ショートショートショート

百科十郎

【短編】ラムネ

ムシムシとした暑さ

ザワザワとした喧騒の中ラムネを買った

シュワシュワと浮かび上がる泡を見て

フワフワとあの頃の記憶が思い浮かんでくる



「それってさ、なんだかラムネのビー玉みたいだよね!

 特別欲しいわけじゃないんだけど、妙に欲しくなっちゃうやつ!」


そう力説する君はとてもキラキラ眩しくて

僕は思わず目を細めてしまう


「あれってさ、不思議だよねぇ。ビー玉なんて絶対いらないもんね!

 それはもうぜっっっったいいらいないもんね!!」


いやそんな、力強く言うほどでは・・・・うん、まあいらないっちゃあいらないんだけどね。


「でもさでもさ、ラムネのビー玉はホント綺麗でキラキラしててさ、凄く欲しくなるんだよねぇ。取れないんだけど・・・。


 そこがいいのかなぁ・・・。」


そこがいいんだよ。

簡単に手に入るものにはあまり価値を感じられないように出来てるんだよね人間って、きっと。



パチパチと消えていく記憶

ムシムシとして現実に戻ってきて

ザワザワとした喧騒でひとりごちる


「だからあの頃の君は大事に思えたのかな・・・」


少し自嘲気味に物思いにふける




「ハイ!どーーーん!」


いきなり後ろから押されてラムネが盛大にこぼれていく

そんな僕のセンチメンタリズムを一ミリも解さない君はなんなんだい?


「ごめんね~!お待たせ!!

 いやぁ、浴衣なんて着たことないからどれだけ時間かかるかわかんなくて予約時間ミスったねー。

 ドンマイ私!次に活かしてこう!」


金魚の柄が際立つ浴衣はとても似合っているよ、なんて口にするはずもなく

こぼれて残り少なくなったラムネを飲む。


「あー!なに先にラムネなんて買って満喫しちゃってんのさ!後でビー玉頂戴ね」


誰を待ってる時に買ったと思ってるんだか・・・


あの頃から君は、なんて

フワフワと浮かぶ記憶をパチパチと消しながら。



これからは君と、相談でもしながらビー玉を取り出す方法でも考えようか。

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