第6話


 ──魔王城前。


「へー。ここが魔王城か。思ってたのと違うな。結構リッチな作りしてるんだな。まるで王宮だ」


「ええ。魔王様のご意向に沿う形で再建しましたので、少し前から白とピンクをモチーフにしております」


「わかりみだわ。魔王はそういうところあるからなぁ。にしても、良い城だなぁ本当に。これじゃ魔王のやつ、いいとこのお嬢さんじゃないか」


「今でこそ魔王様ですが、以前は魔王令嬢でしたからね」


「なるほど。言われてみれば確かに令嬢だ。うちの家が小さく見えるなぁ」


 そりゃ、勇者の家は小屋ですからね。……とは言えない。


 でもまさか、こんなことになるとは。

 天ぷらをご馳走になったお礼にとダメ元で魔王城に招待したら……来ちゃったよ。


 勇者が単身で魔王城に来るなど……魔界の長い歴史においても初めてのこと。


 とは言え、魔王様に事前の連絡もなしに招いてしまった。どう思うことやら……。


 しかしこの好機。

 活かさずして魔界の存続はありえない。


 プランB発動ですよ魔王様。ご覚悟を。



「おっ、ここがエントランスか。うちとは大違いだなあ」


「ああー、ちょっと勇者殿! お待ち下さい! 私めが案内しますから!」


 私の先導なしに魔王城に入ったら大変だ‼︎


 キィィー。ドンッ。


 いやいや、だから‼︎

 勝手に開けちゃダメだって‼︎


「勇者殿ォォ‼︎」


「なんだよ。ルシファー君ってさ、たまにヒステリック起こすのな」


 クッ。フレンドリーにしてくれるのは心嬉しい誤算だったが、こうも呑気に友達感覚で接して来られると、それはそれで困る。


 ……ひとこと言ってやらねば。


「招待しておいてこんなことを言うのも差し出がましいのですが、“友達の家”感覚では困ります。ここは仮にも魔王城です。此処に勇者が来るという事の意味、お考え下さい。何卒」


「でも、魔王もルシファー君も此処に住んでいるのだろう? 少なくとも俺は友達だと思っているが。なんだか寂しくなっちまうな」


 あぁ……友達。

 最も聞きたくない言葉があっさり出てしまった。


 魔王様……この恋、一筋縄ではいきませんよ……。


 でも、今の言い方だと私も友達にカウントされているような違和感が。まさか……な。


 ◇◇


 ──魔王城内。


 ざわざわ。ざわざわざわ。


 (ルシファー様の隣に居るのって人間)

 (人間の匂い) (いったいなにごとか)


「静まれい! 魔王様の右腕にして側近。悪魔大執事ルシファーの大切な大切な客人である。無礼のないよう、城内全ての者に伝達せよ!」


 「「「ははぁーッ」」」


 と、まあ。これで大丈夫だろう。


「そんなに気を使う事もないのに。俺ら友達だろ? 一緒に山菜摘んだ仲だってのに」

「……ええ。それでも一応、此処は魔王城ですので」


 あぁ。やはり先ほどの違和感は正しかったか。

 私はもう、勇者に友達としてカウントされているのだな。


 ◇◇


 そしてこれも必然なのだろうか。

 できることなら出会って欲しくない二人が、出会ってしまった。


 ベヒモスと勇者。


「素晴らしい大根だな。色艶、そして何より葉から滲みでる美味しい大根のオーラ。これは驚いた」


「おっ、兄ちゃんイケる口か?」

「イケるも何も、大根の葉にはうるさいぞ?」


 ◇◇


 仮にもベヒモスは幹部。

 勇者と知って眉をひそめた。



「ってーと、その腰にぶら下げてるもんは聖剣かい?」


「あぁ、そうだな。見たいのか?」


「いんや。ひとつだけ聞かせてくれ。勇者よ」

「ああ、構わんよ」


「畑は好きか?」


「分かりきった質問を。大好きに決まってるだろ!」


「ははははは! こっち来い勇者! 我の畑を見せてやろう!」


「いいのか? これだけ立派な大根の葉だ。やはり土に秘密があるのでは?」


「そいつは見てからのお楽しみだ!」


「もったいぶりやがって! 俺はユーシャ・レオン。お前は?」


「ベヒモスだよ。よろしくな勇者!」

「こちらこそ。ベヒモス!」


 〝ギュッ〟


 熱い握手を交わしたか。

 こうなることはわかっていた。


 これはあれだ。畑好きに悪い奴は居ないとか言い出す系のあれだ。


 しかし幸か不幸か。

 ベヒモスが勇者の相手をすることになった。


 この隙に魔王様へ報告ができる!


 プランB。成功への大きな足掛かりになった!

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