第80話『そのまんま……南』
銀河太平記・068
『そのまんま……南』 加藤 恵
そのまんま……南と書いてある。
「えと……方角表示?」
「うん、かな?」
氷室に連れられてやってきたエリアの入り口には、古い車のボンネットの看板が立っていて、達筆だけど、ペンキで書いただけの『南』の表示があるだけだ。
「昔は地磁気が狂って方角も分からなくなることがあって、島には東西南北の標識があるだけだったらしい」
『島の者同士が出会ったら、「おれは東」とか「ボクは南」とか言って、区別していたんだ。今じゃ、それらしい地名を付けてるよ。今でも方角の表示で通してるのは、うちだけですよ』
グラグラ
制御が効いていない上半身を揺らせながらニッパチが補足する。
「みんな、顔を出しなさい。新しい仲間連れて来たから」
氷室が声を掛けると、あちこちから、いろいろ現れた。
人間 ロボット 作業機械 ヒュ-マノイド などなど。
「ヒムロ、そいつはなんだ?」
「言ったろ、新しい仲間だ。ハナから詮索するもんじゃないぞ」
「いまのはギャグだ、みんな笑え!」
アハハハハハ ワハハハハ
「いまの笑いを強要したのがシゲ。きみに興味を示したのがハナ、いちおう女の子だから。あとのは、おいおい憶えていってくれればいい。みんな、この子はメグミだ。さっきニッパチが故障したのを直してくれた」
グラグラ
「ええ、ニッパチ、壊れたままだぞ」
「だな、まだグニャグニャじゃねえか」
『さっきは身動きもできなかった、上半身の駆動系を下半身に回してくれたから帰ってこれたよ』
「メグミが直したのか?」
「うん、応急処置。ファクトリーに連れてってくれたら、きちんとやり直すよ」
「あとで案内するよ。ヒムロ、マイドは?」
「その様子だと見つけられなかったか……ま、ステルスが取り柄のボートだからな」
「シゲ、お頭に、例のことを」
後ろの方で声が上がる。氷室はお頭と呼ばれることもあるらしい。
「なんだ、いい話かい?」
「さっき、B鉱区でパルスガが見つかったんです!」
「え、パルスガ鉱床が!?」
わたしも驚いた。パルスガと言えばパルス鉱石のなかでも最上級で、昔は自然界には存在しないと云われていた。
「いいえ、テニスボールくらいの大きさですが、純度の高い単体鉱石です」
「そうか、まだ可能性の段階だけど、希望は持てるね」
「ヒムロ、宴会にしようよ!」
「ハナ、先々週もやったとこだぞ」
「あれは、水泳大会記念だったじゃないか!」
「酒が飲めるならいいぞ」
「景気づけだ!」
「やろうやろう!」
「ハハ、分かった分かった。じゃ、メグミの歓迎会も兼ねるということで」
「酒のストックが足りませ~ん」
「じゃ、ひとり500までだ」
「500ぽっちすかあ?」
「飲めるだけでも喜べ」
オオー!!
なんだか分からないけど、いろいろ理屈をつけては宴会をやりたがるところらしいということは分かった(^_^;)
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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