最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。
山外大河
一章 聖女さん、追放されたので冒険者を始めます。
1 聖女さん、馬鹿で無能な王様に追放される事になりました。
「以上の理由を持ってお前の聖女の任を解き、国外追放とする!」
「はぁ……まあ分かりましたけど」
3時のおやつを食べていた所で突然王から呼び出された私、アンナ・ベルナールは聖女の身では無くなって国外へ追放される事になった。
正直うんざりする程長かった王の話を纏めると、私の聖女としての仕事に致命的な穴がいくつも見つかったらしく、私はその責任を取らなければならなくなった感じらしい。
……まあ読み上げられた事の全てが、完全に私を聖女から降ろして、自分の好みの女をそのポストに置く為の嘘に塗れた物だったのだけれど。
「な、なんだその態度はお前!」
「……」
いや、そんな態度にもなりますよ。
この馬鹿こそどんな態度を取っているのか分かっているのだろうか?
自分が現在進行形で何をやらかしているのかを分かっているのだろうか?
私が聖女を止めればこの国は滅ぶ。
間違いない。確定事項なのだから。
この国は聖女の張る結界によって、外の魔物の侵入を防いでいる。
その結界を張れる聖女になれるのは、魔術を極めていてかつ聖属性の魔術を扱う特性がある者だけ。
現状、この国でその条件を満たしているのは私だけの筈だ。
この馬鹿が私の代わりに用意した女も、聖属性の魔術を使えるが力は私に遠く及ばない。
原石だ。磨かれる前に国が滅ぶ。
そもそも時間があっても磨ききれる保証もない。
だからこそ目の前の馬鹿の御父上……前の王様は、森で一人で魔術研究をして暮らしていた私に直接土下座までして頼みに来たんだ。
前の聖女が急病で亡くなり、原石もうまく磨けない。
そんなこのまま手を打たなければ滅亡寸前という状況を打開する為に、プライドを捨てて頼みに来たんだ。
だから流石に断れず私は今日まで三年間。
15の時から三年間この国の聖女を務めてきた。
流石にそこまでされれば、ちょっと頑張ってみようと思えたから。
だけど前の王様が病気で亡くなって王に即位したこの馬鹿はというと、まあ本当に馬鹿で……とにかく馬鹿なのだ。
前の王様とは違い、既に様変わりした側近たちも含めて皆が聖女という国の防衛の要となる役割を軽く見ている。
だからこんな結果になっているんだ。
「おい何か言ったらどうだ!」
目の前で馬鹿が頭に血を登らせてそんな事を言っているが、もうさっさとこの場を離れたい。
馬鹿を見ていると頭が痛くなる。
……だけど、少なくとも目の前の馬鹿の御父上には良くして貰ったから。
……その恩位は返しておこうと思う。
「えーっと、国王様。あなたの御父上にはとてもお世話になったので、一度だけ言いますよ。考え直しませんか?」
「あ?」
「あなたが私を聖女の座から降ろしたいのは理由を含めて良く分かります。ですがあまり公私混同が過ぎるといずれご自身の身を滅ぼしますよ? だから……やっぱり私を追放するの、止めておきませんか?」
最後にチャンスを与える事にした。
私にはもうこの馬鹿の元で働く為のモチベーションは無いに等しい。
だけど此処に立っている経緯が経緯だから。
もし今までの話を無かった事にすれば、一応これからもこの国の聖女をやって行こうと思う。
……だけど。
「う、うるせえ俺に指図するな! この国の王は俺だ! 俺が絶対なんだよ!」
「あーそうですか。じゃあ今の提案は無かったという事で。お望み通り出ていきますよ私は」
そう言って礼の一つもする気が起きなかったので、私は踵を返す。
「ああさっさと出ていけ! 今日中だぞ! 一刻も早くこの国から出ていけ!」
「うるさいな。言われなくても分かってるよ馬鹿王様」
「……ッ!」
王様は声にならない声を上げた後、私の後方で叫び散らしていた。
……だけどそれだけ。
……此処まで一国の王に対して取るべきではない態度を取っているのに、武力行使の一つもしてこない。
……流石のあの馬鹿でも分かっているんだ。
この場に居る全員で私に襲い掛かったとしても返り討ちに会うと。
そしてあの馬鹿は分かっていない。
それだけの力が無いと聖女なんて務まらないと。
……まあ、説明しても理解しないだろうけど。
とにかくこの日私は聖女をクビになり、国外追放される事になった。
……さて、これから何をして生きていこうか。
どこかでまた魔術の研究をするというのもありだけど、正直聖女の業務をやりながらも普通にできた事を考えると、研究以外の何かをするのも良いかもしれない。
特に聖女のように、研究成果を試せるような何か。
……そうだ、冒険者にでもなろうか。
それで気ままに生きてみるというのもアリだろう。
うん、ありだ。そうしよう。
そうして私はかなり軽い気持ちで聖女の次の仕事を冒険者へと定めたのだった。
そしてこの時の私は知らない。
……まさか殆ど同じような境遇の連中が私を含めて四人も集まり最強の聖女パーティーを組むことになるとは。
知る訳が無い。
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