21 聖女さん、クエストスタート
その後私達は軽く準備をしてから北の山へと向かう事にした。
荷物増えるのが嫌だったから本当に軽い準備だ。
薬草を持ち帰る為の袋と、携帯食料と飲み水。
ほんとそれだけ。
「さっき見かけた別の冒険者の人達、それなりに大きなリュックを各々担いでましたけど……私達、準備本当にこれだけで良かったんですかね?」
「確かに……やっぱり一応色々準備しておくか?」
「いや、大丈夫でしょ、私達なら」
一瞬自分でも無茶苦茶仕事を舐めてる発現のように思えたが、実際私達なら大丈夫だと思う。
「じゃあ質問。シルヴィはもし怪我をしたらどうする?」
「え? 治癒魔術で治療しますけど」
「ステラ。もし何かあって毒に掛かったらどうする?」
「どうするってそりゃ、魔術で解毒するだろ」
「買って用意できるような物、水と食料以外は全部こんなやり取りになると思うよ」
「……いらないな」
「……寧ろ身軽になる分こっちの方がいいですね」
「でしょ?」
二人は改めて納得してくれたみたいだ。
……うん、私達ならそれで大丈夫。
治癒能力を高めるポーションも要らないし、解毒剤も要らないし、お店で買えるような物で出来る事は自分達でできる。
まあそうなってくると普通は魔力が足りなくなって、最低でも魔力を回復する類いのポーション位は持っていた方が良いのかもしれないけど……まあそもそも私達、年間通して常時国に結界張り続けていた訳だし。
普通の運用をしていたら魔力なんて尽きない。
だからシルヴィの言う通り、身軽な分こっちの方が良い。
そんな訳でこのまま出発だ。
私達はそんな身軽な持ち物と格好で都市の外へと出る。
……うん、ほんと身軽な格好だね改めて考えると。
全員服装が動きやすい私服って感じで、武器も防具も誰一人持ってない。
端から見たら普通にアウトドアを楽しみに行くような格好なんだよね。
山登りっていう事を考えると、それにしたって軽装すぎるんだけど。
俗に言う山を舐めてるって奴だ。
ついでにドラゴンも。
まあ山の自然環境よりもドラゴンよりも私達の方が強いんで、大丈夫なんだけど。
……最悪自然環境に負けそうなら転移魔術で一旦戻ろう。
多分大丈夫だけど。
「……それにしても結構距離あるみたいですね。徒歩で半日程掛かりそう。依頼事態をササって終らせても1日仕事になりますねこれ」
「普通に移動したらね」
シルヴィの言う通り目的地までは中々の距離があるわけだけど、どうやら道中の魔物が中々強いらしく、馬車などを出してくれる業者は殆どいないみたいだった。
あっても無茶苦茶高いからオススメしないってシズクが言ってた。
だから借りなかった訳だけど……歩こうとは思わない。
「リュウ君よろしく!」
私がポンと手を叩くと魔方陣が出現。
そうするとリュウ君が来てくれる。
「へーこれが言ってた飛竜のリュウ君か。カッコいいな」
「でしょ?」
と、ステラに誉められたのが嬉しかったかもしれない。
カッコいいだけじゃなく可愛いリュウ君は、ステラにも懐いたらしくじゃれつく。
「あはは。暴れん坊だなリュウ君は」
うん、私達じゃなきゃ死んじゃうなこのじゃれ尽き方。
昨日シルヴィにもやってたし、リュウ君多分懐いた相手皆にこれするから……流石にその癖は直しておいた方が良いかもしれない。
この先普通の友達が出来たら……殺人事件が起きちゃう。
「ねえ、リュウ君。私達三人を乗せて飛べる?」
私がそう問いかけると、リュウ君は余裕というように頷く。
「さっすがぁ!」
言いながらリュウ君を撫でるとリュウ君は私にもじゃれつく。
うん、この癖直した方が良いんだけど……こういう所も可愛いんだよなぁリュウ君。
「さ、そんな訳だからリュウ君の背中に乗って。山の近くまで連れてってもらおう」
「近く……いや、乗せてって貰うから文句とかじゃねえんだけど、どうせなら目的地まで乗せてって貰えばいいんじゃねえのか?」
「それは駄目」
それだけは絶対に駄目だ。
「いい? 目的地に近付けば近付く程危険は増す。もしリュウ君に乗ってそんな所に近付いて……リュウ君が怪我でもしたらどうするの!」
そんな可愛そうなの私は無理!
「過保護だぁ……」
「リュウ君全然余裕だよって顔してますよ」
「いや確かにしてるけど……でも駄目だから!」
「……大切に育てられてんなぁ」
「召喚獣の飛竜を此処まで過保護に育ててる人って中々いないんじゃないですかね……」
「だから此処まで人懐っこいんだろうな」
「まあとにかく近くまではリュウ君に乗せてって貰おう。近くまでね……あ、リュウ君。もし途中で何か有っても私が全力で守るから!」
「……ま、大切にするのは悪いことじゃねえし。何かあったら手伝うよ」
「わ、私も!」
「ありがと。じゃあ乗って。出発するよ!」
そうして私達がリュウ君の背中に乗ると、リュウ君は勢いよくその場から飛び立つ。
……さあ、私達の冒険者としての初仕事だ。
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