第2話

 


「た、確かに俺はガキだけどな! ガキが好きな変態はたくさんいるんだぞ! …俺は高すぎて売れなかったけど! それに一応ちゃんと性奴隷の教育も受けてるし!!」

「…それ胸張って言うことか? ……性奴隷の教育って…学問は教わらないのにそーゆーことはちゃんと教えるのかよアバロン大陸は」


 そう。

 …と、確かに胸を張って言うには物悲しい事かも。

 でも仕方ない。

 奴隷ってそーゆーもん。

 例えば成長過程ですでにガタイがいいやつは、割とすぐ肉体労働用として鍛えられ始めたりもする。

 女は大体、物心ついたら性教育っていうのが始まるんだって。

 …と、言うと嫌な顔される。


「…考えられん。子供はみんなで守るもんだろーに」

「? みんなで守る?」

「バルニアン大陸ではそういうもんだ。子供は次の世代を作っていく。…そんな頃から消耗品のように扱われるなんて…野蛮な…」

「…ふーん…」


 そういうのは平民様とか金持ちとかの仕事だけど思ってた。

 まあ、アバロンはそんな感じで性にゆるゆるだからな。

 赤ん坊なんてわんさこ生まれる。

 娼婦は基本次の奴隷を産むために去勢されないって聞くし。


「ふーんってお前…。大体そんな変態が多いって堂々と言うけどよ、お前だってそれなりに怖い思いはしただろう? …ラズーで…」

「あ、うん」


 あの変態兄貴か。

 あれは怖かった。


「…あっけらかんしてやがるな…」

「…うーん、まぁ。…痛いのは嫌だけど…見慣れてるから諦めもついてるんだと思う」

「!」

「…諦めて…たんたけど。…でもあの時、ヨナとフレデリック様が助けに来てくれる気がしてたからそこまで怖くなかった。って言ったじゃん」

「………。ああ」


 前にヨナが「奴隷根性」って言ってたけど、多分そーゆーもん。

 俺は俺が奴隷として死ぬって分かってたから…。

 ああ、でも…俺は今飛行機に乗ってるんだよな…?

 夢が叶ってるんだよな?

 俺、奴隷だったのに…飛行機に…!


「……(観念付いてたってか…こんなガキが…! …成る程、変に達観してる感じはそのせいか)……ハクラ」

「うん?」

「今までがどうであれ、お前はもうアルバニスの民だ。自分を軽んじていい命と思うなよ」

「…うん」


 ヨナ…。

 やっぱりジョナサン…王子様なんだなー…えへへ。


「というか色気云々を語るなら、せめて俺様くらいの色気は出せるようにならねーとなぁ?」

「うぐう!」


 ジョナサンは上半身裸!

 また裸!

 下半身はシーツにくるまっているけれど!

 艶やかな純白のシーツからも分かる脚のライン。

 バッキバキの腹と逞しい肩と二の腕!

 フレデリック様とはタイプの違う野性味溢れる整った顔!

 風呂上がりで手入れもそこそこのワイルドな感じに見えなくもない髪!

 く、悔しいが…奴の下半身にぶら下がる凶器も見ているし…こ、これが男の色気…。


「ヨナってほんと外見詐欺だよなー!」

「心の底からうっせぇわ。あとそれ俺だけじゃねーだろ。フレディもお前もそうだろう」

「俺は外見詐欺じゃねーだろ」

「もっかい鏡見てみ。お前見ようによっては割と儚い系で通るからな?」

「は? 俺のどこがだよ」

「だから外見の話だっつーの」


 見ようによってはって付け足してるくせに、何言ってんだか。

 なんだよそもそもはかない系って。

 …はかないってなんだ?


「…はかない系ってなに? ズボンとか下着はかない系?」


 ヨナの事じゃん。


「ひでぇな! ただの露出狂じゃねーか! ちっげーよ、なんつーか、幸薄そうで今にも消え去りそうな美しい感じって意味だ!」

「それが俺ぇ⁉︎ んなはははははははは‼︎‼︎」

「見た目の話だっつってんだろーが! お前黙ってればそういう系に見えるって事だ!」


 あー、やっぱヨナと一緒は気が楽だなー。

 癒される〜。

 ヨナこそ、こんな見た目で癒し系って、笑えるー!

 今日一日半分くらい奴隷として扱われてたからかな…ほんと、すっげー、安心する…ありがとう、ヨナ…。







 ********




 そして、翌日だ。

 俺とヨナはおかげさまで割とぐっすり寝られたんだけど…。

 機内最後の食事にはよくよく注意しろ、って二人に言われていたのも相俟って生きた心地のしない…この時…そう、朝食が遂に運ばれてきた。

 ついでに言うとほぼ二徹のフレデリック様の顔!

 笑顔が張り付きすぎててちょーーコエェー!


「毒は入ってないよ。媚薬は入ってるけど! なーんてね〜! あっはっはっはっはっ」

「ははは…」


 なんか笑えねぇ冗談言ってるし…!


「冗談はともかく、本当に何にも入ってないよ。君たちに何か盛っても効果なさそうだしね」


 フレデリック様たちはそうさ。

 でも俺は…。


「…なんか随分くどくどと弁解してるな…? 逆に怪しいぜ?」

「えー、だって昨日フレデリック王子が「朝ごはんはいらない」って言うからそれ警戒してるのかなぁって」


 え、フレデリック様…予防線貼っといてくれたの…。


「ですから、それは貴国の民が食べているものに興味があるので、と前置きしたはずです」

「民草の食べ物なんてお客人に食べさせられないって言ったじゃなーい」

「我々はアバロンの民の生活も視察の目的なのですと言ったと思いますが」

「ベルゼルトンが戦争中だから常時ではないんだよって言ったよ〜?」


 …き、昨日から同じ討論繰り広げてたのか…。


「とにかく用意しちゃったんだから食べてよ〜。疑われるのは仕方ないけど、そこは信頼してもらわないと」

「別に毒を警戒していたわけではありませんよ」


 …二カ国の信頼のアレコレ…的な話にされるとフレデリック様も断れないだろうし…。

 ここは俺が体張るしかねぇ!


「えと、じゃあ頂きます!」

「は⁉︎ お、おい!」


 奴隷のままの俺ならご主人様より先に食べるなんてありえないけど、こう言う場合は話が別だ!

 毒見役!

 奴隷本来のあり方!

 モグモグモグ…って、うん…。


「ん、んんんん〜〜…」

「…なんで幸せそうな顔なんだよ…」


 んっ〜〜ま〜〜〜〜い…。

 昨日から思ってたけどグリーブトの料理って味が濃厚でうんま〜〜いっ!

 今日のビーフシチューってやつもうんま〜〜いっ!


「………。頂きますよ、ジョナサン」

「…あ、ああ…」

「はーい、じゃあ僕もいただくよ〜」


 ……警戒していたけど、食事は滞りなく終了。

 あんまり楽しめなかったけど、空の旅も終了…かぁ。

 でも着陸の衝撃は面白かった!


「ステーション内で待ってておくれよ。国内を自由に行動して良いという証明書、頼んどいたからできてると思うんだよね。持って来させるよ」

「よろしくお願いします」


 あ、そういえばそんな約束もしてたんだっけ…。


 …っていうか…。


「寒…⁉︎」

「なにが?」

「いや、寒いぞ⁉︎ ここ!」

「そう?」


 降りた途端吹雪!

 …ん? 吹雪?

 …吹雪!


「ゆ、雪だーーー!」

「いきなり⁉︎」


 昇降階段を飛び降りて飛行場を走り回る。

 吹雪ってことは雪ってことだろ!

 フレデリック様に氷は見せてもらったけど、俺雪って初めて見る!

 小さい白い粒が風でめっちゃ暴れてる!

 すげぇ! 向こう側全然見えねぇ!

 これが雪!

 これが吹雪!


「…いきなり元気だなあいつ。やっぱり飯にはなにも…」

「即効性ではないのかもしれない。まだ油断はできない、が…その前に…ハクラ! そんな格好で動き回るんじゃない! 君は人間なんだから風邪を引くよ⁉︎」

「わー! 雪ー! …つっめてぇぇー! ヒャアッホー!」

「…なんだあのテンション…」




 んで。




「…ガタガタガタガタ…は、歯、歯の根が合わ、合わ、合わな…」

「バカだバカだとは思ってたけどお前本物だな…。ほれ、ちゃんと着込めバカ!」

「も、申し訳ないリーバル王子…彼は南海育ちなので雪を見てはしゃいでしまったらしくて…」

「あー、いーよいーよ、ラズ・パスの姫もグリーブトに来て一番最初にやったのは雪の中で走り回ることだったから。ラズ・パスの人には珍しいみたいだもんね」


 ま、マジか…。

 あううう、体の震えが止まらんねぇえぇぇぇ…。

 ステーションの中はやっぱり豪華な作り出し、外の空気が入らないような、ラズ・パスでは見たこともない構造の建物だけど…体の芯まで冷え切った俺はストーブの前に連れて来られてもまだ震えが止まらない。

 リーバル王子に暖かい飲み物と厚手のブランケットを借りて羽織ってもまだダメだ。

 うう、本当にバカこいた…。


「グリーブトは北海の火山島って呼ばれててね、火山帯なんだけどとても雪深くて寒いんだ。山が多いせいで海からの暖かい空気が全部遮断されてしまうせいなんだって。万年雪がそこらじゅうに積もっているから滑りやすいしね〜。だからラズ・パスから来た人は大体港町とか、ベルゼルトンの国境で装備を整えるんだよぅ」

「な、なるほど。装備は盲点だったな…」

「寒い寒いとは聞いてたけどな」


 あううう、さ、さ、寒い…寒い〜。

 話があんまり頭に入ってこないぃ…。

 せっかく面白そうな話ししてるのにぃ。


「一応ここの建物は軍の施設に該当するから、お店は趣向品しか売ってないんだよね〜。服屋さんなら麓の町にあると思うから、なにか買って来させるよ。三人ともそんな格好で出歩いたら一時間もしないうちに凍死するよ〜」

「………。申し訳ない…お願いします」

「あーでも、ジョナサン王子は凄い体格だしむしろ軍人用の方がサイズあるかなぁ?」


 ね、と付き人や多分施設の…軍人に話しかけるリーバル王子。

 周りの人間はその一言で慌てて軍人用の服を見繕いに走る。

 …まあ、ラズ・パスのクソ体格のいい漁師の服すら破けたヨナには軍人用くらいじゃないとダメなのかも…。

 っていうかこの飲み物うんめぇぇ!

 なにこれ⁉︎


「大丈夫かい、ハクラ」

「…こ、これおいしい…」

「まさかの食い気優先」

「だ、だって!」

「おかわりあるよ」

「……。ところでリーバル王子、麓の町に、と先ほど仰っていたけれど、ここはグリーブトのどの辺りなんですか?」

「ここ? ここはね〜、アフォール山っていうベルゼルトンとの国境に一番近い山! 港町も近いけど、首都からは遠いかな。僕は燃料の補給が終わったらここから首都までまた飛ぶけど…フレデリック王子たちは山に行きたいんでしょう? どの山かわからないけど、行きたい山に送って差し上げるよ」

「…いえ、ここで結構です。アフォール山…ここも火山ですね」

「うん、ここアフォール基地は中腹にあるから…火口はもっと上だね〜。でもここ休火山のはずだよ〜? それでもいいのー?」

「火山であることが重要なので、火山であればどこでもいいんですよ。助かりました、感謝します」

「それならいいけど…」


 そこへ軍人用のコートや装備を持って来た軍人の偉い人っぽい人。

 さすがにガチの軍人装備は頂けないっぽいが、コートくらいなら、と軍人の証の国旗を模したアップリケは取られて手渡された。

 渡されたからには、と着てみるヨナ。

 おお、似合う。

 じゃ、なくて、ヨナでもバッチリ着られてる!


「コートは一応軍用だから、国から出るとき処分するか近場の軍事施設に返してくれると助かるな〜。それと、一応僕の連絡先渡しておくね」

「?」

「あれ、アルバニス王国には電話ないの?」

「でん…?」

「ないの⁉︎」


 アバロン大陸より科学は進んでるみたいなこと言ってたからあるんだとばかり思ってた!

 ってかくいう俺も電話は使ったことないんだけどさ!

 主人…ボルネの家にもあったぞ⁉︎


「どんなのなんだ?」

「本当にないのぉ? 電話っていうのは細い線で電話機っていうのを繋いで、遠くの相手と話せる機械だよー」

「線? 有線ということですか?」

「そうそう。ほとんどは地面に線、ケーブルが埋まってるけどね〜」

「…ふぅん」

「二人の国は?」

「んー、まぁ、俺らの国にはそーゆーのはねぇな…」


 …?

 なんだろう、いつもなら二人の国のことも教えてくれるのに…?


「とりあえず民家には必ず一台普及してるからもしもの時は借りて使えばいいよ。ほい、僕の連絡先」

「分かりました。では頂いておきますね」

「ふ、ふぇ、ふぇっ…ぶぇっくしっ!」

「ふあ⁉︎」


 う う う う !

 さ、寒い!

 体ガタガタブルブル止まらないぃ。


「もしかして風邪ひいたんじゃないの? 今夜はここに泊まって、明日下山したら?」

「え、ここ軍事施設なんですよね? 泊まれるのですか?」

「泊まれるのは助かるけど…出来れば今日中に町に行っておきてぇつーか…」

「そ、そうだな…」

「そーお? でも体調の悪い子連れて素人が雪山下山って相当リスキーよ〜?」

「…いや、まあ…」

「………。いや、泊まれるのであればお願いしたいんですが」

「フレデリック⁉︎」

「構わない、火口には僕一人で行くよ」

「…くっ」


 …そ、そういえば本来の目的は火山の火口から龍脈を探すことだっけ…。

 ここが中腹なら、下山じゃなくて登頂か…。


「俺も行ってみた…ぶぇっくしっ!」

「お前はダメだろ南国育ち!」


 南国育ちだからこそなのにー!

 リーバル王子が軍人の偉い人に手配を依頼してから数分。

 俺たちの部屋を用意してもらえることになった。

 なんか、メッチャセクハラに悩まされたけどリーバル王子には世話になりっぱなしだな…。

 変態って勝手に決めつけててごめんなさい!


「フレデリック王子とハクラくん用の服も午後には届くだろうし、ゆっくり雪山の景色でも楽しんでよ。吹雪もそう長く続かないだろーしねぇ」

「服の件もありましたね…色々と申し訳ない。感謝します」

「気にしないで。売れる媚は売っておくタチなの、僕。おたくらとは良好な関係を続けたいしね〜」

「…そうですね、こちらとしてもそうあればとは思いますよ」


 にこり。

 仮面の笑顔だ、フレデリック様。

 …もしかして、俺のせいでフレデリック様に余計な事させちまったんじゃ…。


「まあ、それを継続するにしてもおたくらは奴隷制度の廃止が絶対条件なんでしょう? これは困るよねー、国内から反発必須だもーん。労働力は奴隷で賄われてるから、国内が大混乱しちゃうよ〜、現実問題としてさぁ」

「もちろん貴国だけでなく、各国そうなのでしょう。ただ、我々も国に色々と仕事を残していますから、のんびりもしていられない。こちらで成すべき事を成したら早急に帰らなければ」

「そりゃ僕も王族の端くれだからね〜、それは分かるけど。…どちらにしても僕一人じゃ決められないし〜。フレデリック王子が僕のパパに会ってくれると手っ取り早いんだけどな〜」

「…申し訳ないんですが、ニーバーナ王の件が決着したら一度帰国します。もし、継続して交渉するのであればやはり奴隷制度を三国が廃止してからですね。それが達成された暁にはこちらからお伺いしますよ」

「うーん…まぁ、話はしてみるけどねぇ〜。…うちの国はともかくベルゼルトンは内戦中だから、かなり難しいだろうな〜」


 なんか…本当に二人の話が頭に入ってこねぇ。

 ぼんやりしてきたな…なんだろ、体寒いままなのに、顔はなんか暑い…。


「……ちょっと横んなれ」

「んん〜〜…」

「…え、ハクラ本当に大丈夫かい?」

「ダメだこりゃ、早くも熱が出やがったな」

「…昨日から飛行機飛行機でテンション高かったし…地上に降りて気も緩んだんのかもね」


 飛行機…飛行機〜…。

 あんまり楽しめなかったけど、そうだよ、俺飛行機に乗ったんだよ…うへへへへ。

 俺って幸せだなぁ…飛行機には乗れるし、ご飯は美味しいし…。


「キモ…なんか顔笑ってんだけど、こいつ…」

「部屋の準備ができたみたいだよ。一応軍医も常駐してるから診てもらうといい。…僕はずーっと警戒されてて笑いかけてもらう機会が少なかったから可愛いと思うけどな〜」

「触んな」

(ヨナの膝枕…ハクラが羨ましいような…でも絶対硬いだろうし、やっぱり羨ましくないような…お兄ちゃん複雑…)



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