第6話 仰げば尊無し
割斗高等学校
成績も評判もまぁまぁのそこそこの生徒が通う学校は今日も平和に普通の時間が流れていた。..って言いたいけど、そうもいかないよね。
「皆いるか!?
絶対に動くなよ、固まって離れるな!体育館からも一歩も出るなよ⁉︎」
「どうすんだよ〜..なんでこんな事になってるんだここ学校だろ!」
「俺に聞くな、悲劇なんて突然訪れるものだ。...あれ、あいつら何処だ?」
いつもの片割れの二人、愛想無しと美女がいない。
「あの二人隙突いて独断行動してるなカナデのやつが素直に言う事聞く筈ないとは思ってたが..。」
「リッチー、どうしたの?」
「モモとカナデがいないんだ。まったく器用な連中だよな、どうやって列から抜け出した?」
「大変だ、今すぐ探さないと!」
「やめとけ。外に出りゃ思うツボだ、それに二人の選択は間違いでもない。密集するより安全だからな」
リッチーは地味で目立たないけど実は相当なキレ者で、深く物を考えてたりする。まぁそこそこの学校だから言うほどだけど。
「今は待機だ、静かにしておいたほうがいい。」
「……」「なんだよ?」
「あれ..何?」「...知らない顔だ。」
ひっそりと正面から扉を開け入って来たのはカナデでもモモでも無い。生気を失ったヒル男。
「なんだお前! 出ていけ!」
集めた生徒の点呼もロクに取らず、侵入者に喚き散らすだけの教師。そんな事だからそれが〝制服姿〟だという事にも直ぐに気付かない。
「..お前、ウチの学校の生徒か⁉︎」
「ケント!
心配した、生きてたんだねっ!」
男の彼女と思しき生徒が駆け寄って近寄り、胸に飛び込んだ。
「ケント、私こわいよ...外にいたアレいったい何?
そばにいて、私を守って、ね?」
「バカ! 今すぐ離れろっ!!」
「..え?」 『ガブガブ。』
長く突出した口が裂け、牙を剥く。
「きゃあ..」『ガブガブシュッ』
口元をごっそりと喰いちぎり、死体をゴミのように捨てた。かつて愛した女も、今や捕食の対象に過ぎない。
「生徒が、食われたのか⁉︎」
「うあぁぁ〜バケモンだぁーっ!!」
パニックになる生徒の群れ、体育館中を駆け回り騒ぎ立てる。
「落ち着け生徒達!
下手に動くと刺激しかねん!」
結局は自分の身の保全、生徒が動き回る事で己に被害が及ぶのではないか、
教師とはそういう生き物である。
『ガブ..ガブ。』「..おいあれ」
口を
「化け物は..増殖するのか?」
「先生、どうにかしないと。生徒を安全なところへ避難させて..」
『ガブァッ!』「えっ?」
教師の一人が目の前で喰われた。全校生徒に個々の教師も集まる体育館だ、餌はごまんとある。
『バァッ!』「うひぃっ!」
先程と同様死体を捨てる。口はもぎ取られ噴き出した血で赤く染まっている
「うわあぁぁっー!!」
餌場の鼠は吠え猛る、子供のように。
➖➖➖➖
音楽準備室
楽器まみれの狭い部屋で、
「何か音するよね?」
「体育館からかも、ここで良かった」
「良くはないでしょ。」
「勿論カブくんやリッチーくんの事は
心配だよ?
...だけど安全なところにいたい。」
「まぁそりゃそうだよね、でなんで音楽室なの?」
「一番安全だと思ったから、防音だし
叫んでも響かないから。」
「それ一番危ないよね?」
音楽準備室って何の為にあるんだろ、教師が不貞を働くためかな。
「取り敢えずここなら暫く安全だし」
『ガブガブ』「へっ?」
「...嘘でしょ。」
『ガブガブ』「……」「マジで?」
秒でやられた。
積まれた楽器の影から飛び出した虫に顔を持ってかれた。こんな映画あったな..まぁいいや。
『ガブッ..ガッ!』「え、なに?」
顔に引っ付いていた土虫が裏返って泡吹いてる。どゆことよ?
「..はぁっー!
危なかった、ずっと息できなくて。」
...あなるほど。
モモの顔面に圧し敗けたんだ、キツイよね初対面のモモは。クオリティ高過ぎて、直視したら瞳焼けるからね。
「あれ、死んでる。
可哀想..可愛いのに、誰がこんな事」
可愛さに殺されたんだよ
本望だろうさ、幸福な死だもの。
「身体の真ん中からクロス状に裂けてる、内側から焼き切れたんだ。」
「カエデちゃん、ここを出ましょう。
助けを呼べる場所を探すの」
「あ、うんわかった。」
ついて行きますよお嬢、死なない程度にお供いたしまーす。
っと準備室の扉を開けたらさ。
『ガブガブ』『ガブガブァッ!』
「すでに巣穴じゃん。」
流石のモモちゃんも引いてまっせ。
「..楽器を演奏してください!」
「は、楽器?」「なんでもいいです」
「はぁ...わっかりましたー。」
適当に準備室から使えそうな楽器を引っ張りだして音楽室で弾いてみた。
私はラッパ..じゃなくてトランペットモモはピアノ、同時に演奏した。
『ガ...ブアァ..。』『ガブァ..』
「あれ、何か苦しそう?」
「思った通りだ、当たったよカエデちゃん大当たり!」
「なにかヤマ賭けてたの?」
「ケルベロスっていう番犬が神話で出てくるんだけど、音楽を聴くと眠っちゃうんだ。話の通りだね〜。」
「モモあれずっと犬に見えてたの?」
「そうだよ。だってフカミドリちゃんの友達でしょ、可愛いよね〜。」
私は今新しい神話を見つけました。
場所を戻し体育館では..。
「...おい、なんだよありゃあ?」
『ガブ..ガ...ガブ..。』
「でかい、デカ過ぎるよ!」
「お前から見てもそうなのか。なら相当だな」
増殖した寄生人間が纏まり一つの集合体となる。人の面影は最早無く、言語も理性も持ち合わせていない為生存的本能である食欲のみが猛威を振るう。
「う、うあぁぁっ!」『ガブガブ。』
悲鳴嗚咽気にも留めず目に入る餌を掴み口へ運んでいく。生きた生命がまるでチョコレートバーのようにいとも簡単に噛み潰すされ、血飛沫を上げる。
「ダメだ..逃げるしかないっ!
教師生活15年、自らの保身と安全の為に身を守り続けてきたが、もういい!
私は一人で逃げる、生徒は知らん!」
私の担任の一応はベテラン教師
左文字 剛造、年齢は知らないけど。
コイツはずっと卑怯で無責任。ヤンキーの問題は無かった事にするし、当然いじめも無視、友達のいない奴には無理矢理話した事のあるクラスメイトの名前を言わせている事にする。
「自分が助かればそれでいい...!!」
「どうですか、あの寄生体は?」
「あなたは確か..科学の...」
「試行錯誤をして、遺伝子改良や学習知能を組み込んだ素体を増殖させ再度校内にばら撒きました。何体かは外に漏れたようですがまぁ、問題は無い」
「..あなた一体何言って...?」
「言葉の通りですよ、わかりませんか
鮮明に生命が発展している事に!」
恍惚の表情で笑みを溢す彼は狂気の器そこに乗せるのは絶望ではなく悦び。
「あなたが元凶か...〝山下先生〟!」
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