第20話
骨が砕けたのではない。文字通り左腕の肘から先が陶器を床に落としたときのように砕けてしまったのだ。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「ゔぉー…?」
フッカがカプセルから出てきた盾の前面を布で注意深く覆いながら私の安否を確かめた。
ウンも心配そうに私の様子を伺ってくる。
アンは…。
「ゔぁー♪ゔぁー♪」
あ、だめだ。
レバーの先についた宝石に興味深々で私の腕が砕け散ったのに気づいていない。
「………うん、大丈夫。」
能天気なアンのおかげで少し冷静になれた。
幸いなことに戦闘中以外は痛覚を遮断していたために砕ける瞬間にも痛みはなかった。
もしも遮断していなかったら痛みのショックで強制ログアウトされていただろう。
私はなくなった左腕の断面を恐る恐るのぞいてみる。
断面はてっきり規制がはいるほどのグロ画像かと思ったがそうではなかった。
石だ。
私の腕は砕けた石造のように固くなんとも無機物的な表面をしていた。
「大丈夫なら良かったよ…。私のSSユニーク装備の最初の犠牲者がお姉ちゃんなんて嫌だしね。
それにしてもうわー、これが『石化』かぁ。初めて見た。
あ、腕の方は教会で治してもらえると思うから安心してね。」
前面を布で完全に覆われた盾を持ちながらフッカは感心したようにウンは恐る恐るといった感じで私の腕をのぞき込んだ。
君(ウン)はラージットの首を併記で捻じ曲げるんだからビビるなよ。
しかし、治るのか。
良かった。このまま腕なしでゲームはつらすぎる。
「その盾はいったい何なの?
『目』を合わせるとずーっと見てしまうし、おまけに『石化』?して腕がなくなったんだけど。」
「どうやらこの盾は『アイギスの盾』っていう名前で
盾を注視したものに『石化』の状態異常をかけるんだってさ、でも盾かぁ…。」
フッカはウィンドウを開いて盾の効果を確認しながら残念そうにつぶやいた。
「あら?人の腕が簡単に砕けるのに何かご不満でも?」
「いや、だって。今起きた事故を見る限り敵味方関係なく『石化』させちゃうから
パーティー行動に支障をきたすかもしれないじゃん?
それに、」
フッカは腰の両方に付けた剣を抜いた。
「私は二刀流の剣士、盾は持たないの。
あー、でも
いい機会だし私も盾の才能をとろうかなぁ。」
でも器用貧乏になっちゃわないかなぁ、とフッカはぶつぶつと一人の世界に入ってしまった。
…それじゃあ私も引いてみようかな。
私は昨日洞窟で手に入れた石を取りだした。
おぉっと、片腕だと重い。
若干バランスを失いよろけてしまったが何とか台座に石を置くと、先程と同様にエメラルドグリーンに光りだす。
そしたらレバーをっと、
「やってみたいの?
いいよ。手前に引いてごらん。」
「ゔぁー♪」
アンが興味深そうに私の行動を見ていたのでレバー引かせてみることにした。
ウンは…、
「…ゔぉ。」
どうやらガチャガチャなぞ興味がないらしい。
早くここから出たくて少し不機嫌そうだ。
「ゔぁ!!
ゔぁーーー、ゔぁっ!!」
アンが思いっきりレバーを手前に引くとドラムロールとファンファーレが鳴り響いた。
ガチャガチャの方は金色だったのが急に銅色、銀色と変色して最終的に赤一色に染まった。
「お、ユニーク以上確定じゃん。
ラッキーだねお姉ちゃん。」
いつの間にか自分の世界から戻ってきたフッカが呟いた。
フッカの時と同様にガチャガチャの正面が開いて中から真っ赤なカプセルがコロンと転がると輝きだした。
光が収まるとカプセルのあった場所には古そうなナイフが一本置かれていた。
古そう、といっても昭和初期のもの~とかではない。
紀元前何年前と出てきそうな黒い石でできたナイフだ。
柄や鞘の類もないからそれは自分で用意する必要がありそうなのが金欠には痛いが…。
ウィンドウを開いてナイフの説明を読んでみる。
『古代のナイフ』
はるか以前に滅んだ文明で使われていたとされるナイフ。
いや、なにこれ。
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