34 黒装束の男、ファンボーイ

「確かに俺達が思っている以上に事が進んでいる可能性は大いにありそうだな」


 ルカが冷静に言葉を返してくる。


「そして仮説が正しかったと確定すれば、その事実はこの先の行動の道標になる。だから他の三国がどうなっているのかを調べる事には大きな価値があるとは俺も思う」


 そこまで私の言葉に賛同した上でルカは言う。


「だがどうやってそれを調べる。何かが起きているであろうその場所に足を踏み入れるのは大きな危険が伴う。そして仮説が正しかった場合、各国の聖女を始めとした関係者は皆マークされている筈だ。誰が行こうが無策で本丸に攻め込むような物だぞ」


「た、確かに……あ、でも私とか無関係な感じになっちゃったから適任なんじゃない?」


 いや、なんかヤバい事起きてるところに一人で行くっていうのはマジで怖いんだけどさ……この前の地下の一件で一人じゃどうにもできなかったって事を経験した訳だし。


 そして私の一応の提案にルカは首を振る。


「いや、先日の一件に中心人物として関わったんだ。此処に居る全員がもれなく関係者だ……ってああ、当然ミーシャさんは除いてな」


「第一無関係だとしても、アンナ一人で行かせらんねえだろ」


「そうですよ、何考えてるんですか」


「そうっすよ。誰か一人が無理する必要なんてないんすから」


「……そうだね、うん、ごめん」


 深い事を何も考えずに言っちゃったけど、やっぱそういうのは良くないよね、うん。

 そういうのは……やめとこ。


「で、ウチらの誰もそういう事実確認に動けないってなると……これはアレかな? 仮説が正しい事を前提として動くって事かな」


「最善かは分からないがそうなるだろうな」


「でもまあそうなっても、今の私達にはそういう事実確認をスキップできるかもしれない強力な助っ人がいるから。ね、レリアさん」


「うむ、確かに事実確認はしておいた方が良いが、トリガーとなった術式を解析できれば逆算する事もできるじゃろうし」


「そ、そういえばベルナール。あえて誰もツッコまなかったと思うんだが、その透けている女性は一体……」


「まるで幽霊ですって感じだな」


 マルコさんの言葉にその場の全員が頷く。

 って事はマフィアさん達の中で見えて無いの部長さんだけか……なんか不憫だよ。

 まあそれはさておき……この流れ何度目か分かんないけど一応やっとこうかな。


「ガチな幽霊。さっきまで私達冒険者の仕事で動いてたんだけど、その過程で知り合ったんだ」


「おいマジで幽霊だったぞ……えぇ……」


 マルコさんを筆頭に驚くマフィアの皆さん。

 その中で反応が違う人が一人。


「る、ルカ君幽霊だって。ほ、本当に居るんだね……ルカ君?」


「幽霊……レリア……この状況における強力な助っ人……いや、まさか……そんな事ってあるか……?」


 なんかルカが呟いてる。

 まあそりゃ……アンタならそうなるよね。

 寧ろ皆がならないのがアレって感じなんだよね。

 そしてルカは私に言う。


「お、おいベルナール。そのお方はもしやレリア・オルフィルという名ではないか?」


「正解」


「ほ、本物なのか……いや、ベルナールが信用するに至っているなら本当に本物なのか……」


「おいルカ。誰だそのレリア・オルフィルってのは」


「し、知らないのかマルコ! 現代魔術の基礎を築いたとされる歴史に名を残す大大大天才の名をか!? お前も魔術師の端くれだろう! 端くれどころか普通に実力者だろう!」


「知らねえよ、魔術なんてのは俺達に取っちゃあくまで手段に過ぎねえ」


「とはいえ魔術に触れる物として最低限名前位は知っておいても……なあベルナール!」


 その言葉に深く頷く。

 別に知らなかったステラやマルコさん達をどうこういうつもりは無いけど、知っていた方が良いのは同意だようん。


 ……ちなみにミカはなんか気まずそうにしている。

 知らなかったんだろうなぁ……。


「……めんどくせえオタクみたいになってやがるな」


「は? そういうのではないんだが?」


 そう言いながらルカはこちらに、というかちょっとご機嫌な様子のレリアさんの方に歩み寄って来る。


「ほう、どうした」


「あなたには色々とお伺いしたい事があります。ですがその前に──」


 そしてルカは得意の暗器技能を駆使して……色紙とサインペンを取り出す。


「──よろしければサインください」


「な、なんでそんなもん持ち歩いてんだよ……」


 そういえば幽霊屋敷で色紙なんて持ち歩かないだろと言っていたステラは、普通に若干引いてる。

 そんなステラにルカのアンサー。


「常日頃からいかなる状況にも対応できるよう準備を整えておくのが、あらゆる事への基本だろう」


「その結果がそれか……凄い技術盛大に無駄使いしてないかそれ」


 いや、違うよステラ。

 これは無駄じゃない。


「ねえルカ」


「なんだ」


「色紙もう一枚あったりしない?」


「愚問だな」


 そう言った次の瞬間には……ルカの手の色紙が二枚に!

 っしゃあッ!


 私達がそんな風に盛り上がりを見せる中、レリアさんはミカと、そしてステラ達に視線を向けて言う。


「なんかお主らも大変じゃのう」


 その言葉の意図は良く分かんなかったけども!

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