26 聖女さん達、謎の現象を考察する。
「空間が……えぐり取られ……え?」
「ど、どういう事っすか?」
「どういう事……か。そうじゃな」
そう言ってレリアさんは立ち上がり、普通に何も無い空間で軽く手を振る。
「此処には見ての通り何も無い。じゃが本当の意味で何も無いという訳でないのは分かるじゃろ?」
「え、何言ってるんですか……とんちか何かですか?」
同じく立ち上がりながらそう言うシルヴィ。
うん……何言ってるんだろう。
何も無いけど何かあるって事?
首を傾げる私達の中で自信なさげに小さく手を上げたのはシズクだ。
「えーっと、酸素とか二酸化炭素とか……っすかね?」
「ま、大体そんな所じゃの。それだけでは無いが、とりあえずその認識でいいかの」
そしてレリアさんは、その何かを指刺して言う。
「そこにはそれが無い……まさしく言葉の通り、何も無い訳じゃ。えぐり取られて何も無くなっとる」
正直言っている事は理解しがたい。
だけど自信なさげながらもレリアさんは、空間が抉り取られているという答えを導き出している。
空間が抉り取られる……そこに何も無くなっている。
良く分からないけど……うまく脳が理解しようとしてくれないけど。
それだけ、色々な魔術を見て聞いて、研究していても意味の分からない現象だけれども。
「良く分かんないけど、これ相当ヤバイんじゃ……」
私達は今回レリアさんのおかげでこれを回避した。
だけど今現在も残り続けている……もしくは無くなり続けているその何かが他の所で、何の前触れも無く出てこない保証は?
こんな見た事も聞いた事も無いような現象は……この場限りの危機では無いんじゃないか。
……いや、でもちょっと待って。
それは無い……のかな?
そして私が考えた事と同じ事をステラは言う。
「確かにヤベエ事は起きてるけど、この屋敷の中はもう何が起きてもおかしくねえ位に意味が分からねえ事になってるじゃねえか。これもその一部なんじゃねえのか? だからさっさとこの場から出る。立ち尽くして何か考えるよりその方が良いんじゃねえか?」
この場はもう何が起きてもおかしくは無い。
既に幽霊から、部屋と部屋の行き先がズレるような多分魔術と関係ない空間の歪み。そして今のこれ。
こういうのは全部この屋敷特有の説明できないヤバい何かとして一括りにしても良いんじゃないだろうか。
……だけど私も、多分ステラも。
そう考えるのは、そうであって欲しいと半ば目を背けるようにそういう思考になっているだけだと思う。
……だってそうだ。
何も分かっていない現時点でもヤバさのカテゴリーみたいなのが全然違うのは直感で伝わってくるから。
そしてレリアさんは言う。
「そんなに楽観的な話では無いと思うがの」
「自分で言っておいてなんだけど……やっぱそんな感じか?」
「ああ。今この空間がおかしかったり……それこそワシみたいなのが出てきておるのはこの世界に何かが起きているからじゃ。世界のどこかで同じような事が起きる可能性もある訳で……だとすれば当然、複合してこの謎の現象が起きる可能性も十分にある……勿論、これだけが単体で起きる可能性もの」
そう言ったレリアさんは、一拍空けてから言う。
「じゃがまあ此処を出るのには賛成じゃ。現状この現象をすぐに解明できる訳ではないからの。そしてこれが解明できなくても……ワシはこの世界で何かが起きている事を把握していて、お主らは別件かもしれんが同じく世界規模で何かを起こす一件と関わっておる。つまり……やるべき事をやっていけば、この謎も解明できるやもしれん」
「色々考える前に……まずは出来る事を、ですね」
「そういう事じゃ……という訳で」
そう言ってレリアさんは、戸棚に歩み寄り、静かに戸を開ける。
「一旦脱出じゃ。さあ潜った潜った」
「は、はい!」
そうして色々あったけど、私達は幽霊屋敷を脱出した。
うん、本当に色々とあったよ。
レリアさんが抱えている一件。
私達が抱えている一件。
謎の現象。
これ全部に関連性があるのか、それとも全部独立した何かなのか。
分かんない事だらけなんだけどさ……とりあえず。
これでお仕事完了だ。
……ほんと、何しに此処に来たのか分からなくなる位、仕事の情報が薄すぎる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます