第3話 大事な仕事

 軒並不動産勤務 ユキノ。

仕事のモットーは迅速に、的確に。

といっても町の不動産屋じゃ中々その力は発揮されず。

それでも尚、彼女が勤務する理由は...


『ガブ!』「..何?」

建物の侵入はいり方は分かってる前の犬みたいにガラスに穴開けるんだよね。いち早く何か来たことにユキノさんは気付いたみたいだけど、割と冷静に見つめているわ。


「お客さん..って訳でも無さそうね。

私としては〝好都合〟だけど」

地味制服を脱ぎ捨てて中に着てたのはライダースーツ?

足首にライフルまで装備して、一体何者なのよ。嘘でしょユキノさん?


「ようやくお出ましね異界ちゃん。

...撃ち抜いていいのよね?」

『ガブガブ』「へぇ、そうなの。」

口を広げて飛び上がる異形の怪物に、渾身の震える一撃。


「馬鹿ね、そんな大口開けちゃ的を作ったようなものよ。銃の口径より大きいんですもの」

『ガブッ..。』「残念ね」

銃弾に牙を立てられず爆散、辺りに汚い肉片が飛び散る。掃除大変そ..。


「さて、町にかり出るとしましょうか

逃さないわよ〝山下〟さん?」

聞いた事ある名前だな。

...あ、それと私はこの事知らないから狂言回ししてるだけで、ここにはいないからさ。後に出たとき違和感とか覚えないでね、よろしく!

➖➖➖➖


 『ガブカブ!』

「あんまり喰べるなお前、晩ご飯入らなくなるぞ?」

鈍感なのかな、鈍感なんだろうね。

町を走りながら人がバクバク喰べられてるっ事は全然分かってない。


「ユキノちゃんが危ない!

でも待てよ...あ、母さん無事かな⁉︎」

私の命わいっ!

うら若き未来への芽を無視ですか?

あーそうですか、普通に悲しいけど。


「ごめんユキノちゃん!

母さん待ってて、直ぐに行くぞ!」

無責任と人の良さの反比例が酷いね、無視されるよりマシだけど。

➖➖➖➖


 割斗わりと高等学校

 外に何かが大量発生したようで、私たちは教室から出れないでいた。


「やばい、フカミドリ外に出したままだよ。母さん入れてくれるかな」

「あの犬まだ飼ってるの?」

「もし家で飼うのが難しいなら、うちで引き取るよ。」

「やめたほうがいいよモモ。

二度と美少女って言われなくなるよ」

「え?」「ウソ、天然なんだ。」

 正直モモとは一番長いけど、この子を見てると〝完璧〟って無いんだなって思うよ。悲しくなるよ、なんか。


「なぁ、ていうか気になってる事がずっとあるんだけど。」

「何よ?」

「ここガラス、穴空いてんじゃん?

結構通り道になりそうだなって..。」

フカミドリがやってくれました、まんまと秘密の入り口の完成でーす。


『ガブガブガブガブガブガブガブ...』


「逃げろぉ〜!!

教室から出るんだ、距離を取れー!」

「はぁ...またか。」

 大声を出してて正しい人っていないね。図書館とか行きたいなぁ..。


「カナデちゃん、どうしよう..」

「めんどくさいけど離れた方がいいっぽいよね。何処か隠れようか」

「可哀想、あんなに可愛いのに。

一匹だけ持って帰ったらダメかな?」

「なんか、ゴキブリが家に出てきても愛でそうだよね、モモって。」


「それはないよ〜!

だってアレはグロキモいもん。」

「そこは線引いてんだ、むずかし」

この子と同じ場所逃げるのが怖いんだけど、外より中が恐ろしいです。


「体育館に避難だ!

あそこならなんか..壁とか厚そうだし凄い頑丈そうだからいけるぞ!」

何そのフワフワ誘導?

無理だよあいつら見境無いんだから。

それに一箇所に集まったら教室と一緒だよね。どこ行けば安全だろうか?


「音楽室!」「なんで⁉︎」

「とにかく行こう、カナデちゃん!」

「..うん、わかったよ。」

何か策でもあるのかね?

まぁ固まって怯えてるよりマシかも。

「外ってどうなってるのかなぁ..」

➖➖➖➖


 『ガブッ!』「ふぅ。」

人を撃つのって久しぶり、まぁこれじゃ人なんて言えないかもしれないけど

...あ!

狂言回し替わりましたユキノです。


「キリが無いわね、節約しても弾の方が圧倒的に少ない。」

回転式のシリンダーに弾を詰め、弾数を確認する。

「無理もないわね、町を丸々相手するようなものだもの。一刻も早く出来事の〝当事者〟を探さないと。」

長い間潜伏してたけど、読みが当たったわ。まさかここまで繁殖率が高いと思わなかったけど。

町は既にパンデミック、外を歩く人々は次々と寄生され顎を奪われている。


『ガブガブ』『ガブァッ..!』

「共食いしている。この調子じゃ私も安全とは言えない、平和を考慮している場合でも無いわね。」

 ウロつく寄生人間に気を付けつつ停まっている車のドアを片っ端から開けていく。鍵が刺さっていれば当たりだが一台くらいは無いものか。


「あった!

...でも少しデカいわね。」

探索の末、漸く鍵の刺さった車を見つけた。しかしそれは規格外に大きく、二台にはおそらく多くの荷物を積んでいる。

「どきなさい人間もどき達!」

バタバタと寄生体を跳ね、滑走していく。頼もしい車の表面には大きく緑色で『大層引越しセンター』の文字が。


「どこにいるの〝山下〟!?

絶対に見つけて止めさせる..!!」

全ての元凶、事の発端はあいつから。


「死ぬなら一人で死になさい..!」

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