第34話 美少女と買い物

 

 なぜ、朝本さんと休日に出かけることになったのか。それは、休日前の金曜日に遡ると理解できる。


 金曜日の放課後。時刻は、16時頃であり、季節は秋や冬ではないため、外はまだ明るい。季節は夏に近づいているためか、気温は人が徐々にイライラするように上がり、窓は誰が開放したかはわからないが、教室と外の空間を接続するように開けられている。


 俺は、いつも通り放課後に入ると、何事も用事がないため、帰りの支度を急かされているわけでもないのに、せっせと済ませようとする。机の中で息苦しそうに詰め込まれた教科書やノートを流れ作業でカバンの中に流れるように入れ込む。


「赤森君。ちょっといいかな?」


 帰りの支度に勤しんでいた俺に優しく問い掛けるような声に俺の鼓膜が反応する。


 工場で稼働する機械のように作動させていた手を一度止め、カバンから声のした方向に視線を移す。


「うん。いいよ」


 少し前までは、楽器が振動するように驚いていたが、現在では、声の主を朝本さんだと視認すると、質問の内容を述べるように促す。


少しは慣れてきているといった自覚はある。しかし、未だに、話しかけられると心が少しビクッとする。


「・・あのね、明日って、時間あるかな?」


 朝本さんは言葉を発する際、謎の少しの間を取った後、そのようなことを言った。そして、なぜかわからないが、頬が軽く日焼けしたみたいに赤くなっている。


「えっ。あるけど。いきなりどうしたの?」


 内心驚きつつ、咄嗟に頭に浮かんだことを息を吐くようにアウトプットする。


「あのね、・・・服を買おうと思っているんだけど、選ぶ際に、男の子の意見を聞きたいんだ。そこで、赤森君に服を選ぶのを手伝ってもらいたいんだけど・・」


 そこまで言うと、朝本さんは俺から視線を逸らしてしまった。


 朝本さんと俺が話している姿にクラスメイト達はスポーツのサポーターのように注目している。注目しているのは、男子だけでなく女子も含まれている。


「うん。わかった。俺で良ければ手伝うよ」


 朝本さんの動作は気になるが、休日は特に何もすることなく、怠け者が木にぶら下がっている風にソファに寝転がってラノベを読むのが日課な俺にとって、断る理由が見つからない。そして、朝本さんが俺を頼ってくれているのだから、力を貸すのが筋ってものだと思う。


 俺の言葉を聞くなり、朝本さんは大きな瞳を通常よりもさらに見開き刹那、「本当に?」と聞き返し、顔を近づけてくる。


「う、うん」


 朝本さんの整ったきれいな顔がズームしてきたことに驚き、恥じらいつつ、何とかどもらず言葉を返す。


「約束だよ。明日の時間は、ラインで連絡するね!」


 満面の笑みでこちらを覗き込むように見つめてくる。その際、朝本さんのきれいな黄色の瞳に見惚れてしまった。


 俺の反応を見るなり、「じゃあ、明日ね」と100点満点の笑みをこちらに向けながら、植物が風に吹かれるように手をひらひらと振ってくる。俺もお返しするように手を振り返す。


 誰が見ても気分が良さそうな様子で朝本さんが教室を出ていくと。


「さっきの朝本さんの反応見た?」


「朝本さんとどんなはなしていたんだろう?」


 そのような疑問や興味を含んだ言葉が生徒たちが存在するボックスの中で渦のように発生した。



        ・・・


 そして、今日に至るわけだ。ところで、今現在、俺は試着室の前に佇んでいる。周囲には、珍しくお客はいない。


 試着室が存在する場所は、白を基調とした壁が背景として一面に存在するスペースに存在し、服のショッピングコーナーとは一線を画した場所に存在する。


 すると、突如、試着室のカーテンが勢い良く開放された。その瞬間、衣服を纏った朝本さんとそのバックに存在する全面鏡が俺の視界に飛び込んできた。


 白のだぼっとしたパーカーに茶色のロングパンツを纏っている。ロングパンツからは純白の白い肌がややちらりとはみ出ている。


「・・どうかな?」


 緊張した面持ちでこちらを覗き込むようにして見つめてくる。


「似合ってる、すごく似合っているよ」と、刹那に全身を見通した後、お世辞なしで彼女を褒め称えた。


「そうかな。えへへ・・」


 褒められたのが嬉しかったのか、朝本さんは空気が緩むように表情が破顔する。


「次はね・・」


 そう言って上機嫌に試着室に入り直すと、カーテンを再度締め直した。


 その後、ネルシャツとジーンズのパンツ、ワンピースなどを着た朝本さんを見ることとなった。


「赤森君が良いと思う服はないかな?」


 1通り自分が良いと思う服を披露し終わったのか。俺にコーディネートに関するサポートを求めてくる。


 確かに、今現在、朝本さんが着た服を見てただ褒めてるだけだからな。それじゃあ、俺が一緒についてきた意味はあまりない。何かためになるアドバイスを提案しないと。


 そこで、頭に血を集中させ、考えを巡らせる。しばしするとポンっと植物の芽が出るように良い案が生まれた。


「服じゃないだけど、キャップの帽子なんかはどうかな?」


「キャップの帽子?」


 朝本さんは不思議に思ったのかオウム返しで俺に聞き返してくる。


 「うん。今まで見てきた服はすべて似合っていたけど、それにキャップの帽子を被ったら、さらにいいと思って」


 自分が思っていることを率直に述べる。そして、なぜか立てかけてある白い帽子を手に取ると朝本の方に差し出す。朝本さんはその帽子を優しく受け取ると、自分の頭に帽子をゆっくり被せた。


「どう・・かな?」


 小さい子供が恥ずかしがりながら質問するような口調と表情で俺にそう問いかけてくる。


「う、うん。すごく似合ってる。・・完璧だよ」


 自分が想定していた以上に似合っていたため、内外ともに驚きを隠せなかった。なぜなら、ある人形やプラモデルに備え付けの帽子だと思わせてしまう位、朝本さんにその白い帽子が似合っていたからだ。


「そうかな。・・ありがとう・・」


 朝本さんの顔は平常時と比較して赤くなり、なぜか耳まで赤くなりながら、俺にお礼を言ってくれる。その上、朝本さんはなぜか体をもじもじさせている。こんな朝本さん見たことない。


 その後、朝本さんは今まで試着した服全部と俺が手渡した白い帽子をレジまで運んでいき、すべて購買したのだった。

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