56 聖女さん、悪質な冗談
「正直アンナさんが施した術だけで完璧だとは思うんですけど、そこから更に私がお手伝いできれば……その、心配とか要らないような感じになるのかなって思ったんで」
「ま、まあ確かに」
私の魔術だけでほぼノーリスクって言える状態な訳だし……そこにシルヴィの魔術も加われば誰かに見つかる方がおかしい。
少なくとも一個人の住宅の守りとは思えないような代物になると思う。
「でも良いの? そんな事頼んで」
「別に全然良いですよ。それにほら、昨日泊めてもらったお礼もしてないですし」
……まあシルヴィが乗り気なら、別に断る理由も無いよね。
「じゃあちょっとお願いしていいかな?」
「はい。任せてください」
そう言ってシルヴィは笑みを浮かべる。
……なんだか少しだけ自信ありげな表情だね。
……もしかしたら今日色々あって、多少は自分に自信が持てるようになったって事かな?
そうだったら良いなって思うよ。
と、そんな約束を交わした私達にシズクが言う。
「あの、それだったら乗り掛かった舟って事でボクも手伝っても良いっすよ」
「……え?」
追撃するように飛び出した予想もしていなかった提案に思わずそんな声が出る。
「いや、一応解決したっぽいっすけど念には念を入れてって言うじゃないっすか。それにこの手の術は一回張れば後は不定期にメンテが必要な程度の手間なんで。ボクでよければいくらでも手伝うっすよ」
「あ、じゃあえーっと、シズクにもお願いしても良いかな」
「はいっす!」
シズクも元気よくそう返してくれる。
……うん、なんかこの流れだと私の家、この世界で一番安全な場所みたいになりそうだね。
……さてと、私の家がとんでもない事になる計画が立った所で。
「あ、じゃあ結局今日もウチに来ることになるし、シルヴィ今日も泊ってく?」
「あ、いいんですか?」
「どうぞどうぞ」
寧ろこの流れで駄目ですなんて言う訳無いじゃん。
「シズクはどうする? ってシズクは普通に帰る家あったね」
「泊まってもいいっすか? 人の家に泊まるの楽しそうなんで」
理由が友達の家に遊びに行くみたいになってる。
……うん、良いんだけど。
少し話して私は勝手に友達みたいに考えてるし。
「いいよ。ウェルカム」
「あざーっす!」
そう言ってシズクは笑みを浮かべる。
……となれば今日の予定は決まりだ。
「じゃあ最低限買うもの買って、後はシズクの着替えとか取りに行って、それから私の家向かおうか」
「あ、そういう事ならボクの部屋から転移魔術で飛べばいいと思うっすよ。態々宿を借りるのは時間もお金も勿体ないっす」
「あ、いいの?」
「どうぞどうぞ」
それはとても楽だね。
宿探す手前省けるのは本当に助かるよ。
「ちなみに最低限買うものって、何買うんすか?」
「そうだね……っと、ちなみに外食続くのもアレかなって思ったから晩御飯適当に作ろうと思うんだけど、二人共それでいい?」
「その辺はアンナさんにお任せします。あ、手伝う事有ったら手伝いますよ」
「ボクも……って事は買うものってのは食材とかっすかね?」
「半分正解」
家にある食材じゃ三人分の晩御飯作るには色々と足りない。
「とりあえずシルヴィ、枕買いに行こう。ほら、自分に合った枕じゃないと安眠できないんだよね」
「そ、そうですけど……別に眠れない訳じゃないんで、今日すぐに買いに行かなくても……」
「いや、今日行こう、絶対行こう!」
「え、あ、……は、はい」
「なんか凄い必死っすね」
シズクが呑気にそう言う。
ま、まあそりゃあのエキセントリックな寝相を知らなければそんな感想も出るのは分かる。
……うん、別に言ってもいいか。
「シルヴィ寝相凄かったから。枕変えて治るんだったら買った方が良いって話」
「あ、そうなんすか」
「ベッドから落ちてましたからね」
「いや、ベッドで寝てた筈なのに気が付けば本棚の上で寝てたからねシルヴィ」
「へぇ、本だ……本棚!? もうそれ寝相悪いっていうレベルじゃねぇっすよ!」
「あ、アンナさん!」
暴露トークを始めた私にシルヴィが言う。
「あ、悪質な冗談言うの止めてください! まるで私がヤバい人みたいじゃないですか!」
いや、あの瞬間冗談抜きでヤバい人だったんだけど。
というか悪質な冗談云々は、私がマッドな研究してるみたいな感じでステラに伝えちゃってるシルヴィに言われたくない!
「そ、そうっすよね。冗談っすよね」
「当たり前じゃないですか。でもそうですね……それを冗談だって証明したいんで、枕は今度で大丈夫です。私の寝相が常識の範囲内って事をお見せします」
「え、あ……そう?」
えぇ……大丈夫かな。
これから私の家を守るための魔術を張り巡らせるって話なのに、内側からぶっ壊されたりしない?
なんか凄い心配なんだけど。
「いやーほんとにそんなやベー寝相の人が居たら、一回見てみたいっすけどね」
「あ、うん……そうだね」
多分同じ部屋で寝てもらう事になるから見ることになると思うけど……頑張ってシズク。
命の危険は……無いといいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます