25 聖女さん達、引き継ぐ

 ……悔しいけど、そうなったら研究者としての格は向うの方が上。

 後は実際に運用する魔術師としての格がどっちが上かって話だけど……まあ、それすらもぶつかってみないと分かんないか。


 ……分かんない、か。

 ほんと、敵も味方もインフレし過ぎだよ最近。

 ……まあ敵だけじゃなく味方もだから恵まれてるかな。


 そして三人を飛ばし終えたルカは、最後にニット帽の男に触れる。


「まだ他に何か俺達に言っておく事はあるか?」


「言っておく事……か。本当はもっと色々と言えたら良いんだが、俺の知っている事は此処まで。浅くて悪いな」


「いや……何もないよりよっぽどマシだ。助かった」


「そう言ってくれると、死に物狂いの負け戦にも意味が有ったんだって思えるよ」


「……で、そろそろ飛ばしてもいいか?」


「ああ、良いぜ。って言いたい所だが最後に一つだけ。言っておかなきゃならねえ事あったわ」


 そう言って男は私とルカにそれぞれ視線を向けてから言う。


「お前らのおかげで罪もねえような誰かに怪我負わせずに済んだ。マジで助かった。ありがとう……後は頼んます」


 そういう改めての礼の言葉。

 そして託すような言葉。

 それを言い終えたのを確認してからルカはその男を転移魔術で地上へと飛ばす。


 そして私達は進行方向へと向き直って、そして走り出す。


「多分アイツも私達と同じで首突っ込んで巻き込まれた感じだよね」


「おそらくそういう事だろうな。だから全員立場は違えど向いている方向は同じのようだ。一応仲間を呼んでくれる話にはなったが、そもそもアイツは最初此処に残るつもりで居たんだ。その意思は俺達が引き継いでやらないといけない」


「なんかますます引けなくなった感じだね」


「元々引くつもりは無いだろう」


「まあ無いけど……いや、というかマフィアの意思引き継ぐみたいなニュアンスになるのは嫌だなぁ」


「それは……確かに嫌だな。普通に嫌だな」


「というか今の奴の名前聞くの忘れてたね」


「一応聞いておくべきだったか……しまったな」


 と、名前も知らないマフィアの下っ端の意思を引き継いで私達は走る。

 そして走りながら……ルカに問いかける。


「で、アンタは本当に引かなくて大丈夫なの?」


「……どうした急に」


「この先はまともな形で外と繋がっていないみたいだけど……そうなったらアンタ都合悪いんじゃないの?」


 思い返す。

 私がルカと戦った時の突破口。

 周囲に空間を断絶させる結界を張り、ルカが外部から供給していた力を断ち切った。


 そしてこの先の空間が普通ではないとすれば……その時の様な事になりかねない訳だ。


「此処の敵、私達が想定してた以上にヤバい奴の可能性が出てきたんだけど」


「まあ仮に力の供給が得られなくてもなんとかするさ。あの時とは違い突発的に弱体化する訳じゃないんだ。出力が落ちたなら落ちたなりの戦い方をすればいい」


「ま、アンタならそれができるか」


 というかそもそも弱体化したとしても私の一発を喰らって意識保ってた訳だし、素でも結構強いんだよねコイツ。

 ……なら問題はあっても、思った程の大問題では無いか。


 そう思ったけど、少し怪訝な表情を浮かべてルカは言う。


「それより俺とのパスが一時的に切れるとなると……まず間違いなく心配を掛ける。そっちの方が問題だ」

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