第6話 蒸気の鉄人

 私を乗せたまま歩き出した土地神様は川に着くと、ちょど膝丈ぐらいの深さの場所で上流を向いて座り込んでしまいました。


「ひょっとして、お水を飲んでるの・・・?」


 お腹に小さな穴がぱかりと開いて、そこに猛烈な勢いで水が渦を巻いて流れ込んでいく様子が見えています。


「よほど喉が乾いてらしたのね」


「うーん?神様も喉が乾いたりするんでしょうか?」


「神様にも水を供えるでしょう?」


「はあ・・・まあ・・・」


 修道院の土地神様のレリーフには、今も毎日のようにお水を供えています。

 言われてみれば似たようなものかもしれません。


 小一時間も座り込んでいると土地神さまは満足したのか、また立ち上がろうとして・・・止まりました。


「リリア、お願い」


「はいはい」


 世話のかかる神様です。

 あたしはロープをかけて土地神様に登ると、また背中の歯車を回転させる仕事を再開しました


「今度はどこへ向かわれるのかしら?


「お水、ってわけじゃないみたいですね」


 最近になって水かさが増えた河原には上流から流されてきたであろう、様々なゴミがたまっています。

 ゆっくりゆっくりと歩み寄った土地神様は、六本の指を駆使して器用にゴミの中から流木を掴みだすと、バキリと握りつぶしお腹の方に持って行きます。

 見ていると、先ほど水を飲むときに使った穴が左右に開いています。


「木を食べる、んですかね」


「さあ・・・」


 木を食べる神様、というのは聞いたことがありません。

 水を飲んで木を食べるのですから、砂漠蟲みたいなものなのかも。

 外側が硬いところとか似てるし。


 罰当たりなことを考えていると、土地神様はバキバキと何本も流木を握りつぶしては穴に運んでを繰り返し、すっかりと河原の流木が綺麗さっぱりなくなるとまた修道院へ向かって歩き始めたのです。


 その間、私はずっと土地神様の歯車を回しっぱなしです。

 クルクルと抵抗なく回るのは面白いのですが、だんだんと飽きてきました。


 ふと、何かが焦げる臭いがした気がしました。


 最初に気にしたのは修道院の火災でした。

 ときどき聖女様が「料理を手伝う」と竈に手を出しては貴重な食料を焦がすのです。

 ですが、今朝の竈の火を落としたのは確認していますし、聖女様もここにいます。


「ちょっと、リリア、煙!煙!」


「え?」


 聖女様に注意されて下を見ると、煙が立ち上ってきていました。


「あっちちちっ!」」


「だいじょうぶ!?」


 慌てて土地神様から転げ落ちると、背中の歯車が自力でゆっくりと周り、頭部から白い蒸気が立ちのぼり始めているのです。

 土地神様が火事になっています!


 しかし、土地神様を呆然と見上げていた聖女様は全く別の言葉を発しました。


魔導蒸気機関マギスチームエンジン・・・」と。


 それは、後に王国の植民地支配体制を打破し、砂漠の楽園を築くことになる「水の聖女」と「鉄の巨人」の目覚めであり、出会いでした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「なぜ雨が降らないのだ!」


 王子様は水の神殿の神官達を呼びつけて叱責しています。

 つい先日までは正反対の理由で文句をつけていましたが、それはそれ。

 権力者というのは勝手なものです。


「雨呼びの儀式は行っております。ですが・・・」


 そこから先の神官達の言葉は形になりません。

 まさか最高権力者に「お前のせいだ」と言上するわけにはいかないからです。


「原因不明の渇水」のためか、今年の王国の農業生産はかなりの打撃を受ける可能性が高まってきました。

 しかし、本当の被害はこれからです。



 ーーーーーーーーー

 本日はここまで!感想お待ちしております

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