ex 受付聖女VS影の男 Ⅰ
次の瞬間、状況は動いた。
「……ッ!?」
男が僅かに動いた瞬間に合わせて、ミカの正面以外の全方向をギリギリ包める程度の大きさの結界を張り巡らせた。
相手がどれだけの規模の攻撃をどういう形で放ってくるか分からない状況下で、瞬時にシズクが出した最適解。
自分達から見て正面から来る攻撃は見てから何とかする。
その代わり視覚的にどうしても反応の遅れる正面以外からの攻撃に備え、正面に充てる分の強度を他に回した、正面以外を守る結界を張り巡らせる。
自分への攻撃の場合は、回避するか歯を食いしばって耐える。
そうやってまずは一発、相手に手の内を晒させる。
そして幸い、その賭けに近い判断が功を制した。
「おっとやるじゃん」
結界を張ったと同時、何もない空間から発生した影の棘が、ミカの太腿辺りを目掛けて地面から放たれた。
それを結界で相殺。
そんな一瞬の攻防で。
(それならこれで!)
向こうの手の内に対する仮説を立て、その仮説が正しいという前提で次の一手を打つ。
大した強度はいらない。
簡単に破壊される程度で良い。
その程度の結界を、地面とミカの結界の上に上塗りするように張り巡らせる。
正確に言えば、ミカの結界と地面で男が謎の指輪で作り出した影をサンドするように。
そして次の瞬間、シズクの右足付近から結界を突き破って影の棘が迫る。
結界の破砕音を纏って。
「……ッ!」
その感覚と音に合わせるように、小型の結界を展開。
自身の腹部目掛けて伸びてきていた結界を正確にくい止める。
(よし……多分読み通りっすね)
今の攻撃を防げた事で向うの手の内が読めてきた。
どういう原理かは分からないが、男はあの指輪を使って周囲に影のような何かを展開した。
そしてそうした人為的に作り出した影を使って、少なくとも今の様な攻撃を行える。
もしミカが影の展開を結界でせき止めていなければ、その時点で周りに居た人達にいつでも攻撃できるような。
掌の上に置かれるような状況になっていた。
そうなっていれば甚大な被害が生まれていただろう。
そしてここが狭い空間だからこそ、ある程度対処できる。
(この攻撃は防げる)
貫かれた箇所を瞬時に修復しながらシズクはそう考える。
この場全ての壁と足場。
男が人為的に作り出した影の上に結界を張っている。
故に攻撃の際、必ずシズクの結界を突き破る。
音で攻撃を認識できる。
それからでも防げる。
厄介で複雑な攻撃はこれだ無力化できる。
そして何度も。
何度も何度も、そうして放たれる攻撃を防いでいく。
……大した早さではない。
少しずつ感覚が研ぎ澄まされていき、対処に余裕すら生まれてくる。
余裕が生まれて……思考に意識を回せる。
これからの対処方法に。
向こうに人質が居る以上、どこにどこまでの攻撃をしていいのかを探りながら戦っていく必要があるが、その為にどうしていけばいいか。
そもそもまともな近接戦闘ができない自分が、どうやって戦っていけば良いのか。
そこに思考のリソースを割くことはできる。
……この程度の攻撃ならば。
「器用な事をするなぁ。何この薄い結界。というか音で分かった程度じゃ防げない速度だろ今のは」
この程度の内は。
「よっしゃ、じゃあ直接殴るかぁ!」
この程度の攻撃で済んでくれれば。
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