55 聖女さん達、本日最後の仕事

 ニック達と合流した後の話。

 それからはありがたい事に新たな敵と会敵する事もなく、おそらく正規の突入ルートの一つと思われる地下水道の管理用の出入り口を使って外へと出る事が出来た。


「よーし脱出ぅ!」


「これで一安心ですね」


「いやー子供連れてる時戦闘になんなくて良かったな」


「そうっすね」


 ひとまず危険地帯から出る事が出来た事に安心して私達は深く息を吐くけど、それでもまだ終わりじゃない。

 誘拐されていた子供達を無事保護者の所に届けるという、大事な事が残っている。

 ……残ってるんだけど。


 ……この子達の身元が全然分かんないんだよね。


 当然全員が全員ではなくて、私達が追ってきた子供は反応で特定できるし、ステラが追ってきたらしいお客さんの子供も顔を覚えているようだったけど、逆に言えばそれ以外は完全に身元不明って感じ。

 このまま子供たちを解放して各々帰ってもらうってのもなんか違う感じがするし……どうしたものかな?

 ……私だけの問題じゃないし、皆に聞こう。


「ねえ、この子達どうすればいいと思う?」


「それなら我々に考えがあります」


 それに答えたのはシルヴィ達では無く、ニックと一緒に付いて来た明らかにカタギじゃない男達の中の一人。

 まあ……見るからにマフィアマフィアしている人。


「今頃憲兵も諸々の失踪事件の対処で走り回っている筈です。何せ此処にいる子供達だけでもそれなりの人数なのに、それより更に多く大人も失踪している訳ですから。ウチの新入りのように」


 そう言って男はニックの肩に手をポンと置いてから続ける。


「つまりは情報提供さえすれば受け入れてもらえる態勢にはなっている訳です。だから此処はシンプルに憲兵に連絡を入れましょう。おい、ニック。近くの店で電話借りて連絡してこい」


「分かりました」


 言われたニックは近くの飲食店に向かって走っていく……行ったんだけどさ。


「えーっと、アンタ達ってマフィア……なんだよね? それなのに憲兵って……」


 マフィアという事は反社会勢力である訳で、憲兵とかと連絡取っちゃまずいんじゃないかなって思うけど。


「どんな個人にも組織にも、表の顔と裏の顔というのは存在します。良いじゃないですか、利害が一致した時位は裏でコソコソ手を取り合っても」


「癒着って奴っすか?」


「ええ。聞こえは悪いですが、そんなに悪いものじゃ無いですよ。綺麗な汚職って奴です」


 そう言ったマフィアの男はさて、と区切るように言ってから続ける。


「そういう訳なんで後の事は我々にお任せください。うまくやりますよ」


「えーっと……」


 どうしよう。

 多分味方……なんだろうけど、この人達に子供を任せちゃって大丈夫なのかな?

 ほら、なんだかんだ言ってマフィアだし……どうしよ。

 私がそう考えているとシズクが言う。


「気持ちは分かるっすけど、多分この人達になら任せても大丈夫だと思うっすよ」


 一切の疑いもないような表情と声音でシズクは言う。


「凄く信頼してるみたいだね……えーっと、この人達シズクの知り合いだったりしたの?」


 そういえばさっき合流した時の感じだと、ニックの事とか……あとこの人達のボス? ……で良いのかな? その人の事も知ってそうな雰囲気あったし。


「あ、えーっとそうっすね……」


 シズクは答えにくそうにそう言うが、そんなシズクにミカが言う。


「……どうせシエルさん達との合流場所がさっきの所になってる訳だし、色々隠す必要無いんじゃないかな?」


「あーまあそうっすね。確かにその通りっす」


 そう言ってシズクは軽く咳払いした後、異を決して言う。


「ウチのギルドの部長、裏でマフィアのボスやってたっす」


「「「あぁ……成程」」」


 私とシズクとステラは三人共納得するようにそう呟いた。


「は、反応薄いっすね!?」


「いや、なんというか……なぁ」


「すごくそれっぽい風貌もしてますし……」


「それ含めてなんか色々腑に落ちたよ」


 ニックがマフィアなのに明らかにまともだったりとか、それ以外のこの人達の事とか。

 なんか凄いまともな人達って感じな訳で、そのトップがあの人って言われたらまぁ驚く通り越して納得するよね。


 風貌が明らかにそんな感じだったから余計にね。


 ……まあそういう事なら任せても大丈夫そうかな。


「じゃあ後の事お願いしても大丈夫かな?」


「はい、任せてください。この子達の事も、中で倒れてる人たちの事もうまくやっておきますよ」


「じゃあ……いや、でもちょっと待って」


 でも流石に全部を任せておく訳にもいかない。


「どうしました?」


「えーっと、あの子なんだけど。私あの子のお母さんに連れて帰るって言っちゃったからさ。あの子位は私が責任持った方が良いんじゃないかって」


「ああ、それなら俺もだ」


 ステラも言う。


「その子なんだけど、ウチのお客さんのお子さんなんだ。今店で待ってて貰ってるからさ、早く安心させてやりてえ」


 私達がそう言うと、マフィアの男は言う。


「それならお願いします。身元が分かっているなら、早く親元に返してあげた方が良いでしょう。親子双方の為にね」


 至極真っ当な言葉を。

 ……うーん、マフィアってなんだっけ?


 とにかく私達はその子達を親元へと送り届ける事にしたのだった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る