第3話

行ってしまった、本当にせっかちなんだからあの子は・・・。

フッカが戻って来るまでここで立ち止まってると他のプレイヤーに迷惑がかかりそうだ。

それにさっきフッカに叱られて少し疲れたから広場の端っこにあるベンチに座ってよう。


ベンチに腰を落ち着けると少し古びた物だったのかギシッと音が鳴った。

…でも古びてる筈は無いよね何せ今日発売のゲームなんだし。


そう考えてみるとここはゲームの世界作り物の筈なのにこの古びたベンチの肌触りも広場の中の屋台から漂ってくる美味しそうな匂いも現実リアルと比べて全く違いが分からない。それをこんな沢山の人と共有できて一緒に楽しめるとは…。


恐るべし、最近の技術。


そうなるとやっぱり動物の触った感触もさぞモフモフで…、フフフ


あー、早くこの世界の動物達に会いに行きたいな!

目の前の屋台でお面を買うだけなのにフッカはいつになったら戻ってくるのかしら?


…ていうか私がマスクを付けるんだから私も一緒に行くべきじゃ?

そう思った私がお面売りの屋台に向かおうとすると人混みから2人の男が私の行手を阻んだ。



「あれ、君もしかして一人?ひょっとしてこういうゲーム始めて?」



私から見て右側の男(お洒落のつもりなのか趣味の悪い派手な鎧を身につけている)が何が面白いのかニヤニヤ笑いながら話しかけてきた。



「俺たちさ、ベータからやってるんだけど、今一緒に冒険してくれる仲間を集めてて君は見た感じ遠距離で戦う系じゃん?だから声かけたんだけど、これから俺たちと一緒にパ「お待たせお姉ちゃん。行こっ。」」



私から見て左側の男(所謂イケメンではあるがなんとなく違和感を感じる)が最後まで喋る前にお面屋で買い物を済ませたフッカが私の手を引き移動しようとした。



「えー、君この子の妹さんなの?すげー美人姉妹じゃん。」



しかし回り込まれた!!レフトは馴れ馴れしく話しかけてくる。



「見たところ剣を持ってるし君は近接系かな?

でも大丈夫!俺たちベータでもプレイして色々知ってるから教え「じゃあ、これも知ってる?」



ライトの言葉を再び遮るとフッカはポケットから金色のコインを取り出しライト・レフトに見せた。

そのコインには『称号:βランキング個人4位』というウィンドウが付いる。



「ゲエッ!じゃあ、アンタ『暴風殺し』か!?」



多分通り名、二つ名ってやつだろう。レフトがかなりビビった声をあげた。

ちなみにお姉ちゃんも『暴風殺し』っていうちょっと中二臭いというか酒臭いあだ名にビックリしたがそれは秘密だ。



「私は初心者じゃないってことが分かったかしら?それじゃあちょっと用があるからこれで」



そう言うとフッカと私は呆けているレフト・ライトを残して広場を後にした。










「えーっと、さっきはありがとね『暴風殺し』さん?」



広場から出て歩きながら私はフッカにお礼を言うとフッカは顔を赤くした



「ちょっ、その名前で呼ぶのはやめてよ!

自分でも結構恥ずかしいんだから!」


あ、そう言えば一つ気になっていたことがあったんだ。


「でもどうしてそんな中二くs…カッコいい二つ名なんかもらったの?」



「今中二臭いって言いかけたよね!?

…まあ、β版でチョット色々とね。」


フッカの話によるとβ版の終盤ごろからモノの街の周りでかなり強いモンスター達が現れ、その中でも大鎌鼬という強力な風を操る1匹のモンスターが何処からともなく現れてはプレイヤーが襲われ被害がとても多かったそうだ。



しかしフッカは襲いかかってきた大鎌鼬を3時間に及ぶ死闘の末に見事討伐したのだ。


これにより大鎌鼬に辛酸を舐めてきたプレイヤーは大熱狂、ゲーム内掲示板も大騒ぎで誰が付けたか分からないが『暴風殺し』という二つ名がフッカについたのだそうだ。


そんな事を恥ずかしそうにだけど嬉しそうにフッカは話していた。


閑話休題


「はい!この話おしまい!!

それよりほら、これ買ったマスク!さっさと付けて!」



フッカの手の中にあるマスクを見て私は少し呆れてしまった。


「あなた、よりにもよってこんな変なのを・・・、」



「結構高かったんだから文句言わないの!!

それにこのお面鳥っぽいから動物好きのお姉ちゃんに良いかなって思ったの!!」



フッカが押し付けてきたマスクは全体が黒い革で出来ており口の部分が嘴のようになっている。

所謂ペストマスクだった。


…確かペストマスクって何かの伝染病を治療する医者がつけてたんじゃなかった?



「付けないの?」



しかしこれ以上フッカを刺激して怒られるのも嫌なので私はしょうがなくペストマスクを付けることにした。



「どう?似合う?」



ゲームの中だからなのか、ペストマスクなんて付けたら絶対に息苦しくなったり蒸れそうなものだが不思議とならなかった。



「うん、ちゃんと顔が隠れてるよ。

お洒落かどうかは、まあその服には似合わないね。」



あ、さいですか。まあ、おしゃれを楽しむゲームではないから問題はないのかもしれない。

むしろ女性と見られない方がさっきみたいなことも起こりにくいし丁度いいかも?


まあ、そんなことはどうでもいい本題は



「これでやっと気兼ねなく動物をモフりに行ける!!」



私のモフモフを愛でる冒険が遂に始まるのね!

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