
「山吹先生……」
「……ほっほっ、珍しい。きちんと『先生』をつけて呼んでくれるなんて」
「……何の用だよ?」
「ほっほっほっ、いやどこかの先輩が無理矢理に後輩を連れ回してるのかと思ったが……違ったようだの?すまんすまん、邪魔したな」
そう言って山吹先生は出ていった、もしかしたら山吹先生は鳴海蛍という生徒があまり良い環境じゃないと気づいて気にしていたのかもしれないな。それで様子を見に来たのか?
「……先輩?」
「……いや、なんでもない。とりあえず飯を食っちまおう」
「……はい」
小さなお弁当を時間をかけて食べている蛍を先に食べ終えた俺が眺める、蛍の肩までの髪が揺れているなとぼんやり見ていたら、蛍は耳を真っ赤にしながら
「……食べているところを見られるの恥ずかしいです」
そんなことを言うので「はいはい」と窓の外を眺めながら「放課後も一緒に帰るってことで良いか?」と予定を聞いたら
「……はい」
って蛍は答えた。
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