こちら掃除婦 応答をどうぞ・・・
3分タイマ-
第1話ニートから掃除婦にジョブチェンジ
幾重もの石灰岩が大地から顔を出し、墓標のようにそびえ立つ砂漠を西に抜けると段々と波打つ石畳いしだたみが続き四方を囲むようにそびえ立つ渓谷の中にラスタニア大公国があることを皆様はご存知だろうか?
ラスタニア大公国は{卵の王国}という異名で知られている、こじんまりとした公国である。
弾丸絶壁の渓谷を要塞のように作り上げ、まるで卵の中に隠れている雛のように周囲から身を隠すようにそびえ立っている国は、今となっては珍しい竜を崇拝し共に暮らす宗教国家でもある。
龍を育み愛し崇拝しながらも戦いの神として出陣させる竜騎士団がこの国にはあるのだ。
物資も資源も乏しいこの国では竜こそが、この国にとっての守るべき砦で財産であった。
そして軍事アピールもかね ラスタニア大公国が生まれたと言われるこの日。
一人の掃除婦がやらかしていた。
掃除婦ことクーニャは年に一度行われる開国記念日の日も、自分に与えられた持ち場をさぼることなく黙々と綺麗にしていった。
掃除婦に与えられた建物は緩やかに続く曲線が波打ち、まるで卵の殻のように丸みをおびている。直線をほとんどつかわずに仕切り扉一つでさえ角は丸く削られ平面なところがなく細部に至るところまで実に細かく調整されている“騎士団総長館”と呼ばれるこの建築物は、この国の建築技術の集大成であり有事の際より芸術性を押し出した実用性とは程遠い建物である。ゆえに、石切場の異名でも知られている。役に立たない建物などただの石の塊である。そぅ密かに皮肉られているのだ。
騎士団総長館は、建物のメインであり回廊を通じ様々な別棟にも通じている。そのため、人の出入りは激しく騒がしい。ただ今日は開国記念日である。それゆえに、いつもと違い館内は静まりかえり、たまにしか人とすれ違わないほどに閑散としていた。
おかげさまで 仕事は順調にすすみ、いつもよりも40分も早く仕事を終わらすことができた。
しかし 時間にならないとタイムカードが押せない。
ならば ついでにいつもは掃除しないところを「ここはやらなくていい」と上司が言っていたところを ついでに、掃除をしといてあげようとクーニャは思った。
何故 「しなくていい」 と言われていたのか疑問にも思わずに龍の骨のように白くアーチ状になっている回廊を渡り建物の最奥にある鉄扉の奥にクーニャはイヤホンをつけ、ノリノリの曲を聞きながら掃除カートをもって向かっていった。
もぅ自分の仕事は終わっているのだから、ついでに音楽を聞きながらやっても問題ないはずだ。と彼持論を発揮させ早速、掃除に取り掛かっていったのであった。
なぜ、数ある建物がある中で芸術とは無縁そうに重く分厚い鉄扉の奥に“何か”から隔離するように“何か”から建物を守るために分厚い壁が頑丈そうに並ぶ仄くらい道を進んでいったのか、と問われればクーニャは間違いなくこう答えたであろう。一番汚そうだから。と。
実際はきちんと清掃の手は行き届いており汚れている箇所などないのだが、屈強な建物ほど何故か…汚く見えてしまうものなのだ。
クーニャはいろいろと足りていない。
長いあいだの引きこもりの生活は常識然り一般論とも無縁であったし、危機感というものでさえ育まれることはなかった。
例え 彼の前に四肢抑制された竜がいたとしても、
その龍が掃除婦に話しかけていたとしても、
彼は恐ろしいことにノリノリの音楽を聴き、好きなように想像をしながら遊び掃除をしていたので竜のことなど微塵も脳内にはいりこんでいなかった。
何かいるけど俺は気にしない。な感じで黙々と…から、しまいには鼻歌を口ずさみ床をみがいていった。
床が既に清掃されピカピカなことに気がつかずに、これでもか!というくらいに床を磨いていくクーニャであった。
彼はいろいろとたりていない…。
そして清掃を終えるといなや、「貴様、何者だ」と先程から同じことをエンドレスリピートをしている龍を無視し(正しくは呼びかけに気づいていない)清掃カートを右手に勝手に侵入し勝手に龍が拘束されている部屋から出て行ったのである。
掃除婦はいいことをした気分でいたので、意気揚々とイヤホンを耳から外しタイムカードを押しに本来の持ち場へと帰っていった。
怒れる龍の咆哮がビリビリと体を揺らしたのはこの時だ。
しかし、クーニャは気に止めずそのままコロコロと掃除カートを引いて用具室に消えていった。
貴族の第六息子でありながら、長いあいだの引きこもり生活が災いし見習い掃除婦として騎士団総長館に下働きにだされてしまったクーニャ。
貴族の息子でありながら…である。
なぜなら彼はコミュ障の生粋なるKY。団体生活は無理。共に人とある環境に適応できない。我が道を行くマイペース精神を持ち合わせているからだ。
ゆえに上司絶対服従。共同生活、団体行動、己のパーソナルスペースが皆無である騎士団なんてもってのほかである。なら何ができる?と問われれば、モクモクとゴミやチリと戦う掃除婦が適任であろうということで…下働きにだされたのである。
貴族でありながら…彼は武器と称しモップを持ち、盾と言われれば塵取り(ちりとり)を持つ。戦車と問われれば喜んで掃除カートを引いてくるであろう。
彼は有名な職人に作らせた家紋入の清掃グッズを大変気に入っていた。愛着があるものだからこそ仕事に精がだせるのだ。今日はとてもいい働きをした、掃除婦はとても気分よく掃除を終えたのである。
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