第30話『修学旅行・18・陛下のお気持ち』


銀河太平記・018


『修学旅行・18・陛下のお気持ち』大石一   






 ダッシュ、おまえがまとめるとメチャクチャになりそうだから、僕がやるよ。


 そう言って、ヒコは自分のインタフェイスを広げた。




 陛下は、こういう意味の事をおっしゃったと、我々は理解している。




 陛下を襲った人たちにも理屈がある。


 むろん暴力に訴えることは間違っているが、あの人たちの理屈に耳を傾けることは必要なことだと思う。


 あの人たちは、陛下個人に恨みがあるわけでは無い。


 陛下が天皇であることに異議を唱えている。


 二十五年前、陛下は先帝が崩御された時に政府と国民の総意を受け、先年改正された皇室典範に則って皇位に就かれた。二千有余年の皇室の歴史始まって以来の女性天皇だ。


 先帝のお子には今上陛下である和子内親王殿下しかおられなかった。


 改正前の皇室典範では男系の家系を遡って、五代前に分かれた森ノ宮家からお迎えしなければならなかったが、すでに百年以上昔に枝分かれした家系で、国民の馴染みも薄く、先帝が広く国民に敬愛されていたことも鑑みて、国民の総意を汲み、皇室典範を改正して和子内親王殿下が131代目の皇位に就かれた。


 しかし、それは二千有余年の皇室の歴史から踏み外したもので、正しい森ノ宮家の皇位に戻さなければならない。


 彼らが言う正しい皇統に戻すことによって、日本の平和と繁栄がもたらされる。


 彼らの、行動の基礎には日本と皇室の弥栄(いやさか)を思う気持ちが潜んでいるので、そこは汲み取らなければならない。


 その上で暴力に訴えるという手段をとったことは非難され、取り締まられることは仕方がない。


 そして、国民の総意と皇室典範に則った現在の皇室は正統なものであると締めくくられた。




 以上が、三十分にわたって漏らされた陛下のお言葉を我々の心で理解したことである。




ダッシュ:「なんだか、固くねえか、ヒコ」


ミク:「うん、もっと優しくおっしゃった気がする。それに、もっと御熱心にお聞きになったことがあるじゃない」


ダッシュ:「あ、将軍の事な」


ミク:「『たけくん、お元気?』って聞かれた時には驚いた」


ヒコ:「竹千代ってのが将軍の幼名だって気づくのに五秒ほどかかったな」


ミク:「子どものころに将軍が日本留学してたことは知ってたけど、陛下と同窓生だってのは知らなかった」


テル:「将軍、出べそだったあ(^▽^)/」


ダッシュ:「早食い競争の決着がついてないのは笑えたな(*∇⌒)」


ヒコ:「チャンスがあったら再試合しますって聞いたら、子どもみたいな笑顔で『うん!』ておっしゃってたなあ」


ミク:「このことは書かないの?」


テル:「書けるわけないわさ」


ダッシュ:「なんでさ、テル?」


テル:「らって、あそこに陛下の本音がありゅから……」


ミク:「本音?」


ヒコ:「陛下は将軍に会いたがっておいでなんだ」


ダッシュ:「ああ……だったら余計に」


ヒコ:「これは記録には残せない、チャンスがあったら、直接将軍にお伝えしよう」


ダッシュ:「あ、ああ」


 そこまで書いて、陛下と元帥と六人で撮った写真を添えてヒコはインタフェイスを閉じた。




 ちょうど、そのタイミングで車寄せに元帥の車がやってきて、俺たちは皇居をあとにした。


 車窓から振り返ると長和殿の屋根に陽が落ち始めて、あたりを温もりの秋色に染めていた。




 


 ※ この章の主な登場人物


大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い


穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子


緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた


平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女


 ※ 事項


扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる


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