17 聖女ちゃん、大暴走
「ちょ、これヤバイ! 本気でヤバイ!」
中の人はそう言いながら、左腕で暴走する右手を抑え込む。
だがそれでも抑え込めたのは腕だけで、かなりの割合で体のコントロールを失っているみたい。
「ッ!?」
突然シルヴィの体が跳ね上がりバク転を始める。
そして多分……あえて着地をミスった。
「ぐぇッ!」
宙を舞ったシルヴィの体は見事に頭から着地する。
「う、うわぁ……」
い、痛そう……く、首とか大丈夫かな?
「な、なあこれ止めに入った方がよくねえか?」
「し、シルヴィさんの体持たねえっすよ!」
「た、確かに……」
なんか良く分からないけど反撃できてる感じはしたけど、これ冷静に考えると状況悪化してない?
そして私達の会話を聞いたのか、うめきながら頭を抱えて床を転がるシルヴィの中の人は叫ぶ。
「そうじゃ! このままじゃこの小娘の体が持たん! ここは一時休戦じゃ! この小娘を止めてくれ!」
「いやお前がシルヴィの体から出ていけば解決だろ!」
「そ、そうだよ! それが一番いいっていうか、それ以外の止め方分かんないんだけど!」
「と、とにかく一旦出てくれませんか!?」
「くぅ、正論だし、おぬしらもわからんならどうしようもないし、不本意じゃが一旦出るしかないかの! いいか、一旦じゃぞ!?」
そう言った次の瞬間、転がりながら再び自分の鳩尾に向けて拳を向けていたシルヴィの体から、確かにシルヴィの体に乗り移っていたら大きく違和感がありそうな、なんというかこう……セクシーなお姉さんの幽霊が抜けて出てくる。
抜けて出たから。
「「今だぁッ!」」
私とステラはそう叫んで、全力で間合いを詰める。
「ちょ、ワシ一旦って──」
「「知るか!」」
そして私は結界で作った棒で。ステラはメリケンサック状の結界を纏った拳で。
シルヴィの中の人をぶん殴る!
「ぐぁッ!」
直前、かなり分厚い結界をピンポイントで張られて若干威力は殺されたけど、それでもそれを砕いた私達の攻撃はシルヴィの中の人に直撃し、勢いよく弾き飛ばす。
「……やったか?」
「やってるといいね」
前方を警戒しながらそう言いあう私とステラ。
そんな私達に後方からシズクの声が上がる。
「やったかってやってちゃマズいっすよ! ほら色々と話聞かなきゃなんすよ!?」
「「……あ」」
忘れてた。
シルヴィの体に戻る事が無いようにって事で頭一杯になってた。
と、そこで事の中心のシルヴィが声を上げる。
「いったああああああああああああああッ!?」
滅茶苦茶痛そうな声を上げてる。
「し、シルヴィさん大丈夫っすか!?」
駆け寄ってきたシズクに反応するように、痛みに悶えながらシルヴィが言う。
「な、なんかよく分からないけど大丈夫じゃ……痛い痛い何が起きてるんですか! というか記憶飛んで……って頭からも血が出てる、うわぁ……いたたたた!」
そんな聞いた事ないような声を上げるシルヴィにステラが言う。
「シルヴィお前今まで幽霊に操られてたんだぞ」
「ちょ、ステラさん今冗談に付き合える状態じゃないですよ!」
「冗談じゃねえんだけどなぁ……」
軽くため息を付くステラ。
シズクの時と違って、私達と中の人の攻撃で近場の幽霊を全部ぶっ飛ばした後で、さっきの戦闘の影響か新たに寄ってきてもいない。
シズクの時みたいにすぐ納得してもらうのは難しいかもしれない。
と、そんな状況に都合よく。
「……いたた、中々に重い攻撃じゃったの。消し飛ばされるかと思ったわ」
シルヴィの中の人がゆっくりと立ち上がって、静かにこちらに向かって歩いてくる。
「ほらシルヴィ見える? いるよ幽霊! あれに取り憑かれてたんだよ!」
「そうすよほらほら!」
「シズクさんまで……ほんと今そういうノリに付き合ってられ……うわぁ幽霊だ! 皆さん幽霊いますよ幽霊! 嘘ぉッ!?」
「だから最初からいるっつってんだろ!」
どうやらシルヴィにも中の人の姿が見えたみたいだ。
「私あれに取り憑かれてたんですか!?」
「そうだね」
「なるほど、という事はこの怪我はあの幽霊を私から追い出そうと皆さんが……あ、あの本当にありがたいんですけど、もうちょっと加減してくれたら嬉しかったなーって」
「いやそやつらの名誉の為に言っておくが、そやつら手加減して一発もお主に攻撃当ててないからの!? 全部お主が無意識に自分の事ぶん殴ったりした結果じゃからの!?」
まさかの中の人がフォローしてくれた。
「誰だか知りませんけど、私の体乗っ取った上にそんな悪質な冗談止めてくれませんか。というか私分かりましたよ。私にこんな怪我負わせたのあなたですね!」
「お、大元の元凶作ったのはワシじゃけど、それは違う! なんか納得いかん!」
「「「……」」」
あの、こんな事言うのは変かもしれないけどさ……うちのシルヴィがすみません。
そしてごもっともな発言をする中の人に対し、シルヴィは重い声音で言う。
「なんですかね。乗っ取られたのも腹立つんですけど……なんかそれだけじゃないんですよね。良く分かんないですけどイライラします!」
そう言ってゆっくりと起き上がったシルヴィは、結界を棒状にして構える。
「さあ、反撃開始ですよ」
声音から分かるけどすっごいキレてるなぁ。
うん、今後間違ってもシルヴィの体型の事をネタにしたりはしないでおこう。
元々するつもりはないけども……なんかこう、命の危険を感じるよ。
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