「俺を……」
「麗華!!」
麗華がドアを開けてしまった事が分かり、麗羅は慌てて呼び、無理やりドアを閉めた。
「ちょっとぉ〜、何すんのさぁ」
「何すんのさぁ、じゃないよ!! 勝手に開けたらダメだって!」
「そんなのわかんないじゃなぁい。それに、こうやって人が来ているにもかかわらず出てこないのもどうなのぉ?」
麗華の言葉はあながち間違えていないため、麗羅は困ったように眉を顰めドアを背中で抑える。すると、ドアノブがカチャカチャと音を立て始めた。
「あれ、もしかして今ので……」
麗華と麗羅はその場から下がりドアが開くのを待った。すると、ぎぎぎ……という音を鳴らしながらゆっくりとドアが開く。そこには、美少年であるカクリが無表情で立っていた。
「え、子供?」
「なんで……、こんな小さい子供がこんな所に……」
三人はいきなり出てきたカクリに驚き、困惑の表情を浮かべる。
「依頼人かい? すまないが今回だけは帰って欲しい」
カクリの鈴のような声を聞き、三人は一瞬固まってしまった。だが、すぐに気を取り直し、静空が一歩前に出て問いかける。
「君はなんでこんな所にいるの? ここは君が管理してる訳じゃないよね? ここの管理者……って言ってもわかんないかな……」
カクリを小学生と思っており、もっとわかりやすい言葉で聞こうと言葉を探す。だが、思いつくより先にカクリが口を開き焦り口調で言った。
「私の事を子供だと見るのは自由だが、今は君達に構っている余裕は──」
カクリが説明しようとした瞬間、少ししか開いていなかったドアが完全に開かれる。そこには、いつも依頼人に向ける、優しげな微笑みを浮かべた明人が立っていた。
「あきっ……」
明人の名前を呼ぼうとした時、彼がカクリの口を塞ぐ。そして、優しい微笑みを浮かべながら三人に謝罪し、ソファーに手を添え促した。
「出迎えが遅れてしまって申し訳ございません。では、ソファーに座っていただけますか?」
明人の優しい雰囲気に、先程まで不安そうだった三人の表情が少し柔らかくなった。そして、言われた通りにソファーに座る。
三人並ぶと荷物を置く場所がなくなり、床に鞄などを置いた。麗華はわざわざ携帯を取り出し握っている。
三人が座った事を確認し、明人はいつものように木のイスに座り、話を聞く体勢を作った。
「では、貴方達はなぜここに来られたのですか?」
「何故……」
明人の質問に三人は戸惑いを見せた。理由は特になく、なんと言えばいいかわからない。
「もしかして、噂を確認するためだけにここに来られたのでしょうか?」
────ぎくっ
三人は図星を突かれ肩を振るわせたが、彼は変わらない笑顔で話を続けた。
「そのような方は結構いるので気にしなくて大丈夫ですよ。それに、辿り着ける方は限られています。ここに辿り着いたという事は──」
話している途中、明人はいきなり顔を俯かせた。声も徐々に小さくなっていき、後半は何を言っているのか聞き取る事が出来ないほど小さくなってしまった。微かに苦し気な息遣いが聞こえる。
「あの、なんて──」
「では、今回はこの辺で一度お帰りください。また、ここを思い出した時にでも来て頂けたらかと、思います」
麗羅の言葉を最後まで聞かず、明人は顔を俯かせながらドアの方に歩き開けた。三人は困惑の表情を浮かべ、理解が出来ずすぐに動けない。お互いの顔を見合わせていた。
「今の貴方達にはまだ、必要が無いと思います。また困った時にでも……」
微笑みを絶やさない明人だったが、いつもより急かしている様子だ。
「早く帰るといい。今ここにいても意味は無い」
カクリもなぜか焦っており、早く帰るように促す。
二人にそう言われては帰るしかないと思い、三人は自身の鞄を持ちドアの外へと出た。
三人が出たタイミングで、ドアは音を出し閉められる。その場で立ち尽くしていた三人は顔を見合わせた。
「噂は本当だった……で、いいのかなぁ?」
「じゃない、かな」
「うん……」
三人はそのまま林の外に出ていった。
☆
「明人!!」
カクリは慌てた様子で明人へと駆け寄った。
依頼人を外に出しドアを閉めた瞬間、明人はその場から崩れ膝を着いてしまっていた。汗が滲み出て、肩の痛みが酷く強く抑えている。
「くそっ、なんなんだ……」
「明人よ、一回ソファーで――」
カクリが明人に触れようとした瞬間。
────バチン
「なっ!?」
カクリの手が弾かれてしまった。明人は変わらず顔を歪め、痛みに耐えている。
「カ……クリ……、俺……をっ……」
何とか絞り出した言葉は最後まで続かず、痛みに耐えきれず気を失ってしまった。
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