第4話 密会
一日が過ぎるのはあっという間だ。
ひとつ悩み事があれば時間がたつのは早い。
実際、うだうだと考え事をしていたら今日の授業はすべて終わってしまっていた。
もうすでに放課後である。
いったい何をそんなに考えていたのかというと由衣のことに他ならない。
俺の悩み事のほとんどは妹関連と言っても過言ではない。
いわゆるシスコンってやつだ。
だから今日は一日中、
今朝の由衣の様子は少しおかしかったように思う。
登校時、先輩と話し終わったあの後、由衣の元気が無くなっていたように見えた。
あれから由衣はほとんど喋らなかったし、すこし寂しい表情をしていたような気がする。
あいつはいつも明るくて、良く喋って、よく笑う。
だから余計に今朝のことは気になるんだ。
由衣とは小さい頃からずっと一緒にいるから、あいつの些細な変化にも敏感になってしまう。
高校生にもなって気を揉むような事じゃないと思うかもしれないが、俺にとっては一番重要なことなんだ。
由衣は俺の一番なんだ。
だから俺は毎日、由衣のことを想っている。
――――――
放課後は生徒会へと向かう、場所は化学実験室。
我が校には生徒会室という教室は無く、化学実験室を生徒会の教室として使わせてもらっている状況だ。
以前は化学部があり、そこが実験室で活動を行っていたわけだが、残念ながら廃部となり、生徒会が使用するようになった。
実験室の隣には準備室があり、二人しかいない生徒会には勿体ない広さである。
化学実験室に来ると会長はまだ来ていなかった。
黙って待っているのも時間がもったいないし、勉強でもしようかと隣の準備室に移る。
実験室の広い空間で一人で勉強しても集中できそうにないからな。
それと会長が来たら物音で気づけるようにと、実験室と準備室の扉は開けっぱなしにしておいた。
うん、やはり準備室の小じんまりとした感じは妙に落ち着く。
テーブルに教科書とノートを広げ、ペンをサラサラと走らせる。
今日の授業はだいぶ上の空だったので、ちゃんと復習をしておかないと不味いだろう。
しばらく俺は集中して勉強を進めていた。
――――
ペンを走らせてから三十分ほど時間が経過していた。
先輩遅いなと、そう考えた時にふと今朝のことを思い出した。
「澄谷君、今日は生徒会無いから、部室には来なくても大丈夫よ」
確か先輩はそんなことを言っていたはずだ。それをすっかり忘れていた。
こんなことなら由衣と一緒に帰ればよかったなと、そう思いながら教科書をカバンにしまい始める。
すると隣の実験室からガラガラと扉を開く音が聞こえた。
どうやら誰かが来たようだ。
そして話し声も聞こえる。
先輩の声ともう一人、誰かは分からないが男の声だ。
先輩が一体誰と話しているのかが気になり、実験室の方に顔をだしたのだが……
「!!?」
それを見た瞬間、これは不味いと思い、すぐに首を引っ込めた。
ドクンドクンと心臓の脈打つ音が聞こえる。
完全に不意を突かれた。
こんな光景は想像してなかったぜ……
あの完璧美人の
しかも熱烈な奴だ!
おままごとでするようなやつじゃねえ!!
ええい、静まれ俺。
冷静にだ、冷静に……
冷静になると一つ疑問が湧いてくる。
あの男子生徒は一体何者なんだ? ということだ。
これはもう一度覗いて見るべきだよな? 確認は大事だし……
――姿勢を低くして、準備室から静かに顔をだす。
視線の先には情熱的なキスをする二人。
一人は間違いなく新庄綾香である。
そして肝心の男子生徒の方はというと、やはり俺の知らないやつだ。
気に食わないことにその男子生徒は身長が高く、そしてイケメンだ。
なんだよ、結局女はイケメンが好きなんじゃないか……
もうこれ以上は見るべきじゃないのかもしれない。
単なる覗きになってしまっている。
見るのをやめて、息を潜めておくべきなのか、それとも思い切って声をかけて行為を終わらせるべきなのか……どちらにせよ直ぐに覗きは止めるべきだろう。
しかし……俺は目の前の光景から目が離せなかった。
学校一の美女と高身長のイケメンが燃え上がっている。
それは端的に言うと、もの凄くエロスを感じさせる情景だ。
二人のボルテージの高まりとともに、覗いている背徳感も手伝って、俺の心臓もヒートアップしている。
身体の奥底から湧き上がる興奮が「もっと見ていようぜ」と囁きかける。
俺は二人の行為を食い入るように見つめてしまっていた。
高め合う男女の欲情はとどまることを知らない。
二人は互いの体をまさぐり合う。
男子生徒は慣れた手つきで先輩のアレを触っている。
それと同時に先輩の吐息が、広い教室にこだました。
彼女の呼吸一つ一つが大きな熱の塊となって放出される。
――そして二人の行為は次のステップに進む。
男子生徒が先輩の服を脱がし始めたのだ。
先輩の首筋に唇を這わせながら、片方の手で体を優しく撫で、もう片方の手でボタンを外していく。
その美しい一連の流れに俺は感心をしていた。
きっと彼は特殊な訓練を受けているに違いない。
だって俺ならばあんな慣れた手つきで事を運べる自信がない。悲しい事だが……
このまま行くとこまで行くのだろうか……俺がそうドキドキしていると、先輩が男子生徒の手を取り、その動きを制止させる。
「今日は誰も来ないんだろ?」
男子生徒はそう言って先輩の行動に不満をみせた。
どうやら止めるつもりは無いらしい。
「そうだけど……もし人が来たら……ここだと一目でバレちゃうでしょ?」
先輩はそう囁いて、彼の頬に手をあて、そっとキスをする。
そしてゆっくりと唇をはなし、微笑してこう言った。
「隣の準備室でしましょう」と――
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