仮想空間のなかだけでもモフモフと戯れたかった
夏男
プロローグ
本当に小さい頃はそれほど動物に嫌われてはいなかった、いや自覚していなかっただけだと思う。だけど小学校に入学して飼育委員の仕事をして数ヶ月が経ったとき他の委員の子は楽しそうにウサギと接していたのに私には思いっきり噛み付いたり、逃げるようにケージの中に入っていって一向に懐いてくれなかった。
それ以外にも帰り道でみんなに撫でられても平気な顔をしてるノラ猫が私にはフシャーっと威嚇してきたり、普段はすごく大人しい犬が私を見ると凄い勢いで吠えて来たりもした。
運の悪いことに小学校で仲良くしていた人達は皆家にペットがいて、私が家に行くとペットの犬や猫が怯えたり、暴れるからと家に呼ばれなくなりいつしか私はクラスの中で孤立して行きそれが引き金になってなのか高校生二年生のもうすぐ夏休みという時期になっても私はクラスメートと話せずにいた。
別に私が動物を嫌いとかというわけではない。むしろ大好きだ。部屋の中は沢山の動物のぬいぐるみや写真集、グッズで埋まっていてワンコのお腹を撫で撫でしたり、ウサギを抱っこして撫で撫でしたり、それ以外にもモフモフな動物たちとあんなことやこんなことを…。
…ともかく、私がモフモフな動物たちと仲良くなりたいことは理解していただいたと思う。だけどこのままだと、私の夢は叶いそうにない。
だけどそんな私にもモフモフたちと仲良くなれるかもしれないチャンスが転がり込んできた
きっかけはある昼休み、私が教室で1人お弁当を広げていた時後ろの席で固まっていた男の子のグループの話を偶然聴いてしまったことだった。
「いよいよ完成かベータテストからいったいどんだけ待たせるんだって話だよ。」
「でもその分色々パワーアップしてるんだろ?
それなら文句ないけど。」
ここで私は彼等が話しているのがもうすぐ発売されるというVRゲームのタイトルの話かと気づいた。
2000年代にとある企業の技術革新によってスポーツや医療、教育などでVR技術が大きく利用されるようになりここ最近ではゲーム業界でも仮想空間でのゲームプレイが主体となったというのは晩ご飯の時によく重度のゲーマーである妹が楽しそうに言っていた。
因みにだけど私はあまりゲームには詳しい方ではなくて、確か最後にゲームをしたのはテレビの画面で子犬を飼うゲームのはずだったんだけど何故かそのソフトを入れてゲームを起動しようとすると画面が青色になってその後電源が落ちてしまうという異常事態に遭遇してからは触ったことがない。
「ベータ版でも風とか草が足にあたる感触がリアルだったもんな!」
「そういえばあのゲームの中で動物mobにさわったことあるか?
あの感触はまるで本物の猫に触ったみたいだったな。」
動物mob?、ネコ?、まるで本物…?
「えー、猫なんてベータテストのときにいたか?
俺は犬しか見てねえぞ。」
イヌ…。
「ハハ、初めてログインしたときに村からスタートでそこに小さな井戸があったろ?あそこでたまに毛づくろいしているのを見かけてな。結構人懐っこい奴だったよ。」
「へー、じゃあ今日ちょっとみんなで見に行ってみようぜ?今日から製品版はスタートだからってヤベ、もうすぐ授業だ。」
これだ
そのゲームの中であれば私でもモフモフな動物たちと仲良くなれるかもしれない。
そうとなれば早く帰ってそのゲームをダウンロードしよう。
授業中もそのことばかり考えていた私はあまりその後の授業に集中することができなかった
「うん、ソフトもダウンロード出来たよ」
私の部屋で仮想空間にダイブするためのマウントをいじっていた妹の風香は私にマウントを手渡した。
このマウントは普段ネット通販や仮想空間で勉強をするために買ったけどまさかゲームをダウンロードすることになるなんて思いもよらなかった
「それにしても私にゲームのことを教えてくれっていきなり頼んできたから私はてっきりお姉ちゃんもとうとうこっち側の人間になったのかって思ったのに、まさか動物のためとはねえ。」
若干呆れたような物言いに私は少し腹が立ったがゲームソフトをマウントにダウンロードする方法を知らなかった私はグッと堪えた。
「別にやましいものじゃないんだから、何に興味を持ってもいいでしょ?」
「まあまあ、ただお姉ちゃんぽいなって思っただけだよ。だけどこの『Talent World Online』はオンラインゲームって言って見ず知らずの人も同じ仮想空間にいるけど大丈夫?お姉ちゃんがコミュ症だと妹の私が心配になるよ。」
『Talent World Online 』、通称『TWO』は風香の話によると所謂剣と魔法の世界を題材にしたゲームで製品版が発売される前から様々な所で話題になっていたらしい。
その理由が、ゲームのキャッチコピーにもなっている『オンライン上に広がるもう一つの現実』。
旧来のVRオンラインゲームでは食べ物の味がしなかったり、人や動物の肌触りに違和感を感じる人が多かったらしく、あまりリアルではないゲームが多かったそうだ。
しかし『TWO』のベータ版をプレイしたゲーマー(これには風香も当てはまる)の話では「現実との違いが分からなかった」
食べ物の食感や味、風や匂い、そして動物やモノの手触りは正しく現実世界と同じでどっちが本物の世界か分からなかったらしい。
そんな世界で友達やそこで知り合ったプレイヤーと冒険をしたりするのはとてもおもしろいのだろう。
因みにだけどお値段は8,000円位、こんな高い値段のするものを風香はバンバン買っているのだからお金の出どころが気になってしまう。
「なっ、失礼な。私の方が年上だし、それに背も風香より私の方が高いんだから。1人でも大丈夫だよ。」
私は背の高いお父さんに似たのか身長は女子にしたら高く大人っぽいとよく親戚に言われ、対して風香はお母さんに似て背が小さくかなりの童顔でよく子供扱いされて怒っている。
だから大丈夫なはず
「うーん。そこまで言うなら私もクラスの友達とやるつもりだしちょうどいいけど。
まあ、一回ゲームの中にインしてキャラメイクしよう。」
じゃ、やってみて。そう言うと風香は立ち上がり自分の部屋からゲームにインするため部屋から出て行った。
遂に私も動物たちと…
そう考えると私はこれからのゲームで出会うであろうモフモフに心を躍らせた。
よし‼︎待っててねまだ見ぬモフモフたちよ‼︎
私はマウントを頭に装着するとスイッチをONにして目を瞑った
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